4話
昼食を食べ終わり、空いた食器を流し台に置いて俺達は食堂を後にした。
大学の門を出て、駅へと向かう。道中は他の曜日の講義の話や今楽しんでいるゲーム、美味しい料理の事や番組などの会話をしていた。西宮もカナもドラマは結構見るそうなんだが、どうやら二人ともオカルトや怖い話系は興味がないらしい。いや、カナの方は純粋に怖いのが無理らしい。
俺は下手な怖い話よりカナの方が怖いけどね! って言おうと思ったけど、口に出すと言葉通りの苦しい目にあうので心の中だけにとどめることにした。
色々な会話をしているうちに最寄駅に着いた。
駅の改札を越えたところでカナはこちらを振り向いた。
「それじゃ私は反対側の電車に乗るから。また明日~」
電車の定期券を持っている手を挙げながらそう言った。
「おう、またな~」
「またね。カナ」
俺と西宮はカナと反対方向の階段に向かいつつ二人似たような返答をした。
階段を上がり、電車のホームにある電光掲示板を見た。そこに表示されている次に電車がこの駅に来る時間を把握する。こちらの電車は3分と待たないうちに来るようだ。
この様子だと30分ほどで家に着くことができるな。そんなことを考えながら何気なく自分たちのいるホームに目を向けた。昼間ということもあってか、ホームには少数の人しかいなかった。他の講義を受講している学生たちは通常通り講義を受けていて、本来なら俺達も講義を受けているはずの時間なのだから仕方がない。
「そういえば今日の材料も切れてたし、どうせならついでにポテトチップスとかでも買ってくか」
「いいね。そういえば旭の料理また食べたいなー、美味しかったし」
西宮が微笑みながらそう言ってくる。やめろ! その台詞は、女友達や彼女から聞きたい台詞であって、断じて野郎からは聞きたくねえ!
「おう、いつでもいいぞ。だが、頼むから今後その嫌な誤解を生むようなセリフを言わないでくれ後生だ」
「そんな変なこと言ったかな? でもホント、旭は見た目だと料理できるとは思えないんだけどね~。それに、今どき珍しいくらいしっかり作るし。大体は弁当とかで済ましちゃったりしているのにね」
「なるべく安上がりにしたいというか、ただ単にあまりそういうのが好きじゃないだけだ。昼食は別だがな。ほら、健康第一っていうじゃんか」
「健康を気にしている人は、普段から夜更かししないと思うよ」
胸をはって言う俺に苦笑いをする西宮。
ちくしょう! いいこと言ったと思ったのに!
「てか、この時間の電車って乗ったことないから分からなかったけど、人少ないのな。いつもは朝、夕方だからさ」
「いつもこの時間はお年寄りの方たちが利用してるかな。近くに動物園あるから親子連れもいるけどね」
「なるほど」
先ほどから思ってた周囲の人の少なさについての感想をこぼすと、西宮が反応してくれた。滅多に利用する時間じゃないとわからないよねー。
そんな会話をしているうちに電車が来た。乗車中は携帯ゲームの会話等をして時間を潰して、目的の駅に到着した。
食料を買う為、駅周辺にあるスーパーへと足を運ぶ途中、携帯から女性ボイスの着信音が鳴り響く。
『母上からの電話でござる! 母上からの電話でござる!』
自分の近くからなる着信音に足が止まる。周囲をキョロキョロして、西宮を見ると向こうもこちらを見ていた。耳を澄まして聞いてみると俺のズボンのポケットから鳴っている。
「はぁ!?」
設定した記憶がない着信音だったので、一瞬俺の携帯って認識できなかった!
「あ、旭。変わった着信音だね・・・・・・」
苦笑いをしながら1、2歩後ろに下がっていく。
やめてっ! 下がらないで! 引かないで! 引きたくなる気持ちはわかるんだけど、待って!
「待つんだ西宮、俺だって何が何だかわからないんだ。まずは弁解を『はやくしないと接吻でござる!』させてくれ」
冷や汗をかきながら必死に冷静を装って西宮に説明しようとした俺に追い撃ちをかける謎の着信音。これ本当に最悪だな! もう弁解を聞いてくれなさそうだよ!!
西宮はゆっくりとこちらから目を逸らして、口元が引き攣っていた。
ほらあ! すごい遠い目してるじゃん、めっちゃ口元歪んでんじゃん! 笑い堪えてるのがわかるもん! ダム決壊寸前って感じだもん!
「と、とりあえず電話出たら? 母上・・・・・・じゃなくってお母さんでしょ?」
必死に笑いを堪える西宮は、言い終わった途端こちらに背を向けた。その時になって周囲からの視線に気づいた。一組の親子連れに至っては、子供がこちらを指差していて、親がその子の腕を引っ張る仕草が見受けられた。もう泣きそう。
「・・・・・・そうだな、出るか」
意気消沈の俺は西宮の言うとおりに携帯を耳に近づけた。まだ、カナに見られなかっただけましか・・・・・・
「もしもし」
「あー、もしもし兄貴? 今ね、母さんから頼まれて電話したんだけどさ」
「なんだ朱美かよ。その前にちょっといいか? 俺の着信音のこと何か知らないか?」
「なんだって何よ。ああ、兄貴の着信音ならアタシがこの間変えといたけど?」
さらっと犯行を認めたのは俺の妹ーー水野 朱美ーーだった。昔から悪戯好きの悪ガキで、良く一緒にご近所に迷惑をかけたものだ。犬の首輪に落書きや、ピンポンダッシュとかよくしてた。
てか、犯人特定しましたー♪
「ふざけんなあああ! お前の所為で、俺の株が急落したぞおお!」
「やった!!」
電話の向こうから朱美のガッツポーズをとったような音が聞こえた。
謝罪よりも先に、成功したことに対しての喜びの声が聞こえた瞬間、やっぱりコイツ俺の妹だ、って再認識した。
「つーか、何この着信音。2つ目のメッセージの破壊力デカすぎない? お兄さんの心ズタズタなんだけど」
「ああ、それね。アタシの友達の由美ちゃんに読んでもらったボイス着信音だから、今のところ世界に一つだよ。やったね兄貴!」
「嬉しくないわ! お前は友達になにやらしてんだよ! まず俺に謝りなさい。そして仕送りを増やすように母上と交渉してきなさい」
「えーやだー。それより褒めてよ!」
着信音の出所が判明したのはいいが、現状はおよそ変わらない。挙げ句、妹は自分の悪戯の成功を褒めてと抜かしてきた。こんな風に育てた覚えありません!
「はいはい。そんなことより用件はなんだ? 着信音だけだったら切るぞ」
「えーっと、今度親戚で集まるらしくて日にち決まり次第連絡するから来るように、だってー」
「・・・・・・了解」
「正直、アタシはどうでもいいと思うんだけどね。別に無理に来ることないよ。用件は以上! 今度遊びに行くねー」
「おう、サンキューな。母さん達によろしく言っといてくれ。来るときはちゃんと連絡しなさいよ」
西宮がいたので用件をひとしきり聞いて早めに通話を切った。
「よし、じゃあ行くか」
「急ぎの用じゃなくてよかったね。さてと、お菓子買ってお邪魔させてもらおうかな」
「同じ種類を沢山買おうぜ!」
「飽きるからやめようね」
いつも通りのくだらない会話をして自宅に向かう。だけど、俺は何故か浮かない表情が少々出ていたのかもしれない。自宅に向かう道中で、西宮との会話が少しずつ途切れたりしていた。
先ほどの妹との会話で、地元であった嫌なことを思い出したからかもしれないな・・・・・・