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Mystic Lady ~邂逅編~  作者: DIVER_RYU
第十一章『ハイドロよ、琉は帰って来た』
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『ハイドロよ、琉は帰って来た』 急

カズを追って来たメンシェ教徒を、逆に捕えた琉とロッサ。迫真の演技ではぐらかしたカズとロッサだったが、メンシェ教徒の襲撃が始まった!

「本当だ! 我々の基地はハイドロ湾の底にある! 嘘など付いていない!!」


 必死で自白するメンシェ教徒。琉は表情を歪めたまま、その証言を聞いている。しかし相手の手に握られた、妙な機械には気付いていなかった。


「じゃあ聞こう。海底に基地を作り、一体何をやっている? 何も隠すんだったら他の場所があるだろうが」


「それは……」


 これ以上は言えないのだろうか。メンシェ教徒達は口を閉ざし、うつむき始めた。どうやら海底に基地を作ったのは、姿を隠す以外にも目的があるらしい。


「これ以上は言えないか、じゃあ別なことを聞かせてもらうぜ。どうやって基地を作った? ラング装者や他の種族の力を借りずに、どうやって海底に基地を作ったんだ!?」


 琉にとって、これは最大の疑問であった。これらの勢力を敵に回すメンシェ教に、そんな技術などあるワケない。そう思っていたからだ。


「……別に貴様らの力など借りなくとも、海底基地くらいなら作れるさ」


「ほう?」


 返って来た言葉は若干反抗的なモノであった。琉は一瞬豆鉄砲を食らったような表情をしたモノの、すぐに平静さを装った。


「なるほど、そちらはそちらで中々に優れた技術を持っていたのか……」


「当たり前だ! いつまでも異種族の技術にしがみ付いている貴様らとは違う! 貴様自身も分かっていることだろう、ヒト族が何故大洪水の後に海を制覇し、全ての陸地を発見出来たか! それはヒトが神に選ばれし優秀な種族だからだ!」


 琉の言葉に対し、メンシェ教徒は噛み付くようにセリフを吐いた。琉はそれを黙って聞き続ける。


「弱き種族は我々に屈して大人しくしていれば良いのだ! 我々は最も優れた種族、即ちこの世界の頂点に立つべき存在。その中でも神の力を受けた我々はヒトの中でも上位に立つべき存在なのだ!」


「本音が漏れたな。要するにこの世界のテッペンに立ちたいだけなんだろ? そしてそのために他の種族をダシに使い、ロッサ達を迫害する。そういうことなんだろう!?」


 作業室の中で繰り広げられる押し問答。琉の語気が徐々に強まってゆく。だが琉がセリフを放った直後のことであった!


 ガタン!


「ん!? 何だ今の揺れは?」


 波が起こるには強い、妙な揺れ方。湾内である港で、ここまでの大波が起こるはずがない。琉はすぐにメンシェ教徒の方を睨んだ。そして気付いたのである。


「おい、それを見せろ!」


 琉は、メンシェ教徒の一人が持っているモノを見つけて取りあげた。


「追跡コイン!? そうか、仲間を呼んだな!!」


「気付いたところで手遅れだ! この船はハイドロ湾の底に沈む!!」


 間もなく廊下から銃声が上がる。このままではロッサとカズ、場合によってはフローラが危ない!


「アギジャベッ(くそッ)!」


 琉はパルトネールをシューターに変形させると扉に向かって走った。


「琉、メンシェ教のヤツらが……アガッ(痛ッ)!?」


「カズ!? 大丈夫かしっかりしろ!!」


 偶然にも扉の前に来ていたカズが琉にぶつかった。


「ってぇー! ハッ、それより琉、メンシェのヤツらが」


「分かってる。あん中に一人コインを持ってるヤツがいて、呼び出しやがった。行くぞ!」


 琉が走ると、ロッサが自室の前でメンシェ教徒を相手取っていた。華麗でかつ素早い動きを駆使してメンシェ教徒を翻弄するロッサだが、スタンガンを使用する敵を前に防戦一方となっていた。


「パラライザー!!」


 赤い閃光がメンシェ教徒に突き刺さる。倒れ込む敵を見て、ロッサの顔に安堵の表情が浮かんだ。


「琉! 来てくれた!!」


「ロッサ、ヤツらを外へ! このままじゃ船ごとやられるぞ!!」


 琉はロッサを片手でかばい、メンシェ教徒の前に立ちはだかった。


「しかしフローラは!?」


「ヤツらを、フローラから遠ざけるんだ! ……なるほど、後部甲板から入って来たんだな」


 琉はロッサに小声で伝えつつ、メンシェ教徒と対峙した。幅の狭い廊下で、一体ずつ相手にする琉。パラライザーを撃ちつつ、後部甲板の方向へと突き進んでゆく。


「琉! 後ろ後ろ!!」


「何ィ!?」


 メンシェ教徒の攻撃は予想外に早く、表の甲板からも侵入されていた。ロッサの部屋の前で、挟み打ちにされる三人。このままではパルトネールはもとより三人の体力がもたない。万事休す。しかし琉にはまだ、残された手段があった。


