その4
駅前の広場に一人の少女がいた。
周囲の視線を一身に集めるモデルもかくやという美少女である。
微笑めばどんな男でも魅了できるであろうことが容易に想像できる。
しかし、今その顔はどこか不機嫌そうに歪められている。
「遅いなー」
時刻は、二時三十分。
ちなみに、少女がここに到着したのが、一時四十五分なので、かれこれ四十五分も待っていることになる。
先ほどから彩香を見ていた軽薄そうないかにも遊んでます、といった格好の少年たちが話しかけようと近寄った時、待ち人の登場に彩香が肩を怒らせて歩いていく。
出鼻をくじかれた少年たちは、慌てて彩香を追いかけようとしたが、次の瞬間には地面に叩きつけられ、気がついたときには、路地裏に寝転がりビルに挟まれた狭い空を見上げていた。
なにが起こったのかわからず、叩きつけられた衝撃で声をあげることもできない少年たちの近くには、一人の青年やれやれといった様子で立っていた。
「まったく、困ったお嬢様ですね」
そういって、その青年−−カイトは彩香の後を気づかれないように尾行し始めるのだった。
「おそーい!」
「わるい、わるい」
「もう、何してたの?」
「いや、ちょっとな………」
待ち合わせ場所に到着した途端に彩香に詰め寄られる。
しかし、それも無理も無いことだった。
なにせ、尚吾たちは待ち合わせ時間に三十分以上も遅れている。
しかしながら、遅れた理由を話すのは気が引ける、というか恥ずかしい。
尚吾が答えあぐねていると、今まで尚吾の背中に隠れて彩香を見ていた沙耶が会話にはいってきた。
「あなたが、彩香、さん?」
今まで、明るい活発な女の子という印象だった沙耶だが、どうやら人見知りらしい。
以外な一面だが、そんなところも可愛いと尚吾は思った。
「そうだけど、じゃああなたが沙耶さんね」
そういって彩香はにっこりと微笑みながら、尚吾の後ろに回り込み沙耶の前に移動する。
驚いた沙耶だったが、彩香が悪い人間ではないとわかったのか、再び尚吾を盾にすることはなかった。
そして、まだやや怯えつつも、自己紹介をする。
「私は沙耶、尚吾のアンド……じゃなくて同居人よ」
沙耶が、自分を同居人といったことを気にする様子もなく彩香も自己紹介をする。
「私は、工藤彩香。尚吾くんのクラスメイトです。よろしくね沙耶ちゃん」
それから二人が打ち解けるのは早かった。
最初こそ尚吾から離れられなかった沙耶だったが、買い物を始めて三十分もたったころには、尚吾は完全にただの荷物持ちとなっていた。
「彩香彩香、これなんてどう」
「あら、可愛いわね、沙耶ちゃんにとってもよく似合いそう」
「でしょでしょ〜」
さっきからこんな調子で、尚吾はすっかり蚊帳の外だ。
沙耶など、もうすでに彩香を呼び捨てにしてる。
女の子ってすぐ仲良くなるんだなあ、と思った尚吾だった。