向日葵の蝶を吐く
夢の中で、森を歩いていた。長く歩いていたからなのか、腹がぐうと鳴る。
耐え難い空腹に周囲を見回すが、食べられそうなものは見当たらない。
草むらを掻き分け、木の枝によじ登りもした。しかしそこにあるのは到底食べられそうにもないという印象を受けるものばかりだった。
どれだけの時間、食物を探していただろうか。
ついに身動きも取れないほどの飢えに倒れ込んだ。
視界に薄黄色の何かが映り込んだ。向日葵を閉じ込めた宝石のようなそれは、とてつもなく美味しそうに見える。
横たわった姿勢のまま腕を伸ばし、向日葵の宝石を摘んだ。
宝石のように見えたそれは、薄い膜に包まれていた。指先のわずかな力で膜が破れ、中身がこぼれ出しそうになる。
落としてなるものかと落下点に顔を動かし、一思いに呑み込んだ。
目覚めた時から、喉に違和感があった。腫れているのとは違う。何やら突っかかっているような感覚だ。
咳払いをするが、違和感は消えない。
ならばと水を口に含んだが、つっかえている何物かのせいで飲み込むことすらできなかった。液体でさえ受け付けないのだから、このままでは食事すらままならない。
困り果てもう一度咳払いをした。
つっかえが、わずかにずれた気がする。その瞬間を期に、つっかえていた何物かが蠢き出した。
喉を内側から押しやられる感覚に吐き気を催す。えずきながらトイレへ駆け込むと、胃の中身ごとつっかえを吐き出した。
水っぽい音の濁流の中から、何かが飛び出した。
酸っぱい臭いのする胃液を撒き散らしながら舞い上がったのは、一匹のアゲハ蝶だ。
――ああ、つっかえていたのはこいつだったのか。
妙に納得しながら、行き場を求めて彷徨うアゲハ蝶のために窓を開けた。