第一章
ちゃんとした職にも就かず、両親の顔も忘れるくらい引きニート真っ最中の俺、高梨英二は今日もネットゲームに入り浸っていた。
「そこでヒール!ヒールだよ!ヒール!」
ああもう!思うように動いてくれないヒーラーのせいで死んだ。今日はもうやめておくか。また明日から頑張ろう。
ボスである魔王を倒すために毎日ゲーム内の仲間とレベリングをして、雑魚や中ボスを倒して、いつか魔王も…なんて、そんな日々がこれからも続くと思っていたんだ。そう、今日このときまでは。
「出ていけ」
「は?」
突如として現れた両親が放った言葉は至ってシンプルで。
「ここの物も全て処分する、業者に頼んだ。出ていけ」
「ちょ、まっ」
バタン!
勢いよくドアが閉まる。両親からの最終勧告だった。
今まで何もしてこなかったんだ、ゲームばかりしていて、両親の堪忍袋の緒がついに切れたのだろう。はぁ、とため息をついた。
「とりあえずコンビニでも行こう…」
家にいるのも気まずくて、出てきたはいいがどうしたものか。両親に見放されるのも仕方ない。それだけのことを、迷惑をかけてきたんだ。
「履歴書でも買って行ったら少しは考え直してくれるかな…」
なんて、甘い考えを巡らせながら、茫然自失のままコンビニで履歴書を買って出る。さてこれからどうしようか。そう思った瞬間だった。
「え…」
ガシャン!ガシャン!ズドドドォーン!
大きな音を立てて何かが突っ込んできた。それで、それで…何が起きた?
暴走した大型トラックがコンビニに突っ込んできたのだった。そして俺はそれに巻き込まれたのだった。そして…俺は死んだのだった。
「あっけねぇ…」
目を閉じ、一瞬の走馬灯が駆け巡る。本当に一瞬だ。俺には本当に何もなかった。情けない。生まれ変わったらもう少しまともに生きたいよ、父さん母さん…そんなことを思いながら、俺の生に終止符が打たれた。
◆
「高梨さん?高梨英二さん?」
気づくとそこは何もない、誰もいない空間だった。俺と、一人の女性を除いて。
それはもう美しい女性だった。透き通る青のドレスを身にまとい、大きな翼をバサバサと揺らす。
「女神…様?」
「そうですよ。人々の生死を司るクレア=セレナーデと申します。率直に申し上げて、貴方は今死にました。何もやってこなかった貴方の転生先は、石ころです」
「は…石…ころ」
生まれ変わったらもう少しまともに…って石ころで生きられるかっ!まさかの石ころ。動物ですらなかった。愕然とする俺にクレアはニヤリと笑みを浮かべる。
「石ころ、いやですよねー、ね?いやでしょ?」
「は、はぁ…そりゃまぁ…」
そこで提案なのですが、と、クレアが言葉を続ける。
「貴方、魔王になりませんか?」
「はっ?」