『必殺海底仕事人』 急
カレッタ号に入った琉からの無線。しかし連絡は途中で途絶えた! 一体流に何があったのだろうか!?
カレッタ号に走った水中無線。琉の言葉は何かを言いかけて突如として切れた。一体何があったのか、話は十数分前に遡る。
「全く、ワイヤーにも汁掛けやがって……。全く、いつものことだが遺跡に長居は無用だな。さっさと見つけ出して帰っちまおう」
琉はワイヤーに着いた毒液を払うと、レーダーの反応する位置に急いだ。辺りを照らし、周りのモノには目もくれず、ひたすら宝の山を目指す琉。これを入手出来ればロッサの秘密が高確率で見つかるだけでなく、この後しばらく食い繋ぐことも可能である。
「ここかッ!」
パルトネールは依然として反応を示している。それも無視して、琉はスクリューを使って突き進んだ。もはや歩いてなどいられない、宝の場所はもう近い。とうとう琉はレーダーの捉えていたモノを探し当てた。そこには数々の宝石や鉱石、更に当時の調度品と思われるモノが大量に置いてあったのだ。
「ここは倉庫か何かだったんかな? 今までスルーされてたのが不思議なくらいだぜ。では、回収と参りますか……そうはいかないか」
琉はそう言うと背後に振り向いてサーベルの先端を突き付けた。そこには何十体ものパントーダがおり、その中に一体だけひと際大きな個体が混じっていた。普通のパントーダでも足を広げれば3m近くあるモノだが、この個体は実に12mほどの大きさである。
「なるほど、罠ってワケか。案外頭が良いんだな。残念ながらコイツは“生きて”もらい受けるぜ! アードラー!!」
琉はアードラーを呼んだ。たちまちパントーダ達の背後からアードラーが突進する。パントーダ達はアードラー目がけてその口を向けた。
「吐かせてたまるか! アードラー・バックスティング!!」
アードラーの尾の付け根に付いた棘から、無数の針状の光線が放たれた。光線はパントーダ達に降り注ぎ、毒液を吐こうとした個体は次々に消滅していった。その隙に琉はアードラーを近くに寄せるとそのカバーを外し、琉はつかさず宝をいくつか詰め込んだ。そしてアードラーの光線を盾にしつつ、残りの大きなモノを窓の外に置いたのである。
「さて、後は奴らを外まで誘導すれば……何ッ!? しまった!!」
何と回収している間に、琉はパントーダの群れに包囲されていたのである。どうやらこの外にも伏兵がいたらしい。パントーダ達は一斉に毒液を吹き始めた。咄嗟にアードラーを抱え、バックスティングで応戦する琉だったが時はすでに遅し。琉のいる階層の壁が、天井が、柱が溶けて崩れ始めたのである。
「止むを得ん、ロッサ、マズいことになった! 今から俺の言う通りにしてくれ、良いな……うわぁッ!?」
ロッサに連絡を入れようとした琉に、巨大パントーダの吐く大量の毒液が襲いかかった。アードラーを使ってかわした琉であったが、よりにもよって水中無線に使う装置に毒液が付着、溶かされてしまったのである。
「キシュシュシュシシシャァァァァ!!」
巨大パントーダの鳴き声が響く。たちまち無数のパントーダがハサミを振りかざして琉に襲いかかった。アードラーに乗り、あちこちに垂れ下がる毒液をかわしながら琉は応戦した。しかし斬れども突けども相手は無尽蔵に現れる。その上塔は今崩壊の危機。それでも助けが呼べない以上、こうする他はない。
「もう一発だけサービスだ、アードラー・バックスティング!!」
琉はアードラーにしがみ付き、その場で回転しながらバックスティングを放った。塔を崩さず、複数の相手に決定打を与えられる技は現在これの他ない。辺りのパントーダを一掃したのを見るや否や、琉は巨大パントーダにバックスティングを放った。三本の棘を一か所に向け、針状の光線は巨大な影に次々に飛んでゆく。やがて相手は脚を縮こめ、動かなくなっていった。
「やったか!?」
しかし喜びもつかの間。塔の天井が遂に溶け崩れ、琉の頭上に降り注いだ。
「しまった!!」
アードラーを外に向け、脱出を試みる琉。しかし脱出寸前に出口はガレキに塞がれた。崩れた衝撃で辺りの水が濁り、急激に視界が悪くなる。遂に琉は腹をくくり、そっと目を閉じた。通信が途絶えて助けを呼ぶこともままならず、ガラガラと崩れゆく塔と運命を共にし、わずか25年という短い生涯を終えようとしていた。
(カズ、ジャック、ゲオ、アル、そしてロッサ……。すまねぇ、俺は一足先にあっちに行くぜ。)
塔の先端が、音を立てて深海の闇に沈んでゆく。突然の轟音に驚いてか、塔の内部にいた生物が次々に飛び出て来た。琉のいたフロアが、ガレキに包まれて消えてゆく。琉にはただ、死を待つ他なかった……と、思われた。
「琉! 琉ッ!! しっかりして、琉!!」
聞き覚えのある声が琉の耳に入り、彼の体を何モノかが揺り動かす。
「その声は……ロッサ? ロッサなのか? ……そうか、ここはあの世か……」
「何言ってるの琉! ここは海の中!!」
「海ン中? そうだよな。俺は塔と一緒に……ってえぇっ!?」
やっと我に返った琉。気が付けば、別の塔の先端で柔らかい誰かに抱かれている。目を開けば、そこには紅い目の美女がこちらの顔を覗き込んでいた。琉はガバッと起き上がって周りを見て、言った。
「た、助かったのか? ……ロッサ!? 一体どうやってここまで……てか、息は大丈夫か!?」
「わたしなら大丈夫。息ならちゃんと出来てるから。それにどうやって来たかって言うと……」
途絶えた連絡を受けたロッサ。琉に何かが起きている、そう確信した彼女だが、カレッタ号の操縦は彼女には出来ない。ではどうすれば良いか。途方に暮れた彼女はあることを思いついたのである。
(そういえば、琉が飛び込んだあの扉、あれを使えば……!)
