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勇者の歴史ーーー黒歴史。



チョットふざけた、しかしマトモなチートバトルを書いてみたいと思います。今回は、何時もはどんな時でも正義の味方『勇者』を悪役として、何時もは悪者の『魔王』を正義役として書いています。


闘いを通しながら、正義とは一体何か?悪は本当に悪いのか?といった感じのテーマを紐解いて行く感じです。良かったら読んでいって見てください。





全てが石垣で覆われた、まるでおとぎ話に出てくる『チキュウ』という星の西洋のお城のような、そんな造の部屋の中に十三の人々が闘いを繰り広げていた。


一人は大きな玉座と呼ばれる物の前で膝をついている。とても長い黒色のロングコートに身を包み、ゴールドの装飾品をあちらこちらに身につけている。そして、その全てがボロボロに傷つけられていて、まるで刃物に切られたかのようなコートの奥からは血が滲み出ていた。長い黒髪に隠れて光る紅の瞳が苦しそうに歪んでいる。外見から察するに、相当なダメージを体に受けているようだ。


そして、それは残りの十二人の者達も同じだった。


玉座から続く長いカーペットの上には、装飾品や装備品、髪の長さや肌の色、瞳の色から性別まで違っていたが、それぞれが跪いている黒色のロングコートの男と同じくらいにダメージを負っている十二人の人達がいる。


形勢は五分にも見えなくはない。が、圧倒的に黒色のロングコートの男の方が不利だと思われる。


おそらくこの闘いは十分や二十分といった短期戦でないことは確かだ。その証拠として、周りの建造物はボロボロに崩れ去っていて、十三人全員が肩で息をしている。


十三人。確かに、十三人と数える事ができるのだが、実質は十二人と言った方が正しい。


何故なら、玉座の前で膝をついている黒色のロングコートの男は人間ではない。現在この世界を恐怖によって支配している、魔王なのだ。そして、残りの十二人はその魔王を倒すべく立ち上がった勇者様御一行。つまり、RPG風ゲイムで言えば、これは最終決戦の最後の場面と言えるだろう。


勇者側から一人、リーダーと思われる全身ボロボロの鎧に身を包んだ男が、ロングソードを魔王に向け言葉を発した。


「魔王アルバートよっ!貴様は強いっ!我々十二人が束になって闘いを挑んでも、ギリギリ五分五分の勝負しかできないのが何よりの証拠っ!」


あれほどのダメージを負いながら何処にそのような大声で発する体力を残していたのか、些か疑問ではあるが、今はそれを問いただす時ではない。勇者は続けて言葉を発する。


「だが、貴様ももうわかっているはずだっ!これ以上の闘いは無駄だとっ!短期戦ならまだしも、長期戦となれば貴様に勝ち目はないっ!大人しく降伏しろっ!さもなけば、お前をこの場で処刑するっ!」


「ちっ………」


勇者の言葉に魔王は、魔王アルバートは舌打ちをする。その口から血が漏れ出してきているところを見ると、想像しているより何倍ものダメージを負っているのかもしれない。


魔王は勇者の言葉をよく理解できた。よく理解できたからこそ、舌打ちという形で不満をあらわにしてしまうのだ。


魔王は強い。この世に『チート』と呼ばれる存在があるとすれば、それは魔王の事を指すだろう。魔王が剣を振るえば大地は裂け、魔王が手を払えば天候を変えてしまう。そのような力を無限大ともいえるほど蓄えている者が魔王だ。


だが、その魔王も無敵ではない。ここにいる勇者十二人、魔王の最大の弱点である『聖剣』を身につけていては、いくら魔王と言えども確実に勝てる保証はない。その証拠に、現在の構図ができあがっていて、今まさに倒されそうになっている。


