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Mystic Lady ~邂逅編~  作者: DIVER_RYU
第十一章『ハイドロよ、琉は帰って来た』
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『ハイドロよ、琉は帰って来た』 序

~前回までのあらすじ~

アルカリアでの調査をやめ、オルガネシア領のハイドロ島に帰還することとなった琉とロッサ。その途中でロッサの体の一部が分離、トラブルを起こす。独立した意思を持ったそれはすでにロッサの体の一部ではなく、立派な別個体のヴァリアブールとなっていた。ロッサは図らずも新たな命を生み出し、“母”となっていたのである。琉によって、その個体は「フローラ」と名付けられることとなり、更にロッサに体の一部を分け与えられることで成長、少女の姿をとったのであった……。

『航海日誌×月◇日。明日の朝にはハイドロ島に到着する』


 アルカリアを出て、フローラが誕生して4日が経った。琉のケガは快方に向かっているとはいえ治ったとは言えず、右手はなんとか使えるまでいったモノの脇腹の表皮は再生しきってはいなかった。


『生まれてから4日で、フローラは随分と大人しくなった。舌っ足らずとはいえそこそこ喋れるようになり、最初に食堂で出くわした時と比べてかなり変わったといえるだろう』


 あの時、一歩間違えれば琉はフローラを殺していたか、逆に殺されていたかもしれない。ましてや成体のヴァリアブールであるロッサが本気を出せばどうなるか、琉は嫌でも知ることとなった。


『メンシェ教徒は、彼女らを悪魔と称して付け狙っている。だがそれは、本当に単なるスケープゴートとしてなのだろうか? 親の“教育”を受けていない幼体のヴァリアブールは本能のみに従う欲望の塊であり、かなりの危険性を秘めているということが今回判明した。ヤツらがヴァリアブールを目の敵にする理由、それにはもっと深い根がありそうである』


 それだけ打ち終わると、琉は布団の中に潜り込んだ。彼の脇腹は寝がえりを打っても痛くはならない程度には回復している。


(皆、待っててくれ。明日の朝には着くからな)


 翌朝。操舵室には3人。舵を握る琉と、外を見るロッサとフローラ。やがて琉とロッサにとって、懐かしの風景が目に入る。


「フローラ、ここがハイドロ島。琉の生まれた所だよ。……そういえば、わたしが目覚めてから初めて上がったのも、この島だったね」


「そういやそうだな。……まぁ、これでヤツらがいなければな」


 カレッタ号がハイドロ島の港に入ってゆく。船の固定装置が港の機械と結び着き、カレッタ号は無事港に到着した。


「ハイサイ、カズ。いきなりだが着いたぜ」


 着いて早速、琉は電話をかけた。が、その返事は驚くべきモノだった。


「丁度良い所に来たなおい! ……ぜぇ、ぜぇ」


 電話の向かうから聞こえて来るカズの声は息が上がっており、バタバタと足音まで聞こえて来る。琉は不審に思い、聞いた。


「ん、どうした。いつもはハァハァ言ってるアンタが、今日はゼェゼェかい?」


「とにかく島に降りろ! 今港に向かって逃げている……目を付けられた!」


 琉が甲板に出ると、港の方に走って来る男が見えた。頭の黄色いバンダナが目立っている。その後ろに、ぞろぞろと茶色いフード付きのローブの団体が見えた。


「分かったすぐ行く! 待ってろよ……ロッサ!!」


 ロッサを呼んだ琉。階段を展開し、素早く駆け降りると今度はパルトネールを取り出した。


「ロッサ、先に行ってヤツらの目を引きつけてくれ! こっちもすぐに行くから! ……チェィンジ! マシン・アードラー!!」


 カレッタ号の船底にある格納庫が開き、アードラーが海上に姿を現した。そして陸上に飛び出すとそのヒレを畳み、瞬く間にバイクへと姿を変えたのである。琉はアードラーに跨ると、そのままアクセルを鳴らしてカズの方へと向かった。


「待て! 貴様は異端者の知り合いだということは知っている、大人しく我々と同行しろ!」


「アキサミヨー(なんてこった)!! 嫌なこった、パンナコッタ! どうせ質問と称して拷問する気なんだろ、それくらい調査済みなんだよ! てか琉はまだかァーッ!?」


 メンシェ教徒に追われるカズ。あちこちにあるモノを利用して散々逃げ回る彼であったが、特殊な訓練どころか1日中PCに向かうオタクがドーピングしたメンシェ教徒達に体力でかなうはずがなく、徐々に差を詰められつつあった。