すぐさまロッサはラング装置の部屋に向かった。飛び込んだ扉は閉じている。しかし、彼女にはどってことのないモノだった。ロッサは自分の体を液化すると、わずかな隙間から入り込み、海中に出たのである。
(琉、待ってて!)
ロッサは額の目を使って琉を探した。すると一つ崩れかけている塔の中に、大量のハルムと一人のヒトを見つけたのである。ロッサは再び体を液化すると、そのまま塔目がけて突き進んだ。途端に崩れだした塔。ロッサは夢中になり、塔の内部に入り込んで琉とアードラーを抱え、素早く外に引っ張り出したのである。
「ロッサ……よくやったな……」
満身創痍の琉。しかし喜ぶのはまだ早かった。崩れた塔のフロアに向かい、無数のパントーダが集結していたのである。
「何だ、仇打ちにでも来たのか?」
そう思った瞬間。塔のガレキの隙間から、あの毒液が吹き出て来たのである。毒液は塔どころか周りのパントーダ達にまで絡みつき、瞬く間に溶かしていくではないか!
「共食いか……?」
周りを溶かした毒液が、再び塔の内部へと戻ってゆく。そして次の瞬間、塔のガレキをはじき飛ばしてあの巨大パントーダが現れたのである! それも、先程の二倍近くの体格となって。
「琉、気を付けて。あそこまで“融合”した奴は船をも溶かす力がある」
記憶が少し戻ったのか、ロッサは琉にそう忠告した。
「言われなくても分かってる……。しかし、塔の外なら存分に暴れられるな!!」
琉はアードラーに乗ると再び先程の塔に向かった。体を液化し、その後を追うロッサ。
「生憎だったな、塔の外なら遠慮はしないぜ。さっきのお返しをさせてもらおうか……パルトネール・チェイン!」
琉はパルトネールをチェインに変え、分銅を放った。一方ロッサも狩りの腕を構え、指先を引き延ばして鞭のように叩きつけた。毒液を吐くパントーダ。しかし広大なフィールドを手にした今の琉にそんなモノは通じない。一方ロッサは体を液化させ、果敢にも毒液の中に突っ込み、口の中に突撃した。
「ロッサ!? 大丈夫か!!」
しかし次の瞬間、ロッサはパントーダの胴を突き破って現れた。見た所体に別条はなさそうである。一方のパントーダは胴をやられ、悶え苦しんでいるようにも見えた。
「大丈夫、元々溶けてるようなモノだから。しかしあそこまでされると流石に硬すぎて食べられない……」
「……そうか。よし、だったら後は俺に任せてくれ。奥の手を見せてやる」
琉はアードラーに乗ったままパントーダに近づいた。アードラーの上に立ち、琉は手を額の上に掲げて構えた。
「オセルスフラッシャー!」
掛け声とともに手を下げると、琉の額に付いた単眼と全身の模様が紅く発光し始めた。琉の視界にはロックオンマーカーが映り、その標的を相手の胴に合わせた琉は再び叫んだ。
「発射ァーーーーッ!!」
琉の叫びが海底に響く。次の瞬間、彼の単眼から紅い光線が放たれ、パントーダの体を貫いた。パントーダの巨大な体格は光線によって飛ばされ、塔の上から海底の闇の彼方へと堕ちていき、二度と上がってくることはなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
肩で息をする琉。残り時間もうわずか。二人はカレッタ号に戻ると海面まで浮上し、こうして長い2時間は終わりを告げたのであった。
今回は久々に「水中戦」と「遺跡探検」を書きました。いや、本来はこちらをメインにしたいのですが……。さて、予告です。
~次回予告~
「一体何者だったんだ?」
「これ……ワイン?」