001 朝チュンした娘は女神様!?
チュンチュンチチチ
小鳥のさえずり。
窓から差し込む陽光。
んんー?
朝かぁ?
顔に当たる眩しい光から逃げるように寝返りを打った時、思い出したように頭が痛んだ。
ぐぬぬ。
頭痛ぇ~。
昨日は調子に乗って飲みすぎちまったからなぁ。
……起きるのめんどくさい。
今日は自主休講ってことにしよう。
あ、ダメだ。
出席が足りてないんだった。
俺は目を閉じたまま仕方なく身を起こそうとした。
だが、その手に柔らかいものが触れる。
んぁー?
酔っ払って、買った肉まんごとベッドインしたっけー?
ズキンズキンと無闇に痛む頭を覚醒しようと努めながら、ショボショボした目を渋々開ける。
しかし、俺の目は一瞬で最大まで開かれることとなった。
あれ!?
えぇ!?
なにこれ!?
女体!?
あっ、でも柔らかい!
俺が掴んでいた肉まんは、滑らかすぎる陶磁器のような色白のおっぱいだったのだ。
しかも全裸だよこの子!
ついでに俺も全裸!
ってか誰だこれ!?
いや、待って!
すっごい可愛い子なんですけど!
その女性、いや、まだ少女と言ってもいいくらいの女の子は輝くような長い金髪をベッドに広げている。
俺は自分の頭がおかしくなったのかと思った。
もしくはまだ夢の中にいるのか、だな。
待て待て!
まだ慌てるような時間じゃない。
落ち着いて思い出すんだ。
俺は火神秋人、日本人でしがない学生。
ここは俺が借りている8畳のワンルーム。
場所は東京。
うむ、間違いない。
頭は痛むが、腐ってはいないらしい。
んで、昨日はどうしてたっけ……
えーと、そうだ。
大学の連れたちに飲み屋へ強制連行されたんだった。
そうだそうだ。
合コンやるから行こうぜとか言って誘って来た癖に、女の子は誰一人来ないと言う最悪の展開でさ。
結局男だらけで寂しく飲んでたんだ。
畜生。
あのホラ吹き野郎は後でブッ飛ばさねばなるまい。
そんで、やけっぱち気味に飲んでたら……
なんでか知らない女の子グループと一緒に飲むことになったんだよな。
なんでだっけ?
わからん!
まぁ、いいか。
そのあと、話の流れかなんかで飲み比べになったんだよな。
周りの連中がバタバタとダウンしていくなかで、俺とこの子の一騎討ちになっちまった。
俺も意地で飲んでて……
あれっ!?
その後どうしたのか、さっぱり思い出せない。
でも、結果はここに出てるわけでして。
全裸の男女がベッドインしてたら、やることはひとつだよな。
うわー、モテない俺に女の子を部屋に連れ込むような甲斐性があったなんてなぁ。
自分でもびっくりだよ。
しかも、こーんな可愛い外人さんとだよ?
何にも覚えてないのが悔しすぎる。
昨日の俺よ、うらやましいぞ!
……そうか、覚えてないならもう一回すればいいんじゃね?
一回も二回も変わらんだろう。
よし決めた!