「この先は海だ! もう逃げられはせん、大人しく……ゴフッ!?」


 赤い影がメンシェ教徒に飛びかかり、その場から弾き飛ばした。そしてカズの前に立ちはだかるように移動すると、たちまち人の姿をとり始めた。真っ白な肌、赤みがかった黒髪、豊満かつ妖艶な体つき。振り返ればほのかに光る真っ赤な瞳。それを見た途端、カズの顔がほころびだした。


「カズ、久しぶり」


「もしやその声は……ロッサ様!? 帰っていらした! あぁロッサ様、相変わらずお美しい……」


 その後ろから空気を読まない爆音が響く。


「ようカズ、相変わらずだな! そしてそんなにロッサが好きか」


「琉! やっと来たか!」


 琉は片眉をぴくりと上げると、今度は起き上がろうとしているメンシェ教徒の方を睨みつつ、サッシュベルトに差しているパルトネールを取り出した。同時に懐からトリガーパーツを取り出し、セットする。ガシャン、という音と共にパルトネールの変形部が開いた。


「メンシェ教徒の諸君、お土産だぜ! パラライザー!!」


 容赦なく注がれるパラライザーの赤い閃光が、追手のメンシェ教徒達の額に突き刺さってゆく。追手だったメンシェ教徒は誰一人動かなくなってしまった。


「ロッサ、そいつらを縛って連れてくぞ。本拠地を聞き出さんとな」


 メンシェ教徒達が目を覚ますと、そこは見知らぬ風景の中にいた。


「お目覚めかい?」


 背後からふと声がする。声の方を向くと、そこには男がいた。まるで鬼を思わせる筋肉質な体に浅黒い肌、怒髪天を突く黒髪、狂気を秘めた青い目。忘れるはずもない、その姿はポスターや映像で見たあの男そのものであった。


「さ、彩田琉之助! 何故こんな所に!?」


「アンタ達が俺の故郷を荒らしていると聞いてね、帰って来たワケさ」


 飛びかかろうとするメンシェ教徒。しかし全員手を後ろで縛られており、動くことが出来ない。


「なぁ琉、コイツらは本当にそんなこと吐くのか?」


 部屋にはもう一人、黄色いバンダナを頭に巻いた眼鏡の男が入って来る。さっきまで追っていた身が、今では逆に囚われの身となっていたのであった。


「ロッサ、また頼むよ」


 琉の背後から現れたのは女であった。鮮血を思わせるその瞳を見て、メンシェ教徒達は戦慄する。その女は何を隠そう、彼らが悪魔として憎み恐れて来た存在であるからである。


「こ、これが悪魔……! おい貴様、自分が何をやってるのか、分かってるのか!?」


「決まってるだろう。今からお前達に、彼女の栄養分となってもらう」


 琉がそのセリフを言った途端にメンシェ教徒達、並びに傍らで聞いていたカズの背筋が凍りついた。


「ちょ、琉!? 一体ロッサ様に何を……」


 言いかけたカズの口を琉の手が押さえつけた。


「……しかし良いことを教えてやろう。俺はこの四人の中で、一人だけは生きて帰してやろうと思っている。こちらとしても、同族が眼の前で食われる様というのは見たくないモノだからな」


 平然と言い放つ琉。彼が言うとロッサは艶めかしく舌舐めずりをし、メンシェ教徒達を震え上がらせた。


「ただし条件がある。ここを出してほしくばお前達の本拠地を喋ってもらう。良いな!? ロッサ、旨そうなのを選んでて良いぞ」


 琉はロッサにそう言うと、カズを連れて部屋を出た。


「琉!? アンタ、ロッサ様にヒトを食わせてたのか!?」


「嘘に決まってるだろカズ。良いか、アイツらはロッサを悪魔と認識させるためにあることないこと吹きこまれている。俺は単にそれを逆手に取って利用しているだけ、あっちが勝手にビビってるんだぜ。……だからカズ、余計なことは言うな。それに……」


 琉が扉の方を顎で指した。すると、


「ふふふ……貴方も美味しそうねぇ……」


「い、いやぁ~ッ!? や、や、やめてくれ!! あ、あぁ、メンシェの神よ、どうかお助けを……」


 扉からはメンシェ教徒達の悲鳴と、ロッサの声が聞こえて来た。


「……聞いて分かると思うが、ロッサは演技が非常に上手い。相手も笑える程に引っかかってくれるからこの手段を取っているのさ」


 琉は何処か自慢気に話した。この男、中々に狡猾である。


「ロ、ロッサ様にならむしろ食べられたいかも……」


「ハァ、お前は何を言っているんだ……。……ん? 待てよ……」


 琉は何かを考え始めた。そしてポン、と手を叩くとカズに向かって言った。 


「良いことを思いついた。カズ、ちょっと耳を貸せ……」


遂に帰ってきました! そして常に電話の向こうで喋っていたカズが、久々に姿を現しましたね~w にしてもコイツ、変態だなw(お前が言うか)

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