その2
家に帰って玄関のドアを開けると、沙耶の作る昼食のいい匂いが漂ってきて、思わずお腹がなってしまいそうになる。
いくら朝食をお腹いっぱい食べたと言っても、尚吾とて健全な男子高校生であるたとえテストを受けただけでも、お腹がすいてしまうことは仕方のないことだろう
ドアを開けきって、沙耶に声をかけようとした時には、尚吾は沙耶に腕をつかまれ、昼食の並ぶテーブル前につれてこられていた。
「どうしたんだ、沙耶」
「早く食べて」
「え?」
「だから、早く食べてっていったの」
「なんで?」
「そ、それは……」
「それは?」
なぜか真っ赤になっている沙耶はしばらく無言でうつむいていたがしばらくすると、
「デートに行くの」
と、辛うじて聞き取れるくらいの声でそういった。
「デート!?」
突然どうしたのかと思えばデートときた。
いったい何がどうなっているのかわからない尚吾だが、その時沙耶が唐突に話し出した。
「実は昨日彩香と買い物しているときにね、デートってとうゆうものか聞いたの」
「ああ、それで。どれがどうしたっていうんだよ」
「そしたら彩香が好きな人と一緒に出掛けることっていったから、じゃあ、私と尚吾がデートするのは普通なのかなってそのときは思ったんだけど…」
「だけど?」
「私勘違いしててね、デートする好きっていうのと私が尚吾を好きっていうのはちょっと違うんじゃないかなって、なんというか、私の好きは人間としてと言うか、なんというか」
「あーあーそういうことか……」
一気に緊張が解けた尚吾は、思わず脱力してしまった。
しかし、ならどうしてまだデートにいこうとしているのかがわからなかったがその疑問はテーブルの上にあった一枚の紙切れによってに解決された。
「これって、映画のチケットか?」
「うん」
「なるほどな、さしずめデートでどこにいくか探しているときに自分が勘違いしていることに気づいたって訳か」
「そう、でも初めてのデートで映画に行くのがよくあることだっていうのは、昨日彩香に聞いてたから、先に取っちゃてて」
「上映開始時刻はっと」
チケットをてに取り調べてみるが、なかなか見つからない。
まあ、現代の映画のチケットは、内部のICカードにすべての情報が入っており、それをそれぞれの端末で読み取るものが主流なので、目に見えるように書いていなくてもなんら問題ないのである。
尚吾がチケットをペラペラと裏表しながら時間を探していると
「十二時四十五分だよ」
と、ボソッと沙耶がいった。
「十二時四十五分だって!?」
現在時刻は十一時四十五分なのであと一時間で映画が始まってしまう。
劇場までどんなに急いでも三十分はかかる。
ようやく沙耶が急いでといっていた理由がわかった。
確かに急いでご飯を食べなければ間に合わないだろう。
結局、この後尚吾は全速力で昼食を完食し、身支度もそこそこにまたも全速力で劇場まで移動することになり、沙耶と尚吾の初めてのデートはおおよそデートらしからぬ幕開けとなった。
ちなみに、早々に昼食を済ましていた沙耶は尚吾が食べている間じゅうかけて身支度を整えていたので、正直いってめちゃくちゃ可愛かったが、劇場に到着した段階でヘロヘロだった尚吾にそのことを伝える余裕などあるはずもないのだった。