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Mystic Lady ~邂逅編~  作者: DIVER_RYU
第十三章『赤き瞳に映るモノ』
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『赤き瞳に映るモノ』 急

ハイドロ島に上がることになった琉とロッサ。島の子供達と戯れるロッサとフローラ。一方でメンシェ教の復元した古代兵器“エアハッカー”に対抗すべく、カズからトンファーを受け取った琉は……。

 琉はアードラーに駆け寄り、座席からヘルメットを取り出した。そして何やらスイッチをコチョコチョと触り始め、少し待った後に座席を開ける。するとなんと、何も入ってなかったはずのそこには琉の胴着が入っているではないか!


「胴着が湧いて来た!? これなんて手品?」


「違う違う、アードラーには小型の転送装置が付いててな、登録したモノならカレッタ号から直接転送することが出来るのさ。まぁ胴着は、本来アードラーを手に入れた時に試しに登録したモノなんだけどね」


 座席にヘルメットを戻し、胴着を抱えて道場に入る琉。しばらくして、胴着に着替えた琉が現れた。手には何かを何重にも巻き付けた木材をいくつか抱えている。


「これをこうおっ立ててだな……よし!」


 周りには地面に刺さった木材が3つ。それをメンシェ教徒を見るかのような目つきで睨みつけ、袖からトンファーを取り出して構える琉。途端に周りの子供達まで静かになってゆく。


「ハァッ!!」


 沈黙を破る琉のかけ声。トンファーを回すと、手前にあった木がものすごい音と共に倒された。つかさず他の木にも一撃を加える琉。最初の木が倒れるよりも早く、彼の脚が最後の木を捉えた! ドゴォという音と共に、木が倒される。


「ねぇ琉、最後トンファー関係ないんじゃ……」


「ロッサ、武器を持ったからと言ってそればっかりを使うとスキが出来るんだ。こういうのは組み合わせて使うのが正解なんだぜ。逆にメンシェ教徒はナイフならナイフで馬鹿正直に突っ込んでくるから攻撃が読みやすい。アイツら、薬をやるせいで頭がちょっと、な」


 そう言いつつ、木材を戻す琉。ついでに胴着も少し直すと、再びトンファーを構えた。今度は木材を5本に増やしている。


「でやぁーッ!!」


 琉のトンファーが木材を打ち、バシィッという音と共に一本、また一本となぎ倒してゆく。その動きは、今まで見たよりも鋭く、かつ生き生きとしているように感じられた。


「ハァッ! トゥッ!! タァァーッ!! アガッ(痛ッ)!?」


 最後の一本。勢い良く打ちつけられたトンファーは木材を叩き伏せ、ついでに琉自身までも叩き伏せたのであった。


「うぅ……」


「やっぱ練習して正解だったねぇ。こんなのメンシェ教徒の前でやったら……」


 カズの話では、トンファーは数ある武器の中でも扱いが難しいのだという。使いこなせばこれほど頼りになるモノはないが、慣れてないと自分を打つことになってしまうらしい。


「でたー! トンファーじばくー!!」


 見ていた子供の一人がそう言った。今のは“トンファー自爆”という技らしい。


「ハ、ハハハ……。これすごく痛いから、皆は気を付けような! あとロッサ、これは技じゃない、“事故”だ!」


 トンファーで自分を打つことが、笑ってすまされる状況。そのうちパルトネールを武器としてではなく本来の用途の工具として、わたしの翼を戦いではなく空を散歩するためのモノとして使える日が来たら良いな、と思っていた。


