『メンシェの予言が当たる時』 破
メンシェ教徒の言葉を確かめるべく、カズとフローラを島に残して海底基地へと向かう琉。しかしそれはメンシェ教徒の罠であった……。
ハイドロ島民家。カレッタ号を見送ったカズは、フローラを連れて自分の家に帰っていた。
「アイツのことだから大丈夫だろう。しかし頼まれたからには、な……」
フローラの見てる中、PCに向かうカズ。その片耳にはイヤホンが差しこまれていた。
「ねーねー、カズのおじちゃん。なにをやってるのー?」
「お、おじちゃん!? ……口の悪い子だね、“お兄ちゃん”と呼びなさい」
ニヤつきながら言うカズ。この男、いつもながら変人である。しかしニヤついた口元とおどけた口調に似合わず、その目は真剣そのものであった。
「じゃあお兄ちゃん、なにをやってるのー?」
「今ね、この島の人と、他の島の人の“これ”に、繋げているんだ。こうすることでね……」
一拍置いて、カズは話を再開した。
「すごく言い辛いけど、もし琉と君のお母さんが帰ってこなくて、この島が終わりそうになったら、このことを皆に伝えるのさ。ヤツらの、メンシェ教徒の声と共にね」
琉がカズを島に残した理由。それはフローラを託すためだけでなく、その情報屋としてのPC技術を買ってのことだった。もし自分が帰らず、本当に沈みそうになったら――この島の住民全員に連絡を出して島を脱出し、更にカルボ島とオキソ島に要請を出すように頼んでいたのである。
それだけではない。琉は自分に盗聴コインを付けることにより、情報は全てカズに筒抜けになるように仕向けたのである。琉は彼に、メンシェ教の情報を提供した上で広めてほしいのであった。
「帰って……こなくなる?」
「フローラちゃん、大丈夫だ。お母さんには琉が付いてる。アイツなら、きっと何とかやってくれる! ……ん!?」
片耳に差したイヤホンから轟音がする。カレッタ号が攻撃を受けた様子だ。ただならぬ音と気配にカズは身構えた。その様子を察してか、フローラも身構えるのであった。
「……何が起こっている? 攻撃か? 琉の操縦だ、何処かにぶつけたとは思えないんだが……」
目を閉じ、耳を澄ますカズ。やがて、彼の耳には船内で繰り広げられる押し問答が飛び込んできた。
「あたしもききたーい!」
その様子を見たフローラが声を上げた。
「はい。でも分かんないと思うけどな……ん!? またか!?」
カズがフローラにもう片方のイヤホンを渡すと、再びあの轟音が聞こえて来た。
「きゃっ!?」
思わず耳から離すフローラ。いきなりこれは刺激が強すぎたらしい。
「馬鹿な、琉が押されている!? ……ハリバット? レーダーに引っかからない擬態戦艦? ……基地までもが!? いかん、すぐに掲示板を立てねばッ!!」
ハイドロ湾海底。水深250mの闇の中で繰り広げられた戦い。しかしそれは、一方的かつ圧倒的な戦力差による制圧という形となってしまっていた。
6隻のハリバット。それらに囲まれ、連行されるカレッタ号。ある地点に辿りついた時、カレッタ側人間の目には信じられない光景が広がった。なんと、何もない海底に、突如巨大な施設が浮かび上がったのである。
「な、何なんだコイツは!? 一体、何がどうしてどうなってんだ!!」
ステルス装置は当然ながら、平和な時代を生きて来たために戦争を知らぬ琉。そのため姿を消す装置など、彼には想像がつかない。秘密裏に開発されたメンシェ教のテクノロジー。意表を突かれた琉は何度も目をこすって見ていた。
基地の巨大な扉が開き、その中へと曳航されるカレッタ号。内部に入るとエアドーム状となっており、琉は通信に従ってカレッタ号を通常形態に変形させると基地に入った。というよりは、基地に無理やり連れ出された。拘束されて早々にパルトネールを取り上げられ、抵抗することは出来なかった。
「む? おい、悪魔はどうした!!」
カレッタ号から引きずり出されたのは琉一人。不審に思ったメンシェ教徒が問い詰める。
「乗ってるのは俺一人、ロッサなら置いて来た。さぁ、煮るなり焼くなり好きにしろ! なんなら蒸しても構わんぜ!!」
「たわけたことをぬかすな。中を調べろ!」
メンシェ教徒がズカズカと船に入って行く。しかし10分後。
「いません! どうやら、本当に島に置いて来た様子!!」
船内を調べていたメンシェ教徒の一人が、出て来るなりそう言った。
「まぁ良い。どうせハイドロは明日の夜には海の底、その前に吹き上がったマグマで焼きつくされるがオチだ!」
