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百円の彼女  作者: 上村俊貴
デート(仮)
20/23

その3

 尚吾たちが慌てて家を飛び出してから約三時間後。

 尚吾と沙耶は劇場のあるショッピングモール内の大手チェーンの喫茶店にいた。

 ちなみに、沙耶がチケットを取っていた映画は、少女向けの魔法少女ものの劇場版だった。

 沙耶が本当にデートとはなんなのかということ正しく理解していなかったということがよくわかるチョイスだったが、尚吾にはそれよりも気になったことがあった。

 簡潔にいうと、男が多すぎる。

 まさかデートで少女向けの魔法少女ものなど見に来るわけないので、恐らく男が一人で見に来ているのだろう。

 父親という可能性も考えたが、そうすると尚吾と同じくらいの歳の奴らがいることについて説明できない。

 そもそも、少女向けの映画のくせに、あまり少女はいないとはどういうことだろうか。

 まあ、そんなことは置いといて、内容の話をさせてもらえば、そこそこ面白かったといえるレベルのものだった。

 沙耶はどうやら自分が見たいものを選んだ様なので、終始スクリーンに釘付けだった。

 エンドロールの時に感動のあまり拍手し始めたときは慌てて止めることになったが、沙耶が楽しかった様なのでよかったと思う。

「ところで沙耶、この後はどうするつもりだったんだ?」

 尚吾の向かいの席でバニラ味のフローズンの飲み物を一気に飲みすぎて頭を抱えていた沙耶が、どうにか回復してから答える。

「決めてない」

 きっぱりとそう言った。

「だって彩香に聞いてたのは映画に行くって事だけだもん」

「そうか……じゃあ」

 尚吾は飲みかけだったコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がる。

「どうしたの?」

「俺がデートってもんを教えてやる」

「えっ、ど、どうしたの急に!?」

「いいからいいから」

 そう言って尚吾は沙耶の手を掴み、立ち上がらせる。

「よし、じゃあいきますか」

「えっ、えっ、えぇぇぇぇぇーー」

 戸惑いを隠せず目に見えて慌てている沙耶の手を引いて、尚吾は意気揚々と歩き出したのだった。


 さて、尚吾が沙耶を引っ張って喫茶店から出た時、喫茶店の入口付近に怪しい影が一つ。

 言わずもがな、彩香である。

 彩香今焦っていた。

 とても焦っていた。

(尚吾君と沙耶ちゃんが仲良く手を繋いで歩いていった!?)

 恋は盲目とはまさにこの事だろう。

 天下の工藤学園が誇る才女が、まともな観察力と判断力を完全に失っている。

 しかし、本人は自分が勘違いしていることに気づくはずもなく、彩香の妄想は加速する。

(きっと、もう二人は付き合っているんだわ。だってあんなに楽しそうだもの)

 そんな妄想に耽っている間に尚吾と沙耶を見失いそうになる彩香だったが、なんとか現実に復帰して、尾行を続けるのだった。


 意気揚々と喫茶店を飛び出したはいいが尚吾だってデートなどしたことはない。

 しかし、ああ言ってしまったてまえ、簡単には引き下がるわけにはいかない。

 考えに考えた結果、取り敢えず、ウィンドウショッピングをすることにして、女の子が好きそうなアクセサリーが売っていお店に来た。

「わ〜、可愛い」

 入った瞬間から沙耶は店に並ぶアクセサリーを目をキラキラさせながら見ている。

 尚吾もそれとなく見ていると、少し見ただけでも、猫やふくろうなどの動物を型どったネックレスや、なんだかよくわからないマスコットがプリントされた小物類など、様々な種類の商品があった。

 店に入って三十分程たった頃、正直尚吾はもうとっくに飽きていたが、沙耶がいっこうに移動する気配がないので、しょうがなく店にいた。

 しかしながら、さすがに限界なので、沙耶を探すと、さっきに見たときと同じ場所にいて同じものを見ていた。

 沙耶が見ていたものを後ろから覗き込むと、それはうさぎを型どったネックレスだった。

 なるほど、確かにデザインは可愛らしいが、いかんせん値段が高い。

 一介の高校生がポンと出せる金額ではない。

「それがほしいのか?」

「!? えっ、あっ、いや、違う違うよ。別にほしいわけじゃないよ!?」

「そ、そうか……」

(本当はほしいんだろうな)

 尚吾は今の自分の所持金を思い出す。

 今日は仕送りの日の前日なので最悪はあるお金を全部使っていいので、そうすればなんとか足りるだろうか。

 尚吾は、デートといえば男が女の子になにか買ってあげるのも定番といえば定番かなにを根拠したのかそう思い、結局買ってあげることにした。

「沙耶はどれがほしいんだ?」

「だから、別に私は……」

「いいからいいから、素直にいってみて」

「じゃあ、これ」

 そう言って沙耶が指差したのは、やはりさっきのうさぎのネックレスだった。

「よし、それだな」

「そう」

「すみませーん」

 そう言って店員を読んで簡単な手続きを澄まして沙耶の方に戻ってくる。

「ほら、ほしかったんだろ?」

「ありがとう」

と消え入りそうな声で沙耶がいった。

「どういたしまして」

 結局店を出るまでどこか恥ずかしそうな様子だったが、尚吾は沙耶の幸せそうな横顔を見れただけでも、十分プレゼントした意味があったと思う尚吾であった。

                     


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