脅威の天狗
家に帰った俺は神守さんに尋ねた。
「神守さん、あれは何? 天狗?」
神守さんは少し黙り込んで
「そうですね、話しておかなければなりませんね」
神守さんは俺が用意したお茶を一口飲んで
「あの天狗を私達は二つ毒鎌と呼んでいます」
「確かに両刃鎌持ってたな、やっぱり俺を狙う奴なのか?」
「はい、閻魔大王様が倒れたのはあの毒鎌にやられたからです」
「え? 閻魔大王が」
父さんじゃなくて本物の閻魔大王がやられたらしい
「更に数日前、閻魔大王代理様も二つ毒鎌に襲われました」
「えっ、父さんが!」
「大丈夫です、あちらには私の父上がいますので」
「神守さんの父さん」
「はい、私の何倍も強いお方です」
神守さんの何倍も強いなんて恐ろしすぎる
「二つ毒鎌が奏樹様を狙い始めるのが予測より早いようですね」
そういいながら神守さんは棍棒を出した
「神守さん?」
「ご安心下さい、奏樹様は私がお守り致します」
神守さんは笑顔で言った。
それから数日の間、神守さんは一睡もせずに俺の護衛をしている。
「神守さん、休んでよ」
「そうはいきません、二つ毒鎌がいつ来るかわかりませんので」
口調ははっきりしているが目は虚ろだ
「そんなんじゃ倒れて護衛どころじゃなくなる」
「そんな事はありません、私は立派な守鬼ですから大丈夫です、この道のプロなのです」
しかし顔は見るからにやつれている.
「プロなら休息も大事だろ、俺は大丈夫だから寝てくれ」
「大丈夫です……」
俺はわざと声を低くした
「じゃあ今二つ毒鎌が来たとして相手出来るのか」
神守さんは少し黙り込んで
「……厳しいかもしれません」
「厳しいじゃない、無理なんだろうが」
「….…はい」
「じゃあ寝とけ」
神守さんは少し安心した顔でベッドに潜った。
数分後、神守さんは無事に眠りについたようだ。
「…………」
神守さんが喋らなくなったとたん部屋は静かになった、当然と言えば当然なのだがなんだか寂しい
そういえば神守さんが寝ている所を見るのは初めてな気がする、それほどまでに神守さんは俺を護衛していたのだ。
「……ゆっくり休んで」
そう呟いて俺は本を読む事にした、本棚から本を出して歩きながらその本を開いた瞬間、窓も開けて無いのに風が吹いた。
それと同時に本は真っ二つになり俺の服は少し破れた。
反射でしゃがんだ瞬間後ろの本棚にあった本が切り裂かれる
「二つ毒鎌……」
神守さんを起こすべきか、その一瞬の迷いが隙を作った。
目の前に天狗……二つ毒鎌があらわれて鎌を振りかざす
「ぐっ……」
咄嗟に後ろに飛んだが鎌の先が腕を切り裂き血が吹き出す
後ろに飛んだ俺は勢い余って本棚にぶつかった。
落ちてきた大量の本はその異名となる両刃鎌に一瞬にして斬りさかれた。
二つ毒鎌はそのまま鎌を器用に回しながら狙いを定めるようにゆっくりとその鎌を振り下ろした。
「……っ」
いつの間にか起きていた神守さんの手から血が落ちる。
「……覚悟」
神守さんは掴んだ鎌の刃がどんどん食い込んでいくのを他所に棍棒を取り出して二つ毒鎌に向かって振るう。
「……覚悟するのは汝ぞ」
顔を棍棒で殴られたにもかかわらず二つ毒鎌は鎌に力を入れる事をやめない
「……ああ!!」
神守さんは呻き声にも叫び声にも聞こえる声を出しながら何度も棍棒を振るう。
俺は近くにあった二本ドライバーを掴み立ち上がると同時にその一つを二つ毒鎌の目に向けて投げる
「笑止!!」
二つ毒鎌は大きな黒い翼を広げていともたやすくドライバーを弾きかえす
翼で死角になった所をめがけてドライバーを振り下ろす
「……笑止じゃねぇよな」
翼を貫いた嫌な感触と混乱をクサイセリフで誤魔化そうとする
「いかにも、ここは我に適さない」
そう言いながら二つ毒鎌は無駄の無い動きで翼を使わずに天井をすり抜けていった。
「神守さ……」
「奏樹様!!」
俺が駆け寄る前にびっくりするほどの速さで神守さんが俺の腕を掴んだ。
神守さんは深呼吸をして
「失礼、解毒します……」
俺の傷口を吸い始めた
「ちょ……」
神守さんは俺の傷口から口を離しティッシュに唾をはいて
「……毒は無いようですね」
よかった……じゃなくて
「神守さんこそ毒が……」
事態の緊急性に気づいた俺は神守さんの手を持って
「解毒しなきゃ!」
「ひゃ……!?」
神守さんが聞いたこともない高い声を出して凄い力で手を振り払う
「じ……自分で出来ます」
そういって自分で解毒を始めた