5話
言葉数が減りつつも無事に俺の家に着いた。テンションが下がり気味になっていたことを西宮は空気を読んだのか、無理に会話を続けようとせず、こちらとしては程よい状態だった。こういう何気ない事ができる人ってイケメンだよね!
俺のテンションが下がった原因は先ほどの親戚の集まりの件だ。俺の親戚たちは頭がいいものが多く、それ故に幼いころから英才教育などを中心に生活させることが多かった。その為、親戚同士での見下しあいが多く、子どもながらに嫌な記憶が刻まれている。俺の両親はそこの所は特に拘らなかったようで、基本的には俺たちの意思を尊重してくれていた。だが、両親のいない間に親戚の人たちからは多くの陰口を聞かされていて俺はそれで嫌いになり、極力会いたくないと思うようになった。特に嫌だと思うようになったのは嫉妬からくる恨みのようなものを感じるようになってからだ。向こうからこちらの家族団欒についてを聞いてくるのに聞くとあからさまに不機嫌になる親戚が多かった。両親もそのことに気づいていたようで、別段多くは語らない感じだったのを覚えている。
これらが拍車をかけて家族の仲を良くして行こう、という気持ちに繋がったのではないかとも思っている。またそんな両親だったからこそ特にグレることもなくここまで純粋で素直に育つことができたんだろう。
「旭、なんかいつにもまして変な顔をしてるよ」
肩を並べて階段を歩いている西宮がこちらを流し目でみながらそう言った。
「いつにもましてってなんだ。そんな失礼なことをいう西宮君には俺と同じ顔になれる祝いの言葉を送ろう。くたばれ」
「ふふっ、今回はご遠慮させてもらおうかな。それと、カナが聞いたら顔面パンチだけじゃすまない冗談だね」
「……やめてくれよ、ちょっと本気でビビっちゃったじゃないの……」
そんな他愛のない会話をしながら部屋のカギを開けつつ、中に入る。中にはいって早々に西宮が漫画を選び始める。あぁ、それこの間買ったばかりなのに……
「待った、西宮。漫画は後で選べばいいじゃないか! それよりも俺とゲームでバトルだ!! そして、俺が勝ったらノートを無償で貸してもらう。」
「えー……まぁ、いいけど。その代わり、僕が買ったら漫画を3冊から5冊に変更させてもらおうかな」
「はぁ!? よ、よし、いいだろう。その条件で構わないぞ」
「じゃあオッケー。ところで、ゲームはいつも通りの格闘ゲーム?」
「おう、そのつもりだ。あれは俺の得意ゲームだからな。馬鹿め! この勝負を挑んだ時点でお前の負けは決まっているのだ!! さあ、今すぐにでもノートを寄越して貰おうか!」
「……一応言っておくけど、勝負を挑んだのは旭の方であって、受けたのは僕だからね。ああ、そうそう。5回戦勝負で旭が一回でも僕に勝てたらそっちの勝ちでいいよ。こっちは4回以上勝ったらってことで。もし最後に旭が勝ったら、もう一度やり直しってことで」
得意ゲームに持ち込めて鼻を伸ばしている俺に、西宮は片手を顔に付け、ため息を吐いている。くそう! バカにしやがって、その自信が慢心であることを教えてやる!
「ふざけるなああ! なら、お前のその特大ハンデを敢えて受けようじゃないか! 後悔するなよ!」
「はぁ……」
意気揚揚にゲームの電源を入れてコントロールを掴む俺。苦笑しながら横に座り、同じようにコントロールを掴む西宮。こんなハンデされて負けるワケにはいかない!! 俺にもプライドってものがあるんだ! 目に物見せてやる!
しかし5分後、完全敗北して泣き崩れる俺がそこにいた。
それからしばらくテレビゲームをやったり、買ってきたスナック菓子などを雑談しながら食べたりしていると時間はあっという間にすぎ、西宮は気に入った漫画を(5冊)選んで持って帰っていった。最新刊という多大なる代償を払った甲斐はあり、テスト内容すべてが詰め込まれているノートを借りることができた。
ノートを開くと、講義中の先生ポイントや豆情報などが書いておりとても綺麗にまとまっていた。さすが面倒見の良さが違う西宮だ。参考書並みの綺麗さにまとめてあるから見やすい……
「さて、勉強をしようとは思うのだけど明日からやろうかな! スナック菓子食べ過ぎた所為かほとんど腹減ってないし、風呂にでも入って寝るか」
時計を見ると22時を過ぎていたので、特に食べることも必要とせずに寝る体制となった。浴槽に湯がはるまで携帯でゲームをして時間を潰す。
いやー、勉強ってどうもやる気が起きないんだよね。家だと勉強するタイプじゃないんだろうね俺は! 少しだけでもやった方がいいよって囁きが心の奥深くから聞こえる気がするけど、無視だ無視!!
そうこうしているうちに風呂にも入り終え暗い部屋の中、布団で横になりながら考え事をする。
何かが頭の隅に引っかかる、そんな感覚があった。それは、親戚の集まりの件ではなく昼のカナとの会話だ。
(……何かを話そうとしていたんだ。今はもう内容が思い出せないけど、何かを言おうとしてたんだ)
あの時、確かに靄がかかっていく変な感覚に襲われたのを覚えている。そして、最後には何を言おうとしていたのかさえ思い出せないほどになった。あれはいったいなんだったのだろう。夢の出来事だった事は何となしには覚えている。よく、夢の事を思い出せなくなる感覚はあるが、ああも靄が次々にかかっていく感覚は今までになかった。
「まぁ、下手に考えて悩むよりもさっさと寝ちまって楽になろうっと」
声に出して、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。あんまり悩み続けるっていうのも俺の性分じゃないんでね! そろそろ寝るとしますかな!
目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。徐々に意識が薄くなるのを感じながら、俺は眠った。
やっぱ最新刊持ってかれたのは痛かったなぁ……