「カズ、コレを使えッ!」


 琉は懐から棒状の道具を取り出し、カズに手渡した。


「コレは……バジュラム!? しかしこんなんオレに使えるのか!?」


「良いから“バジュラム・バトルフォーム”と叫んで引き延ばせ! アンタでも使える形のヤツだから!! ……チッ!」


 知恵を付けたのか、メンシェ教徒はパラライザーを食らった仲間を盾にして突き進んできた。これではいくら撃っても止められず、むしろパラライザーの受け過ぎで心臓が止まって死に至る危険性すらある。琉はトリガーパーツを渋々外し、素のパルトネールを構えて激突した。


「……分かった、やってみるよ。バジュラム・バトルフォーム!」


 カズは琉に言われた通りにバジュラムを引き延ばした。するとバジュラムの両端から、光と共に金属で出来た棒が出現した。その根元には鉤状の突起がそれぞれ二本ずつ付いており、見た目は三叉の銛のようになっている。


「そいつを真ん中で引き離せ! そうすりゃカズにとって、馴染みのある形になるはずだから!!」


 相手のナイフをパルトネールで受け止めつつ、琉はカズに向かってアドバイスをした。早速カズはバジュラムを二つに分離した。


「ふん。たかが武器を持った所で、神の力を受けてない貴様に何が出来る?」


 カズをあざ笑うメンシェ教徒。しかし、そのカズの顔は何処か余裕ともとれる表情を浮かべていた。


「へっ、言ったな? じゃあその目でしっかり見るが良いさ!」


 二本のバジュラムを回し、鉤状の部位に指をかけ、逆手で構えるカズ。途端にキレを増したその動きを見て、メンシェ教徒は警戒し始めた。


「琉、カズは戦えるの?」


「アイツはな、情報屋であると同時に“釵術”の達人でもあるんだ。ただ、何か得物がないと弱気になるだけでね……」


 カズ目がけて切りつけるメンシェ教徒。迫り来る刃を、釵に変形したバジュラムの鉤が受け止める。一瞬の隙を見て、片割れのバジュラムの柄がメンシェ教徒の鳩尾を捉えた。思わずナイフを落とすメンシェ教徒。更にカズはバジュラムを逆手から順手に持ち替え、首筋を打ちつけて気絶させた。


「カズ、後ろのヤツは頼んだぜ!」


「おう、分かった! オラオラ、やられたいヤツは前へ出ろ、ロッサ様には指一本触れさせねぇ!!」


 ここぞとばかりにバジュラムを振るうカズ。単純に好戦的になったのもあるが、同時にロッサに良い所を見せたいというのが彼の戦う原動力となっていた。

 一方で後部甲板への道を開けようとしていた琉は、トコロテンのように入って来るメンシェ教徒にイラ立ちと焦りを感じていた。


「ええいキリがないな、だったらこうだ! カズ、場所変わってくれ!!」


「了解ッ!」


 琉は隙を見てカズと場所を交代、カズが道を開けることとなった。琉は後ろに回るとメンシェ教徒のナイフをパルトネールで受け止め、そのまま押し返す。


「琉、ここはわたしが!」


「待てロッサ、今ここで眼を使うのはよせ! 狭い場所でアレをやったら俺とカズまで巻き添えになる!!」


 ロッサを止め、琉は相手の刃を受けつつ蹴りを入れた。吹っ飛んだ敵が後ろの連中を巻き込んで倒れてゆく。倒れた同胞を踏みつけて、メンシェ教徒は尚も突き進んできた。 


「琉、外に出られるぞ! 早く来い!!」


「よっしゃ、でかした!! ロッサ、準備だけしといてくれ」


 カズが後部甲板への出口を切り開いたのを確認すると、琉はパルトネールを引き延ばして折り曲げ、パルトブーメランを発動させてそのまま扉に向かって走った。


「よし、戻って来た。ロッサ、今だッ!!」


 琉がパルトネールをキャッチし、ロッサに合図を出す。ロッサが扉の前に立ちはだかると、その眉間がグワッと開いて“眼”が出現した。そして一端額に手をかざし、払うような仕草を取るとたちまち赤い光がカレッタ号の中に照射された。


