3話
「――で、あるからにして……今日はここまでにします。みなさん今日の内容はしっかりと復習しておくように」
大きな講義室に、生徒たちのざわめきの中、先生の声が響き渡る。俺は少し前に、周囲が筆記用具やら教材を鞄にしまう音で目が覚めていた。しかし、未だに机に突っ伏していた。
いやー、たまに目が覚めて正面を向いたり教科書見ていたりしていたけど、何を言っているのかさっぱりでしたねー
俺は講義中、時折寝たふりして顔を左右に向け、楽な姿勢を探していた。さらに、俺は薄目を開けて周囲の状況など確認していたが、隣の西宮は俺がそうしている間黙々と講義を受けていた。後ろのカナはたまにうとうとしていたが、大半はまじめに講義を受けていた。
講義中は俺と同じように寝ているもの、もしくは漫画やゲーム、携帯をしているものが目についていた。
「旭、講義終わったよ。起きてる?」
西宮が俺を起こそうとして声をかけながら揺する。
「おう、起きてはいるんだけどさ……眠い」
「講義中ほとんど寝ていた人が言う台詞かい? ほら、次の講義が始まるみたいだから早く席どかないと」
苦笑しながら再度揺すり始める西宮。そして未だに起き上がらない俺。
「パトラッシュ……僕はもう疲れたよ」
「はいはい、僕は別にいいんだけどさ。ただ、そろそろ起きないとカナにお願いすることになるんだけど」
「さーて、そろそろ出ないと次の人の邪魔になっちゃうから行こうか西宮君。おっと、カナさんそろそろ僕の胸倉から手をどかしてくれないかな? すいませんでした! 離していただけると心から嬉しいです!!」
「チッ」
「待って、その舌打ちはいったい何!? 右手を握って息を吐きかけないでもらえますか!? それ明らかに殴る前のフォーム!!」
無言で俺の胸倉を掴み続けるカナの目は明らかに光がなかった。
いや、もうマジで怖いって! 俺の事を人と思ってなかったって絶対!
「西宮もいつまでもこんなゴミの世話しなくたっていいのに」
「うーん、まぁそれはおいおい考えさせてもらうよ」
やっぱり俺のこと人と思ってなかった! ゴミって酷くね!?
「待ってください。ゴミは流石に酷いと思います」
「水野、アンタ今までの行動振り返った事ある?」
「ある。だからこそ言う、俺はどうしようもないクズだ」
「……旭、自分で言ってて悲しくない?」
悲しいに決まってるだろ! そうじゃなかったら言葉の最後、涙声になってないわ! ちくしょう!!
残念な会話をしながら俺達は講義室を出て、食堂に向かった。
午後に行われるはずだった講義が急遽休講になったと、カナが言った。友人がメールで教えてくれたとのこと。それを聞いた西宮が不思議がった。
「午後って確か森先生の講義だっけ? 珍しいね、何かあったら前もって言っとく人なのに」
「そうそう。何でも、講義開始時間になっても来なかったらしくて生徒が他の先生に伝えたところ今日は無しになったんだってー」
「風邪でも引いたんだろ。とりあえず、俺は宿題やってなかったからラッキー!」
「残念、他にいる同じ科目の先生が課題だしたから大変よー」
「多分、先週のやつの続きと先に進んだことするんだろうね」
「何だって!? 先生早く戻ってきて! でも、そうなると宿題がぁー!」
「少しは前もってやっとくとかしなさいよ……」
本当、毎回反省するんだけど、どうしても直せないんだよね!
食堂で食券を買い、それぞれ食べる料理を持っていき空いてる席に座った。
あまり空いていない4人掛けテーブルが空いていたので使うことにした。
西宮は学生ラーメンを、カナはスパゲッティを選んだらしい。俺は断然かけうどん! ここのかけうどんは安いしそれなりに美味い。一人暮らしで、仕送り生活の俺にはちょうどいいんだ。
「「「いただきまーす」」」
3人同時に食べ始める。
いやー、一人暮らしだとみんなで食べる機会が無くなるから実はちょっと寂しかったりするんだよね。まぁ、大抵パソコンやりながら食べるから自由気ままなんだけどさ。
食べ物を飲み込み、考える素振りをしながら西宮が言った。
「とりあえず、帰ろうかな。午後の講義が無くなってしまったようだし、今日は他にもう講義無いからね」
「アタシも買いたいものあるし、食べ終わったら帰るかな」
同調するようにカナも言った。どうやら、カナも帰るようだ。
俺も特にいる予定ないし帰るとするかな。
「あ、西宮今日の分とかノート貸してくれ!」
「漫画を選んでからノートは渡すよ」
ちぃ!! コイツ覚えてやがったか!