俺はそっと、眠り姫に己の顔を近付けた。
なんだかほんわりと花のような香りがする。
長いまつ毛。
整った鼻梁。
桜色の小さな唇。
女性慣れしていない俺は、それを見ているだけでハァハァと息が荒くなってきた。
我ながら変態じみている。
唇を尖らせて、彼女の顔へ更に近付くと、バチンと音がした。
うわぁ、大きな青い瞳。
見ていると吸い込まれそうだ。
そう、彼女の瞼が開いた音だった。
「ぎゃーーーーー! 何よあなた!? 変態! 変態!!」
流暢な日本語で喚き散らす少女。
真っ白な腕で俺の頬を張りまくる。
「いでっ! いでぇ! 落ち着けぇ! お前こそ誰だよ! ここは俺の部屋だぞ!」
「きゃー! きゃー! …………えっ……? あれ? ここはどこ?」
「記憶喪失者かっ! 私は誰? とか言い出すなよ?」
「失礼ね! 私はフランシア! めが……留学生よ!」
「俺は火神秋人! 学生だ!」
お互い、ぜぃぜぃ言いながらわけのわからん自己紹介をする。
二人とも全裸だし、とんでもなくシュールな光景だろう。
「ちょっと! その粗末なモノをいつまで丸出しにしてるの! 早く隠してよ!」
「おっ、こ、これは失礼……って、粗末とは何だ!」
「だって、どう見てもチャチな物体じゃない!」
「チャチって言うな! これで昨日はお前を可愛がったかもしれないんだぞ!」
「!?」
途端にわなわなと震えだすフランシアと名乗った少女。
顔が真っ青になっている。
気持ちはわからんでもない。
酔った勢いとは言え、見知らぬ馬の骨と一晩を共にしたなどと、この清楚そうな少女には耐えられないことなのだろう。
って、誰が馬の骨だ。
「落ち着いてくれよフランシアさん。昨日のことをよく思い出してみて欲しいんだ」
「わ、わかったわよ、火神さん……だっけ?」
毛布で全身を隠しながらおずおずと言うフランシアさん。
あの綺麗な裸体を隠してしまうとは勿体ない。
取り敢えず俺も脱ぎ散らかした下着とTシャツで身を覆う。
居住まいを正し、丁寧に尋ねてみた。
「俺たちと飲んだことは覚えていますか?」
「……はい」
「その後どうなったかは覚えてます?」
「……えーと、確か男のかたと私の友人が、経緯はわかりませんけど口論になったんですよね」
「あれ? そうでしたっけ」
「はい。男のほうが飲めるに決まってるだろ、なに言ってんの男なんかに負けるわけないでしょ、と言った感じにです。それで男女に別れ、飲み比べに巻き込まれて……」
「あー、言いそうなヤツに心当たりがあります。後で絞めておきますよ」
「それで、みんな酔い潰れて、私とあなただけになって……それからあとは……覚えていません……」
なるほど。
彼女も俺と同じような辺りから記憶がないようだ。
ションボリしてるフランシアさんに、俺はフォローを入れる。
「ま、まぁ、裸で寝てたからって、その、行為をしたとは限りませんし」
「そ、そうですよね! ……もし本当にしちゃってたら大変なことに……」
ドォォォン
突如鳴り響く轟音。
地震かと思ったが、建物は全く揺れていない。
何かの爆発だろうか?
だが、音は俺の部屋の中から聞こえたぞ。
『フランシアよ』
部屋中に響き渡る、重厚極まる男の声。
まるで威厳と言う言葉そのものを具現化したかのような声だ。
「しゅ、主神様!!」
「えぇ!? 誰ですって!?」
俺の問いも聞こえていないのか、フランシアさんは何もない天井を見つめながらガクガク震えている。
『汝、見知らぬ男と夜を過ごすとは、いかなる了見か』
「すっ、すみませんすみません! でも決していかがわしいことはしていないと思います! ……たぶん」
『たぶんとは何だ! 汝はそれでも救済を司る女神か!! 下界で遊びほうけた挙句、この体たらくを何とする!!』
「ひぃぃぃ!! すみませんすみません!! すみませーん!!」
轟雷のような怒声に、フランシアさんはひたすら何度も土下座していた。
その声だけで、俺まで土下座しそうになるほどだ。
いやいや、それよりも、この声の主は何て言った?
救済を司る女神……?
この、見た目よりも遥かにアホそうなフランシアさんが!?
嘘こけぇ!
『汝には罰を与えねばならぬ…………ふむ、そうだな。よし、汝の力の大半を、この者に移した』
「「えぇぇぇぇぇ!?」」
つられて思わず俺も叫んでしまう。
なんで!?
俺も当事者扱いなの!?
エッチなことをしたってんならそうかもしれないけど、全く身に覚えがありませんよ!
ぐあっ、しまった!
さっきおっぱい揉んだの忘れてた!
『そのまましばらく過ごし、反省するがよい。それと、仕事もきちんとこなすのだぞ。よいな? 業務連絡は以上だ』
「ああっ! 待って! 待ってください主神様ぁぁぁ!!」
圧倒的な迫力と声がスーッと遠ざかって行くのを感じる。
俺の中から異様に滾る力が溢れているのもだ。
「こ、これはいったいどうなったんですかフランシアさん!」
「ヒック、ヒック……うわーん! どうしようー!? 力が使えなくなっちゃったよー!!」