「何処までハッタリを言う気だ? まさかアンタ達、本当に沈めようってんじゃ……うぐッ!?」
拘束されたまま大声を出す琉。しかし言い終わらぬうちに、リーダー格と思しきメンシェ教徒の拳が鳩尾をえぐった。
「うるさいぞ異端者。デカい声は反響する、しばらく黙っててもらおうか」
「ぐぅ……」
流石に効いたのか、琉は力なくうなだれた。しかし普段は歳に合わず円らなその瞳が、今は鋭い眼光を放っている。
「良いだろう、そんなに信じられぬなら目にモノ見せてやる。連れて来い!」
両腕を押さえられたまま、強引に連れて行かれる琉。よろよろと力ない足取りのまま、彼はある部屋に連れて来られたのであった。
「これは……!?」
ガラスの張られた巨大な部屋。その奥に、大量に並べられたモノ。一見それは潜水用のタンクに見えた。
「我々の開発したマグマ爆弾。どうだ、素晴らしかろう!」
「マグマ爆弾!? ……おい、爆弾などこんなに開発して、一体何をする気だ?」
そう言って食い入るように見入る琉。目の前に積まれているのは全て破壊のためだけに作られたモノ。琉はますます恐ろしく思った。これだけの量があれば、ハイドロどころかもっと人口の多いオキソ島すらも焦土に変えることが出来るだろう。そしてさっき、ツインレーザーをぶっ放していたなら――そう考えただけで、琉はますます恐ろしくなっていた。
「冥土の土産に教えてやる。この爆弾はマグマに投下し、高温で表面のカバーを溶かすことによってたちまち大爆発を起こす。すると地下のマグマが活性化し、この島は揺さぶられるというワケだ。もう一つ、面白いモノを御覧に入れよう」
得意げに話すメンシェ教徒。相手は、琉の表情が引きつってゆくのが面白くてたまらないらしい。敵に捕まったまま、基地の中を連れまわされる琉。今度は爆弾保管庫から少し離れた、巨大な窓であった。
窓の向こうでは複数のタワー状の機械が立ち並んでいた。この機械と基地の間を、先程の爆弾を積んだ小型艇が往復している。小型艇のクラストアームが爆弾を掴み、機械にセットしていく。既に何本かの機械には爆弾がセットされていた。
「既に何機かはテスト済みだ、これら全てにマグマ爆弾をセットし、一斉に起爆させれば……!」
「させれば……! まさか、アンタら本当にハイドロを!?」
「我々は嘘を付かん。不浄の地、ハイドロが沈むと言ったら沈むのだ、分かったかッ!!」
琉の顔面から血の気が引いてゆく。メンシェ教の狂気と脅威のテクノロジーを散々目の当たりにし、彼は怒りと悔しさと恐怖でわなわなと震えていた。いや、震えているように見えた。
「……か、お前達は……」
「ん? 今何と?」
「正気か、お前達は!? 島を沈めて、貴重な陸地を沈めて、ヒト族にとって何のメリットがある!!」
再び言葉を吐く琉。相手はそれを一笑に伏し、言った。
「見せしめにするのだ! 我々に逆らった島には“天罰”という形でこのような“粛清”を与える、同じ火山帯が通るオルガネシアの島はこれで我々に従うというモノだ! これで、これで私も高位の神官となり、食っていける……!!」
出世欲と物欲に目のくらんだメンシェ教徒。それを琉はジッと見据えていた。
「なるほど、じゃあこの爆弾さえなくなれば、ハイドロは沈まないんだね?」
そう言ってほくそ笑む琉。すると周りのメンシェ教徒達が一斉にゲラゲラと笑いだした。釣られて笑いだす琉。
「そういうことだ。しかし今の貴様には何も出来まい!」
「何も出来なければ、こんなことは言わないんだな!」
押さえつけていた二人を振り払う琉。振り払われた二人は、再び捕えようと襲い掛かる。しかし琉の脚が、容赦なく彼らをなぎ倒した。
「何をする気だ? ムダな抵抗はよせ!」
「“よせ”と言われて止めるほど、俺はお人好しじゃないぜ。行け、ロッサ!!」
琉が上着の襟を持ち、グワッと開く。すると彼の懐から突如赤い何かが飛びだし、周りの敵に襲い掛かった!
「うわッ、何だ今のは……!!」
ビシィ! という音と共に、さっきまで琉を押さえていたメンシェ教徒二人が崩れ落ちる。更に赤い影はパルトネールを持ったメンシェ教徒に飛び着くと、瞬く間にパルトネールを飲み込んで琉の元へ戻り、たちまちヒトの形へと変化してゆく。その姿は赤いドレスに身を包んだ、これまた赤い瞳の妖艶なる美女であった。
「はい、パルトネール。それにしても琉、大丈夫だった?」
「ロッサ、俺は大丈夫だぜ。……さぁ、ヒーローショーの始まりだ!」
果たして二人はここを脱出し、ハイドロ島を救えるのか!? 乞うご期待!!