「ふう、わかった。だったらさ飯食べ終わった後に俺ん家来いよ、ついでに遊ぼうぜ」
「いいね。この前のゲームの続きもしたいし、そうしようか」
「アンタらって気楽よねー、ほんと」
カナは、嘆息しながらフォークを回し、スパゲッティを巻き取って食べていた。
俺はその言葉を聞き、口に運ぼうとしていたうどんを皿に戻してカナに反論した。
「何言ってんだよ。この前遊んだ時に一番ゲームに熱中してて盛り上がってたのカナじゃねえか」
「そうそう。僕もやりたかったのにさ。まぁ、カナが中々代ってくれなかったおかげで僕は漫画を沢山読めれたけどね」
西宮も同調する。あの時は確かにカナがずっとやってて、お前漫画ばっか読んでたもんな。
そして黙々とラーメンを食べはじめる西宮。よく見てみるとスープを吸ってか、若干伸びている。
俺と西宮の言葉を聞いてカナは顔を少々顔を赤くした。
「だって、ボスがあとちょっとってところで倒せないんだもん! あそこまで行ったら倒したいと思うじゃない!」
「でもさ、流石に夜の11時まではやりすぎじゃね?」
昼の2時ぐらいから俺の家でずっと雑談にゲーム、お菓子てんこ盛りは流石にキツかったって……。
「あのボスがあとちょっとってところでこっちの身動きを封じるあの技! あれさえ使われてなかったら余裕なのに!」
「まぁ、そうじゃなきゃ面白くないし……あ、そうだ。身動きできないで思い出した。実は、今日変な夢みてさ~」
俺は、あの変な夢の事を思い出した。あれはいったい何だったのだろうか
カナは一瞬怪訝そうな顔をして、すぐに、どうでもいい感の顔になった。
「変な夢? どうせ、夢の中でも寝てたんじゃないの」
「違うわ! 俺だって流石に夢の中は起きてるって!」
「で、その内容は?」
俺はあの変な夢の事を頑張って思いだそうとして腕を組み、目をつぶった。
「どっかの屋上かな? そこでなぜか知らないけど手が見えない何かで縛られてるみたいに後ろで動かなくてさ。で、椅子に座ってたら何かが屋上のドアを開けたんだよ。そして近づく足音が聞こえ始めて、視界の隅にやっとそれが入った途端、体が硬直して動けなくなったんだよ。んで、その何かなんだけどさ……あれ、何だっけ」
急に靄ががかったように思い出せない。もう一度最初から思い出そうとすると、今度は更に靄がかかってしまって先程より思い出せなくなっていた。
「あれ、屋上で縛られて座ってて……あれ? その後どうなったんだっけ」
「? ごめん、全然わからない。アンタは座ってて足音聞こえた後に体が硬直して何を見たの?」
怪訝そうな顔をしたカナが俺の夢の話を繰り返した。
「え、屋上で……俺そんな事言った?」
そんな事話した記憶が無い。あれ、何かを話そうとしてた気がする。確か、学校に来る前に……あれ?
「はあ? アンタが変な夢を見たっていったんでしょ。何、ふざけてるの?」
「変な夢? あれ、そんな話今してたっけ?」
「……アンタ、ホント大丈夫?」
カナのはイライラと心配が入り混じった顔をしていた。
なぜカナがそうなっているのか俺にはわからないし、それにこの頭に引っかかるモヤモヤ感もわからない。
「何? どうかしたの?」
急に雰囲気が変わったのを感じたのか西宮がそんな俺達に声をかけた。
「ん? あー、まぁなんでもないかな? まだ寝ぼけてんのかなー俺」
「アンタはいっつも寝てるくせに」
「それは言わないお約束でしょ!!」
カナの心にくるツッコミを茶化して躱す!
とりあえず、寝起きの所為にして切り抜けることはできたが、如何せん俺の中にはモヤモヤが晴れなかった。
(確かに俺は何かを言おうとしてた、でもそれが思い出せない)
自分がどうかしてしまったんじゃないかと思うと同時に、遂に記憶までクズになったのかと自己嫌悪に陥った。
「まぁいいさ。それより早く食べ終わって俺ん家行こうぜ!」
そういって俺のうどんを見る。
そこには、これでもか! ってぐらいに自己主張している伸びきったうどんがあった。
oh……ナンテコッタイ