第八章 伝えたい
1週間、健とは連絡をとらなかった。
健から、何回か電話が来たこともあった。
でも、逃げちゃいけないと思った。
ちゃんと、健に指輪を返さなきゃ…。
ちゃんと、言いたい事言わなきゃ!!
健に電話をした。
「もしもし」
「お前、連絡ずっと、避けてただろ!!」
久しぶりに健の声を聞いた。
「ごめん。」
「別に、良いけど…」
「あのさぁ、健に会って話したい事があるんだけど…。」
「何??電話じゃダメなの??」
健は何も分かってない!!
そんな冷たい態度に、涙が溢れた。
「だ‥め…会い…た…い」
「泣いてんのか??」
「泣い…て…な…い!!」
「今日、いつものライブハウスに居るから、来いよ!!」
「分…かっ…た…」
「じゃあな」
「う…ん…」
電話を切り、ベットに顔伏せた。
でも、健に会うのに、目を赤くして、会いたくない、どうにか泣き止んだ。
着替えて健の居るライブハウスへ向かう。
ライブハウスの中の一番奥に健は居た。
健の手を見ると、指輪が付いてる。
そういえば、たまり場に行った、あの日も指輪が付いていた。
どうして??
「話って、何??」
「あのね、この前…たまり場に行ったの!!健が、女の人とキスしてるの見た!!」
「だから何!?」
「だから何って!!ウチら付き合ってるんじゃないの??指輪付けてるじゃん!!もう、良い!!これ返すわ」
指輪を返した。
その時、健の目が少し、泣きそうになってたのが、分かった。
「…帰る!!」
指輪を健に持たせて、一方的に帰って来た。
健の泣き顔なんて見たくないし、
何で健が泣くの??
女の人とキスしてたのは健の方だよ!!
分かんないよ。
その一週間後、利佳子がコンビニに行く途中…。
前の方から、健たちが歩いてくる、あれ以来会って居ないし連絡もとっていない。
最初は見間違いかと思ったけど、
りかこの家と、健たちの〇×学校は近いから、会ってもおかしくはない…。
先頭に健と海斗がいて、後ろにみんなが居る。
どうしよう??
でも、今、引き返したくはない。
音楽も聞いていたし、サングラスもかけているから、きっと分かんない。
そう信じて、下を向きながら、一歩づつ歩く。
誰かがりかこの顔を除いて来た。
「やっぱ、そうだ!!りかこだ!!」
誰!?…龍也だ。
ふっと、健を見ると、どこか悲しそうだった。見ない振りをして通り過ぎた。
今は何も喋りたくない。
その二週間後。
深夜一時…海斗からの突然の、電話。
「健がさっき、交通事故にあって今、救急治療室に居る!!
明日学校終わったらで良いから、来てやって!!」
声がでない。
海斗の言ってることが分かんない。何言ってるの??
「嘘だよね??」
「嘘でこんなこと言うか!!」
「大丈夫なの??」
「何とも言えない」
突然過ぎて涙もでない。
本当は、今すぐ家を飛び出したい。
でも、健に合わせる顔がない、
指輪も返しちゃた。
次の日、学校に居る間、ずっと考えた。
行くべきなのか??
でも、もし…もし、健に何かあったら??
そう思ってる間にりかこは、病院に走っていた。
看護士さんに、健が居るところを聞く…。
―405号室
…401…402…403…404…。
部屋の前で健の家族や裕美や慎吾が居る。
みんな、泣いている。
何で、みんな泣いてんの??
部屋の中には海斗たちが居る…。
健の顔に白い布が被さっている。
何で??
ゆっくりと、布を取る。
「健…りかこだよ!!」
「寝てるの??」
「健…健…!!返事してよ!!」
「りかこ止めろよ!!」
「健…健…!!ねぇ―起きて!!」
「海行くんでしょ??」
「世界一幸せな家庭作るんでしょ??」
「クリスマスも毎年プレゼント交換して!!
一緒に年を迎えるんでしょ??」
「止めろって!!」
海斗がりかこを止める。
「嫌…離して!!」
「お願い!!目を開けて…」
「健…りかこを置いて行かないで」
健に抱きついた。
体が冷たい。
「俺がお前に電話した1時間後に息を引き取った。
電話しようとしたけど…健がかっこ悪い姿は見られたくないって、
健が死ぬ前に…お前のこと幸せにしてやれなくてゴメンって、
ずっと、ずっと、あいつ、お前のこと好きやったんだ。
冷たい態度も、お前が好き過ぎて…。
でも、あいつは俺なんかよりもっと、将来性のある人の方が良いって、
だから、わざとお前に嫌われるようなことしたり、
薬とかに手出したりして、自分に言い聞かせてたんだ。
こいつの気持ち分かってやってあげてな!!」
今の利佳子にそんな事言われても、目の前の事でさえ、
理解出来ないのに、そんなこと言われても、海斗が何言ってるのか分かんない。
りかこは健の傍から、動くことが出来きず、その場に座りこんだ。
神様お願いします。
健を連れて行かないで。
健にまだ、伝えてないこといっぱいある。
一緒に行こうって、約束した場所もある。
お願い。目を開けて…。
誰か嘘だと言って。
そんな、ささやかな願いは、健に届くことはなかった。
その日、誰とも喋ることはなく、一睡もしないまま、次の日の朝が来た。