「お、琉ちゃんじゃないか。帰郷して早速道場に顔を出すとは中々感心だぞ」


 そこに、ちょっと聞き覚えのある低い声がした。背が高く、半袖の開襟シャツに身を包んだ初老の男性。


「マ、マスター! いや、今は“師範”と呼ぶ方がふさわしい、かな……」


 来たのは、わたしが初めてこの島に来た時にお世話になった、喫茶店のマスターだった。彼は喫茶店だけでなく、この道場のマスター――改め、“師範”でもあるらしい。


「ハハハ、どっちでも良いさ。そしてロッサちゃん、また会えたね」


「久しぶり! ねぇねぇ、またケーキ食べに行っても良ーい?」


「うむ、良いでしょう。琉ちゃん、トンファーの練習が終わったら私の店においで。そして……」


 マスターは、琉のトンファーを持つ手とその姿勢を見てから言葉を続けた。


「誰か、棒を持ったヤツに付き合ってもらいなさい。本気でトンファーを使う気なら、防ぐ訓練が必要だぞ。それじゃ、後で」


「は、はい!!」


 琉が返事をすると、マスターは去って行った。


「仕方ない、オレが付き合うよ」


 マスターが何処かに行った後、カズは家に戻って行く。琉はその間に木材を片付け、道場の奥から長い木の棒を持って来た。しばらくして、胴着に着替えたカズが入って来た。


「じゃあ、コレを」


 琉から棒を受け取り、カズはそれを軽く振り回す。手に馴染んだのか、カズは琉の方を向いて棒を構えた。


「おおお! カズニーニーと琉ニーニーのたいけつだー!!」


「ちがうちがう、“かたげいこ”だよ!」


 子供達に声援を受けつつ、武器を構えて対峙する二人。その様子を見たフローラが言った。


「おかあさん、なんであのふたりはケンカしてるのー?」


「違うよ。あれは“練習”」


「ふーん……」


 生まれて間もないフローラに武術はよく分からない。かくいうわたしも、二人が何をやろうとしているのかは見当がつかないのだが。


「まずはゆっくりだぜ。良いな?」


「おぅ」


「じゃあいくぜ……」


 カズの棒が、琉にゆっくりと振り下ろされる。すると琉の持つトンファーが、降ろされた棒を静かに受け止めた。カズは棒の降ろされてない方を琉に向け、足元を狙って突く。琉は狙われた自身の脚を上げ、トンファーを軽く回して受け止めた。カズは棒の真ん中に手を運び、棒を横になぎ払って琉の脇腹を打とうとする。琉の腕が棒の行く方向に向かって伸び、トンファーが棒を受けた。そのまま棒を上まで上げ、もう片手にあるトンファーがカズの脇腹目がけて入り込む――そこで二人の動きが止まった。


「よし、じゃあ次は普通にやるぞ……ロッサ様見てますかー!?」


「え、わたし?」


 今のカズの一言で、わたしと周りにいた子供達、そして琉までもが脱力した。思わず落としたトンファーを拾い上げ、琉が言う。


「おいおい、こんな時にアピールはおかしいだろ常識的に考え……おぉっと!!」


 不意を突き、カズの棒が琉に降ろされる。それも、さっきとは比べモノにならない勢いで!


「油断大敵だぜ琉! メンシェは手加減もクソもないんだろう!?」


 琉はトンファーで棒を受け、ふり払うと一端距離を置き、構えた。


「……分かってるじゃねぇか!」


 休む暇を与えず、カズの棒が足元を払わんと襲い掛かる。琉はさっきの動きの通りにトンファーを回して棒を防いだ。防がれた棒を持ち直し、琉の脇腹を狙うカズ。再びトンファーで受ける琉。受けたまま棒を持ち上げ、カズに近付いた琉は脇腹目がけて一撃を食らわせた。


「トゥッ! と……」


「なぁ琉、“試合”にしようぜ、どうかな?」


 体勢を立て直し、カズは琉に尋ねた。


「そうだな。その方が訓練になりそうだぜ」


「よぉし、そうなれば……。ブン、審判頼む!」


 カズは子供達の中でも一番大きな子を呼び出した。そして棒を片付けると、道場から釵を持って来たのである!


「なるほど、本気を出すってワケか……。さてはロッサへのアピールか?」


「う、うるせー! オレはアンタのために訓練に付き合ってるだけだ、別にロッサ様の気を引こうとなんぞ……」


 そう言いつつ、カズの目はわたしの方をチラチラと向いていた。


「ねぇカズ……」


「な、何でしょうロッサ様?」


「……がんばってね!」


 途端に真っ赤になるカズの顔。今にも鼻血が出てきそうだ。


「は、はは、はい!」


「ひゅーひゅー!」


 子供達がまた騒ぎ始める。それを見ていた琉が言った。


「カズ、これじゃあ負けられないねぇ! でも、俺もカッコ悪い所を見せるつもりはないからな!!」


「あの、ニーニー達、まずは礼しないと……」


 ブンに言われ、二人は向き合うと頭を下げた。そして頭を上げると武器を構え、対峙する。


「両者、始め!」


「いや、そこまで!!」


「え!?」


 ブンの声の後から、また別の低い声が響き出した。なんとマスターが、そこに来ていたのである


「君達、時計を見なさい。そろそろ道場を閉める時間だ」


「何なんだこの展開……」


 その場にいた全員から力が抜け、地面にへたり込んだ。


「早く着替えて、喫茶店までおいで!」


 それだけ言うと、マスターは喫茶店へと戻って行った。


「仕方ない。カズ、着替えて行こうぜ」


「そうだな。試合はまた今度にしようか!」



 ハイドロ島の喫茶店。ここでわたしは初めてケーキを食べ、コーヒーを飲んだ。今目の前でコーヒーを沸かしているマスター、彼が琉とカズに武術を教えたのだという。


「子供にコーヒーはちょっとキツい。これを出しておこうか」


 マスターはホットミルクをフローラに出した。


「しかし驚いたな。あれだけウブだった琉ちゃんが、今やここまで成長してるとは……」


「マスター、何かカン違いしてない? あの子は俺の子じゃあないぜ」


「……そうか。じゃあこれ以上は聞くまい」


 なんだか複雑な表情のマスター。何を考えているのだろうか?