「う、うわーッ!?」


 狭い船内に密集していたメンシェ教徒達はロッサの催眠眼光から逃れることが出来ず、意識を失いバタバタと倒れ込んでいった。


「残りは外の連中だな! ロッサ、今のうちに中で倒れてる連中を船の外に出しといてくれ。起きないうちにな!」


 再びトリガーパーツを取り出した琉。一方でカズは港で多数のメンシェ教徒を相手に応戦していた。目にも止まらぬ釵裁きが、迫りくる刃を受け止め、更に敵の体を打ちすえる。


「馬鹿な! ヤツは神の恵みを受けていない上に、異端者のように装者でもないはずだぞ!?」


 神の恵みを受けたはずの同胞が、よりにもよって一般人にねじ伏せられてゆく。メンシェ教徒にとって、これは悪夢以外の何モノでもなかった。


「くそッ、こうなれば……!」


 先程発言したメンシェ教徒が、拳銃を取り出して狙いを定める。カズは目の前の敵を迎え打つのが精一杯で気付かない。しめた、とばかりに引き金に指を置くメンシェ教徒。しかしそれに気付いた琉の、パルトネールの先端が火を噴いた。


「うがッ!? 馬鹿な……」


 背後から迫る赤い閃光が、銃を持ったメンシェ教徒に突き刺さった。その手に持った拳銃が、空にむかって虚しく吠える。相手が増え、混乱するメンシェ教徒に向かい、琉は一喝した。


「良く聞け! 薬物に頼り切ってるようなヤツはな、自分で訓練したヤツに勝てるワケがねぇんだよ!!」


 銃声に気付いて振り向いたカズ。すぐに状況を把握すると、琉に向かってサムズアップを出しつつ言った。


「琉、良いこと言うじゃねぇか!」


「照れるぜカズ。まぁ良いや、久々に二人で大暴れといこうぜ!!」


 琉はパルトネールからトリガーパーツを外して懐にしまうと、通常形態のパルトネールを持ち直し、見栄を切るようにして構えた。ナイフを構えて迫るメンシェ教徒。ナイフの刃をパルトネールが受け止め、弾く。武器を弾かれうろたえる敵に、琉の脚が追い打ちをかける。吹き飛ばされた敵は周りのメンシェ教徒を巻きこみつつ倒れ込んだ。

 カズは手に持ったバジュラムの柄の先端を交差させ、呼吸を整えていた。次の瞬間、カズはメンシェ教徒の眼前で跳び上がり、太陽をバックに睨みつける。カズを目追いしたメンシェ教徒は太陽をモロに見てしまい、思わず目を覆った。


「必殺・十文字陽炎裂き!」


 叫びと共に釵と化したバジュラムを持ち替え、目を覆う教徒達目がけて舞い降りるカズ。落下と共に振り下ろしたバジュラムが敵の額を捉え、更にもう一本のバジュラムが腹部を直撃した。崩れ落ちるメンシェ教徒に目もくれず、カズのバジュラムは次なる得物にその先端を向ける。


「数が多いな……パルトブーメラン!」


 敵を一体打ち倒し、琉は一端群れから離れるとパルトネールを引き延ばしてブーメランを起動、投げつけた。回転しながら相手をなぎ倒してゆくパルトネール。それに便乗し、琉は素手のまま構えると再びメンシェ教徒達の中に突っ込んでいった。彼の拳が、彼の手刀が、確実に相手の頭数を減らしてゆく。


「まずい、退け!! くそッ、これだけ投入してもダメなのか!?」


 流石に勝ち目がないと悟ったのか、メンシェ教徒が撤退し始めた。仲間を抱え上げ、次々に小型艇に乗り込んでは去ってゆくメンシェ教徒達。追い打ちをかけようとしたカズを、琉は片手で止めた。


「今回は見逃してやろう……だがな! 神の怒りに触れたこの島は明日の夜、大地の叫びと共に海の底に沈む!! 覚悟しろよ……」


「何ぃ? ふざけたことを……」


 琉が噛み付いたその瞬間、突如地面が揺れて二人はよろめきだした。


「どうなってやがる……今のはタイミングが良すぎるだろ!? それにハイドロが、沈む!?」


 カズが声を漏らす。


「最初に船が揺れたのはヤツらの小型艇がぶつかって来たからだが……今のは一体何だったんだ!? まさかヤツら、自在に地震を起こすことが出来るとか、そういうふざけた技術を持ってるんじゃあるまいな!?」


 琉は考えた。メンシェ教徒が海底に基地を作った理由、それはこの島に何らかの技術を用いて、脅しをかけるのが目的なのだと。しかしそれが何なのか、彼には全く予想がつかなかった。


「まぁ良いや、どうせハッタリだろう。この島の真下には火山帯のマグマが流れている、いまの地震ならちょくちょくじゃないか? それにせっかくだし、カレッタでゆっくりしてってくれや」


旧友との再会。これは二人に何をもたらすのか。そしてこの邂逅編ですが、一三章で一端完結してまた新たに始めようと画策しております。


~次回予告~

「正気か、お前達は!?」


「なんとしてでも止めてみせる……!」

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