その1
沙耶に夕食と作ることを強要され、その後ベッドに倒れこんでそのまま眠ってしまった尚吾だったが、どんなに疲れていもいつも通り朝はやって来る。
「おはよう、尚吾」
沙耶は、先に起きて朝食の準備をしていた。
昨日は尚吾よりも寝たのが遅いはずだが、特に寝不足だという様子でもない。
いったい、どこにそんなげんきがあるのか不思議でならない。
それにしても今日の朝食も豪華だった。
しかし、このままのペースで食事にお金を使われてしまうと、尚吾の経済事情的に問題なので、いずれは注意しなければならないだろう。
とはいえ、そんなに急にお金がなくなる訳ではないので、しばらくは好きに作らせておこうとかと思っている。
なにより、尚吾は料理をしている沙耶の姿が好きだった。
自分も料理が好きなのでわかるが、沙耶は本当に料理が好きなんだろう。料理中の沙耶はなんというか輝いている。
寝起きの頭でそんなことを考えながらキッチンの沙耶を見ていると、沙耶が突然振り替えって、ジト目で尚吾を見てくる。
一瞬尚吾は、沙耶のことを見ていたのがばれたのかと思ったが、
「尚吾、また同じこと言わせるの?」
とそんなことを言ってきた。
しばらく何を言われたのかわからずきょとんとしていた尚吾だったがすぐに昨日の朝のことを思い出す。
慌てて立ち上がり風呂に向かう尚吾の背中に、
「お風呂の準備はできてるから」
と沙耶が声をかけた。
今日も今日とてテストである。
昨日と同じく沙耶の豪華すぎる朝食を食べて満腹な上に寝不足で極めて意識を保つのが困難な状態の尚吾であったが、テスト中はなんとか耐え抜き、テスト三日目のテストも問題なく終了した。
テストが終わると同時に、沙耶から『ペアリンク』ですぐに帰ってくるようにお願いされた尚吾は、できる限り急いで教室出ようとしていた。
そんな、尚吾に話しかける人物が一人。
いうまでもなく、彩香である
「尚吾くん」
「悪い、今日は急いでいるんだ」
「あっ、待って、尚吾くん」
「明日、明日絶対聞くから」
それだけいって、尚吾は走って教室から出ていってしまった。
残された彩香は何が何やらわからないまましばらく立ち尽くしていたが、まもなく昨日の沙耶との話を思い出す。
それは、デートとはなにかというものだった。
彩香は、好きな人と一緒に出掛けること、と答えたが、もし沙耶がこの場合の好きの正しい意味理解していなくて、尚吾とデートしようと思っていたとしたら。
そこまで考えて、彩香電話をかける。
そうして、呼んだ車で帰り、尚吾と沙耶のデートを尾行するべく準備を始めるのだった。