3.魔王(新生児)魔力感知中
さて、魔力感知を志してから1ヵ月もしないうちにそれらしきものを感じるようになれた。
最初は、まずは自分の内にあると仮定した魔力を感知してみようと試みた。
もちろん前世でも現世でも認識した事のないものなんで、どうやればいいかなんてまったくわからない。
けど、あると信じてあーでもないこーでもないと試行錯誤して、手を空に向けて(火よ、灯れ)とか指を壁に向けて(水よ、出でよ)とかやってみた、もちろん何も起こらなかったけど。
でもあるとき、魔力があるとしてそれはいったいどこにあるのかを考えてみた。
体内のどこかに溜まっているのか、それとも体内を血液のように廻っているのか。
留まっているなら、頭か?心臓か?丹田か?股間ってことはないよな?
というよりもなにか、どこか一部分に留まっているってのは違和感を感じてしまう。
体の細胞の一つ一つに微力な魔力があるのではないか、その魔力を、魔法を使う時に操り外界へと働きかけるのではないか。
そう考えてからは両手の指先同士をつけて、魔力が体内を巡り右手から左手を通ってさらに循環していくのをイメージし続けた。
おかんが見るたびにそのポーズをしているもんだから、この子は変な癖があるわねぇってなことを言われた気もしたが何かが掴めそうな気がしたので気にせずに続けた。
イメージを続けてしばらくしたある日、ふいに右手から左手に何かが通った気がした。その感覚はすぐに消えてしまったが、確かに何かが通った。
これか!と喜んだのもつかの間、ふいに意識を失った。
目覚めるとまたもや闇の中だった。まあ夜中ってだけだったけど。
今まであんな気の失うようなことはなかったので、病気かとも不安になったが、気を失う直前に魔力らしきものを感じた事を思い出した。
もしかして、魔力切れのようなものっだたのか。
確かめるためにもう一度やってみるべきか。それとも意識を失うってことは体に負担がかかっているのだろうか。
………いや、そなたさんは《力を得る事が出来る》って言っていた。魔力も力の一つだろう。
鍛える事が出来る筈だ。
そう思いもう一度魔力の循環をイメージする。体内を巡り右手から左手へと魔力が循環するのをイメージする。昼間の感覚を思い出すように。
しばらくするとまたふいになにかが通った気がした。その流れはしばらく感じることが出来た。
今度こそこれか!と喜んだところ、またもや意識が闇の中へと落ちていった。
次に目覚めた時には目の前におかんの顔があった。
心配そうに俺のおでこに手を当てたり、体に異常がないかあちこち触っていた。
さすがにほぼ丸一日寝ていて(本当は気を失っていた)母乳も欲しがらなかったら新生児の状態としては異常ではあるね。
俺としては異常にお腹が空いていること以外は問題ないので、いつものように胸に目を向けて母乳を呑ませるように訴えると、おかんは安心したように母乳を与えてきた。
貪る様に母乳を飲む俺を優しい眼差しで見るおかんは母乳を飲み終えた俺を抱き上げ背中を叩きげっぷが出たことを確認すると、一度俺をぎゅっと抱きしめてから寝台へと寝かせて「ユーリ、愛しているわ」と言うと台所へと向かっていった。
無用な心配をかけてしまって心苦しい限りだから、今後はなるべく気を失うまでは魔力感知はしないようにしないとね。
そう思いながら、満腹感から眠気が襲ってきたので今度は眠りへと落ちていった。
目覚めて昼、母乳を貪ってからの魔力感知の練習だ。
今度は気を失わないようにしないとね。
両手の指を合わせ魔力の循環をイメージする。するとすぐになにかが通った感触があった。
一度感知できればあとは簡単に感知できるようになるらしい。
ただ調子に乗るとすぐに気を失うので慎重に見極めが必要だ。
昨日の昼に初めて感知したとき、昨夜の二度目に感知したとき、その時間差分だけ、魔力が鍛えられたと仮定して、その時間差分を今日もプラスして魔力の循環をしてみよう。
昨夜の魔力の流れを感じていた時間を思い出しながら循環させ、おおよそ昨夜の時間プラス時間差を超える前に両手を離し循環を止めてみる。
………うん、気は失わないね。ただ無性にだるいけど。
おそらく魔力がなくなったときにこのような状態になるんだろう。
新生児の体力的にこのだるさはつらい。気を失わないかわりに眠気が襲ってくる。まあ眠りならおかんも心配はしないんじゃないかなと思いつつ、眠りへと落ちていった。