その4
とりあえず、起動方法が判らないので、インターネットで調べてみることにした。
仮想デバイスを使用するためのシールを額に張り、いつものようにブラウザを起動、インターネットに接続する。
一時期は脳内に直接埋め込んだり、首に着けたりと、常時装着型の仮想デバイスが主流だった………らしい。
しかし2050年頃に発生した、他人の仮想デバイスに侵入し、使用者を殺害する、という事件を機に常時装着型はその信頼を失った。
その後、仮想デバイスのセキュリティーは大幅に強化され、今日ではそのような事件を起こすことはほぼ不可能だと言われている。
なので現在ならば常時装着型デバイスを使ってもなんら問題ないのだが………まあ、人々の記憶そしてなにより、記録に残る大事件だ。そう簡単に人々が常時装着型デバイスに戻ることができないのも当然と言えるだろう。
そうして件の常時装着型に代わって現在の仮想デバイスの主流となっているのが、俺が先程額にはったシール、正確には『パッチ型仮想デバイス』というわけだ。
俺は、手早く検索を済ませ、起動方法のと言うかこのアンドロイドのマニュアルを仮想デバイスの内部ストレージに保存した。
どうも、アンドロイドの起動を言うのは思った以上に簡単らしかった。
意気込んでいた俺がバカみたいだ。
とはいえ、家まで運んでくるだけでも運動能力ゼロ=体力ゼロの俺には命がけだったのだ、どのみちこれ以上のハードな作業は無理だっただろう。
とりあえず、マニュアル通り進めてみることにした。
利用規約、使用上の注意などは後で読むとして、起動方法の細かい手順が書いてあるページを開く、
『購入時本機には動力となるエネルギーが入っていません。初期設定の際は、付属のACアダプターを家庭のコンセントに接続して行ってください』
「まずはコンセントに繋ぐのか」
ACアダプターをコンセントに繋いだ。
次の手順を読む。
『本機より流れる音声案内にしたがってください』
音声案内を待つ。
……………………
いっこうに音声案内は始まらない。
起動方法のページを再度確認するが先程の一文で終わっていた。
「……………」
絶句するしかなかった。
しかし、まだ壊れていると決まったわけではない。
「まあ、不良品だしなぁ」
そう、不良品であるが故の問題もあるのだろうと思い、マニュアルの『故障かなっと思ったら』のページを見てみることにした。
すると一つ目に、
『Q.初期設定の音声案内が流れません。
A.すいませーん、マニュアルの本文に書くの忘れてましたー☆コンセント指してから大体5時間位したら流れまーすっ☆』
「な〜にがっ☆だこのくそマニュアルが〜〜〜っ」
そう叫びながら俺は、マニュアルのデータをゴミ箱に叩きこんだのだった。
このマニュアルに書いてある、使用上の注意を読んでおけば良かった、と深く後悔することになるのを、このときの俺はまだ知らない。