『硬いことは良いことか』 序
~前回までのあらすじ~
謎の美女ロッサの記憶の手掛かりを求め、アルカリアまでやって来た琉。翌日に潜水調査を控え、市内観光と洒落ようとした二人を待っていたのはメンシェ教の罠だった! 何とか退けた琉達であったが、果たして二人は無事に調査することが出来るのであろうか!?
交番。あの後琉は、朝の騒ぎの中心人物の一人として警察に呼ばれたのだった。今、琉の目の前には警官服に身を包んだディアマンの青年がいる。
「……なるほど、周りの証言とも一致しますね。ということは、一方的に命を狙われた、と。そうそう、あの店主から例の薬物の反応が出ました」
琉は襲われた時のことを警官に話した。幸いにも目撃者が多く、琉がとった行為はいわゆる“正当防衛”であることが証明された。
「ところで、こういうことは過去にもありましたか? 何か、彼らから恨みを買うようなことでも」
「過去も何も、何度かやられてます。どうも奴らに、メンシェ教に目を付けられたみたいで……。心覚えと言ったら他の人種の知り合いが多いのと、以前に私の故郷にいた教徒を警察送りにしたのが原因ではないかな……」
琉はなるべくロッサに触れないように警官に話していた。オルガネシアでメンシェ教に破防法が適用されたという情報はアルカリアにも入っており、特にディアマンが多く住むこの国では警戒されていたのだ。
「分かりました。また何かあったら、こちらまで連絡して下さい」
琉が交番を出ると、すでに外は夕焼け空となっていた。
「琉、どうだった?」
「あぁ、無罪放免だ。ま、いつも言ってるけどさ、俺に前科は不要だぜ。さて、裏通りに行くか」
そういうと琉はアードラーに跨り、ハンドルを握った。二人は、今朝通った道のすぐ裏側……通称裏通りを通っていた。店が立ち並んで賑やかだった表通りと比べ、裏通りには生活感が溢れている。
「ここにはちょっとした穴場ああるんだが……その前に寄っておきたい場所があるんだ。ロッサ、自分の入ってた棺を覚えているかい?」
ロッサは海底遺跡の棺の中から発見された。しかしその棺は目覚めたロッサには不要となり、琉はある知り合いの所へこれを宅急便で送ったのである。
「覚えてる。でも、あれがどうかしたの?」
「ロッサ、君にとっては使い捨てのベッドかもしれんが、俺達にとっては当時の事を知るための貴重な資料なんだ。だから調べてもらうことにした。今日向かってるのはそれを調べている工房さ。実はさっき連絡があってね」
この国は主にディアマンとトヴェルクが住んでいる。あとは海端とオアシス付近にヒトが少しくらいか。逆に森林を好むアルヴァンは全くと言って良いほど見掛けない。ディアマンは鉱石等の“素材”に詳しく、一方トヴェルクは高い技術力を持っている。故に、このアルカリアは砂漠の国であると同時にモノ作りのメッカでもあるのだ。
「話によれば棺のことが少し分かったらしい。そして丁度俺がここにいると来た。……行くしかないよね? それにここで食える料理はほとんどがディアマンとトヴェルクの伝統料理が入り混じったモノでね、こう言った工房が発祥だったりするんだぜ」
やがて二人はある建物にたどり着いた。その壁と屋根には様々な生物を模したレリーフの見られ、中からは石を削る音やPCのキーボードを叩く音等が聞こえてくる。
「さて、到着だ。ちょっと待ってな」
琉はアードラーにヘルメットをしまうと同時に座席から一升瓶を取り出した。そして玄関に向かい、扉に付いているチャイムを押した。
『オキャクサンダヨ~!!』
明らかに分かりやすく、かつウケ狙いとしかとれないチャイム音が響く。数秒して、扉は大きな声とともに開いた。
「はいはい、どちらさんですか……おぉ! 琉ちゃん!!」
中から現れたのはディアマンの男であった。顔に石で出来たタイル状の鱗が生えており、額にはこれまた大きなダイヤモンドがはまっている。肘から手の甲にかけてゴツゴツとした殻状の石に覆われていた。ゴツい外見とは裏腹に、その喋り方はどこかのんびりとしていた。
「久しぶりだな、アル! お土産もあるぜ」
アルと呼ばれた男は扉を開け、琉達を出迎えた。
「早速上がってよぉ! ……おや、彼女が例の棺の?」
「ああ、そうだ。彼女がロッサだ、よろしくな。ロッサ、彼はアルベール。俺の昔からの知り合いだ」
アルベール・デュランダル、通称アル。ディアマンの男性で、琉がこの業界に入って以来の知り合いである。ディアマンは長生きでかつ成長が遅く、彼も見た目は若いが実は今年で50歳になる。しかしこの年齢、ヒトでいう25歳弱に相当するため、おやっさんと呼ぶにはまだ若かったりするのである。
「皆、今日はもう上がってぇ! 大事なお客さんなんだぁ!」
工房内で作業していた者は、次々に作業を止めて帰り始めた。
「何か悪いね、邪魔しちゃったみたいで」
「良いよ良いよ、こっちは商売だしぃ。そうだ、ちょっとここに座っててねぇ」
琉とロッサは事務室に案内され、席に着いた。
「おう! 琉ちゃんじゃないか!!」
そこにもう一人、トヴェルクの青年が入ってきた。
「ゲオ! 元気にやってたかい!?」
「あぁ、もちろんさ! ってあれ、彼女は?」
ゲオはロッサに気付いた。
「彼女はロッサ。例の棺に眠ってた子だ。……ロッサ、彼はゲオルク。ここの職人だ」
ゲオルク・ハインツェル、通称ゲオ。これまた琉の知り合いである。因みにここの工房の図面を引いたのは彼である。
「そうだ、せっかくだしお土産持って来たぜ!」
琉は持っていた一升瓶をテーブルにドン、と置いた。途端に彼の目が輝きだす。
「ヒャッハー! 泡盛だァー!!」
「そうだ、俺の故郷、ハイドロ島の泡盛さ。好きなんだろう?」
そこにアルが入ってきた。
「お待たせぇ。そうだ、御飯作らなくちゃねぇ。琉ちゃんも食べてくかい? 良いオオトカゲがあるけど」
「あ、良いかい? じゃあ手伝うよ!」
意気揚々と工房のキッチンに向かう琉。こうしてやっとアルカリアの料理にあり付けることとなった琉とロッサなのであった。
「聞いたぜ琉ちゃん、今朝は散々な目に遭ったんだって?」
ゲオが琉に聞いた。
「あぁ、水ん中にトラ電の中身入れられたぜ。あれ飲むと死ぬの通りすぎて火葬まで出来ちまうからなぁ……」
「あれは危ないよぉ。ヒトだったら丁度コップ一杯で灰になるからねぇ。まぁ、オイラ達ならその半分でも十分危ないけどさぁ、それだけあったらうちのPCがフル稼働で1週間使えるよぉ」
つまり琉とロッサの分を合わせると二週間分である。工房で最もかかるのは食費と燃料費なので、この話はあまりにもったいないことだというのがお分かりだろうか? 要するに琉を殺すのに使うくらいなら、彼らの所に持って行けばむしろ感謝されるところだったのである。
「どうせなら持ってきてよぉ」
「ダンナ、地味に無茶をおっしゃる……。密封してないんですぜ?」
新キャラ登場! それも、ディアマンのメインキャラが初登場致しました。彼らの活躍にもご期待下さいw