「………」


魔王は無言で立ち上がる。それと同時に床に落ちていた魔王の大剣【魔剣バハムート】を右手に持ち、勇者に向けて構えのポーズをとる。


「………降伏はしないと?」


とても残念そうに呟く勇者とは打って変わって、魔王はその傷には似合わないほどの笑みを浮かべながら返答を返す。


「部下はお前達に八つ裂きにされ、妻も目の前で殺された。生憎、俺様には何も残ってねぇーんだ。降伏する意味は………ねぇよっ!」


最後の言葉を言い終えたと同時に、魔王は勢いよく地面を蹴る。大剣の構えを右斜め上の上段に変更して、勇者に向かって一直線に飛んでいく。


「それは残念だよ………アルバートっ!」


魔王の名前を叫ぶ勇者は、その場でロングソードを右斜め下がの下段に構える。次第にロングソードは金色こんじきに輝き始める………『聖剣』の技の一つ、金剛剣だ。


「おぉぉぉおおおおっ!!!」


魔王が叫ぶ。


「はぁぁあああああっ!!!」


勇者が叫ぶ。


おそらく、これが最後の一撃となるであろうと、他の十一人の勇者は悟っていた。


全身鎧の勇者ほどの体力が残っている勇者はいない。そして、仮に魔王がこの勝負に勝ったとしても、残り十一人全ての勇者を倒せるほどの体力も魔王は残っていない。つまり、この闘いは既に決着がついているのだ。


それは魔王にもわかっているはずだ。だが、あえて魔王は降伏という選択肢を取らなかった。その理由は魔王自らが語っていたが、たかだか人間の考えで魔王の考えを理解できるほど頭のいい勇者はここには誰もいない。だから、勇者にはわからないのだ。魔王が何故死を望むのかが………。



ーーーギギィィインッ!!



魔王と勇者の剣と体がが交わる。両者ともに倒れる気配はない。互いの全力を出し切った後に残る、妙な静けさだけがこの場を満たしていた。


だが、それも一瞬の事。


「………がはっ………!」


魔王の体が崩れ落ちる。左脇腹がら首筋にかけてまで大きく刻み込んだ剣の傷跡から、大量の血しぶきが上がった。辛うじて体はくっついているものの、内臓が切り裂かれ、中にははみ出しているものすら見受けられる。もう修復も治療も不可能だ。この瞬間、十二人の勇者全員が魔王に勝利したことを確信する。


「………」


魔王を斬り裂いた勇者はしばし無言でその場で固まり、呼吸が落ち着くと同時に魔王の方へと体を向ける。動く気配が感じられない魔王は、大量の血の池に囲まれていた。勇者は魔王へと近づき、トドメの一刺しと言わんばかりに頭にめがけてロングソードを突き刺した。


すると、魔王の体はみるみるうちに黒い煙のような物へ変換され、最後には体をそのものがなくなってしまった。完全に、勇者側の勝利である。


「終わったな、ディルク」


魔王にトドメを刺した勇者をディルクと呼ぶ人物は、十二人の勇者の中で二番目に強い者だ。金髪の髪に青い瞳、右手に身長の半分ほどの盾と左手に一バラットほどの長さの片手剣を所有している。見た目だけで言えば、ロングソード一本だけのディルクと呼ばれる勇者より、よほど勇者らしい格好をしている。


「あぁ………終わったよ。全部終わった」


ディルクが言うことに呼応するように、十一人の勇者は皆頷く。


「お疲れ、ディルク」


「お疲れ様です、ディルク」


「お疲れーっ!」


それぞれが皆の苦労をねぎらう言葉を発して、慰め合う。


こうして、世界は平和と秩序を取り戻したのだ。そして、この物語は後に伝説となり語り継がれるのであった。



END.
























































ーーーここまでが、語り継がれている勇者様のお話。ここからが、語り継がれていない勇者様のその後のお話ーーー



「これで、本当に終わったんだよな、ディルク?」


そうディルクに聞いてきたのは、実力二番目の勇者だった。ディルクはそれに頬目みながら答える。


「いいや、違うよエグモント。これから始まるのさ」


もし、黒歴史と言う物が存在するのであれば、このことを示すのかもしれない。この時の勇者達の顔は、世界を恐怖で支配した魔王アルバートよりもエゲツない笑みを浮かべていたことなど、一般市民が知ることなどできないのだから。


そして、ディルクは不気味な笑みを浮かべながらこう返した。






ーーー俺たちによる、世界の支配が始まるんだよーーー





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