「しかしロッサちゃん。こちらとしては子供を仕事場に、それも危険な旅に連れ回すのは感心しないな。誰かに預かってもらった方が良いんじゃないか?」


 マスターはわたしの方を向くとそう言った。


「え!? でも……」


 わたしは嫌だった。確かに危険なのは分かってる。でも元はといえば自分の一部、これ以上は離れたくない。


「マスター……。確かに、ロッサとしてはフローラから離れたくはないだろうし、フローラもロッサから離れるのはイヤだろう。しかし連れて行った先で、メンシェ教徒との戦いに巻き込まれたらひとたまりもないぞ。フローラはまだ体が小さい、スタンガンの一撃だけであの世に行っちまうだろう。……そして俺とて人の子だ、二人を護りきれる自身がない……」


 琉はコーヒーを飲みつつ悩んでいた。フローラを連れて行くべきか、この島に置いて行くべきか。


「琉ちゃん、何もかも一人で抱え込もうなんて思っちゃいけないよ。それに、アレを見て御覧」


 そう言われ、琉とわたしはマスターの指す方を見た。


「おにいちゃん、すごーい! なんでもしってるんだねー!!」


「へへっ、そう言われると照れちゃうな。ところでフローラちゃん、明日もあの子達と遊びたいとは思わないかい?」


 そこではカズが、フローラの守りをしていた。フローラはすっかりカズに懐いている。そしてあの子は、わたしの前であんな笑顔を見せたことがなかった。


「あそびたーい! でも、おかあさんのところにかえらないと……」


 わたしはハッとなった。わたしはわたしのことにか考えていない、スキあらば再び自分の一部に戻そうとしていたのである。しかしフローラはそんなことを望んでおらず、むしろカズや島の子供達と一緒に遊んでる方が楽しそうなのだ。そして今、フローラはわたしのことを考えていた。


「わたし“お母さん”なのに……自分が一緒にいたいってだけで、フローラを危険な目に合わせようとしていた……」


「ロッサ……そこまで自分を責めなくても……」


「あれぇ? おかあさん、どうしたの?」


 わたしが思いつめていた所に、フローラが話しかけて来た。


「あ、ううん。何でもない……」


「ねぇおかあさん、あの、その……」


 フローラは何か言いたそうだ。しかし、すぐには言い出せないでいる。それにわたしの顔色を伺っているようだ。


「このしまで……あしたもあそんでいい?」


「フローラ……」


 思ってもみなかった。まさか、フローラの方からそれを言い出してくるなんて。


「決まり、だな。カズ、よろしく頼むぜ。……そろそろ、船に戻ろうか」



 カレッタ号に戻った琉とわたし。この日の夕方に、わたしと琉はフローラとカズ、そして島の子供達に見送られながら島を出た。次なる目的地に行く前に、オキソ島に向かうのだと言う。


(フローラ……)


 部屋で一人、わたしは一人座り込んでいた。何だろう、この心にぽっかりと穴の空いたような、この気持ちは……。


「ロッサ、入って良いか?」


 扉の呼び出しが鳴り、琉が入って来た。どうやら自動操縦に切り替えたらしい。


「どうしたの?」


「まぁな、ちょっとしたモノを見せに来たぜ」


 そう言って琉は、懐から携帯電話を出して触り始めた。


「おかあさーん? きこえるー?」


「その声は……フローラ!?」


 わたしはすぐに携帯電話に飛び着いた。それをさらりと受け流し、琉が言う。


「そうがっくつくなよ。画面を見たまえ」


 琉に言われて画面を見る。そこにはフローラの顔が映っていた。


「あ、おかあさんだ! おかあさーん!」


「フローラ! え、どうなってるの、これ!?」


 携帯電話の中にフローラが!? 不可解だけど、目にはフローラが映っている。島に置いて来たはずのフローラが、今わたしの目の前にいるのである!


「テレビ電話機能。相手の顔を見ながら話が出来る、優れモノさ。さっきカズに頼んでダウンロードさせてもらったんだ。……アイツ、こんなんあるなら先に言えよ……」


 琉の携帯電話を取り上げ、わたしは夢中になってフローラに話しかけた。フローラとは離れ離れにはならない、これで毎日あの子に会える!


「さて、使命を果たせたことだし……あとはロッサの記憶を戻すのみか!」


 夕日の赤に染まる海。同じ赤に染まりつつ、カレッタ号はひた走る。いつかわたしの記憶を取り戻し、フローラと一緒に住むその日まで……。


これにて邂逅編は完結です。第3部は年が明けてしばらくしたら投稿します。邂逅編、新キャラクターの登場等で中々慌ただしい所でありました(汗)そしてラングアーマーやカレッタ号潜水形態の出番の少なさが少々気になっている次第に御座います。まぁそんな反省点を踏まえつつ、私はこの物語を書き上げる所存に御座ります。それでは皆々様、来年も琉とロッサの活躍をどうぞ応援して下さい! ではッ!!

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