『琉が飲むソディアの水は熱い』 急
食事をとりに行った琉とロッサは、その店の店主に命を狙われた。メンシェ教徒は忘れた頃にやって来る……!
引き金を引く琉。パルトネールの先端から至近距離で、オレンジ色の閃光が店主の額に突き刺さった。娘の見ているすぐ目の前で、店主は動かなくなった。
「ふっ、やれやれ。世話が焼けるぜ」
琉は店主を店の中に放り込むと、トリガーパーツを外して上着にしまいこんだ。パルトネールを腰のサッシュに差すと、そしてロッサの方を向いて言った。
「ロッサ、飯は船で食うことにしよう。今日は一端帰ろうか……っておわッ!?」
その場を離れようとした琉の背中に衝撃が走る。ロッサの目の前で地面に倒れこむ琉。そこにいたのは低めの身長に後ろで結んだ黒髪の女であった。女はポケットからスタンガンを取り出すと、今度はロッサに迫った。地面から起き上がる琉。女の持つスタンガンを見るなり、琉はその場から女の腕に飛びついた。
「ロッサ、今すぐ逃げろ!」
ロッサの体は電気に弱く、例えスタンガンでも彼女にとっては凶器である。琉はロッサをその場から離すと、スタンガンを強引に取り上げて踏み壊した。すると相手は先程のナイフを取り出し、店主よりも格段に速い動きで斬りかかる。このままじゃやられる、そう思った琉は一端距離をおいた。
「お父さんの仇……! よくもやってくれたわね!!」
女は店主の娘であった。ナイフを握る手が小刻みに震えている。彼女にとって、すぐ目の前で父親を撃たれるというのはトラウマにもなりかねぬショッキングな出来事と言えるだろう。
「お父さんを撃ったのは悪かった。だが安心してくれ、撃ったのはパラライザーだから一時的に眠ってるだけだ」
「それでも、撃った事実は変わらないわ。貴方は悪魔をかばうためなら他人を犠牲にすることもいとわないのね。それにお父さんが生きていようといまいと、アタシが今やるべきことは一つ! 例え刺し違えてでも貴方を倒す!!」
女はそう言うとナイフを逆手で持ち、琉に飛びかかった。琉はパルトネールでナイフを受けた。
「悪いことは言わん、ナイフをしまって撤退しなさい。こんなこと、中学生のやることじゃない!」
「あら、誰が中学生ですって? この期に及んでふざけるんじゃないわよ、これでも22だからッ!!」
パルトネールを押し切り、女のナイフが琉の上着とサッシュを切り裂いた。上着が地面に落ち、琉は上半身が裸の上に赤いベストを羽織った姿となる。
(ちっ、やりやがったな! ただでさえ俺は射撃苦手なのにちょこまか動き回るんじゃねぇよ!!)
琉は女のナイフをかわし、前転すると共に上着を拾い上げ、トリガーパーツを取り出そうとした。
「そうはさせるか!」
女は琉の肩を蹴った。仰向けにひっくりかえる琉。女は流に組みついてナイフで首を掻こうする。しかし女の表情は途端にこわばったモノとなり、握っていたナイフは地に落ちた。
「考えもなしに組みつくとな、こうなるんだぜ、お嬢さん?」
パルトネールの先端が、女の鳩尾を捉えていた。そう、琉は組みつかれるのと同時にパルトネールを構え、相手の飛びつく勢いを利用して真っ直ぐに突いたのである。琉は女を払いのけると上着を回収し、そのままアードラーに向かって走った。
「琉、大丈夫だった!?」
「俺は大丈夫だ、早く船に戻ろう!」
ロッサを後部に乗せ、琉はその場から走り去ろうとした。
「待て……逃げるのか卑怯者……! 殺すならさっさと殺しなさいよ……」
女が鳩尾を押さえたまま琉達に迫る。
「……俺に前科は不要だぜ、特に婦女暴行はな。そうだ、こいつはトラ電の燃料代な」
台詞の後、琉はポケットから硬貨を取り出した。
「釣りはいらんよ。とっときな」
琉は女に向かってその硬貨をシュッ、と投げつけた。硬貨はすねに当たり、女はそのまま足を押さえてしゃがみこんだ。その隙を突き、琉はアクセルを鳴らして走り去っていったのだった。
「なんて屈辱……ってこれ、1チャリンじゃないの!?」
因みにこの世界における1チャリン硬貨は1円玉と違って四角いという特徴がある。更に少し重いため、こういう風に銭型○次みたいにぶつけられると非常に痛いのだ。アードラーに乗って走り去る二人の背中に、女の恨めしそうな視線が突き刺さっていた。
「うぅ、喉が渇いたよぉ……」
「ここは乾いてるからね……。待ってろ、船に着いたらたっぷり飲ませてやるからな!」
カレッタ号に急ぐ二人。アードラーを船底に戻すと、琉とロッサは我先にと食堂に走って水を飲み、そのまま遅い朝食を取ったのであった。
「くっそ~、あの女……。俺の服を台無しにしやがったな!」
食事の後、琉は自室で女にやられた上着を広げていた。ナイフで斬られた上着は真っ二つに裂かれており、戦闘の激しさを物語っている。
「服、直らないの?」
傍らで見ているロッサが言う。
「このままでは直らない。ロッサ、君が着ているモノと違って、俺のは体の一部じゃないんだよ? まぁ、幸いここには腕の良い知り合いがいる。後で修理に出しに行こう。まぁ、しばらくは……」
そう言いつつ琉はクローゼットを開けた。すると何てことだろう。中には同じ上着がずらりと並んでいたのである。
「一応こっちからここまでが夏用。あとは冬用だ」
琉は一着、夏用のモノを取り出して羽織ると、裂かれた上着からポケットの中身を移した。中には替えの電池、メモ帳等の筆記用具、財布、ライセンスの入ったカードケース、パルトネールのトリガーパーツと、大小様々なモノが入っている。その一つ一つを琉は移したのであった。
「ねぇ琉、何で同じ服ばかり持ってるの?」
ロッサの疑問ももっともである。
「決まってるだろ、めんどくさいからだ!」
琉は服には無頓着である。いつも来ている服は作業着であると同時に礼服でもあるという、ズボラな琉にとってはまたとない便利なモノなのだ。因みに彼のベストはいざという時に膨らんで救命胴衣になる。彼にとって服とは道具であり、機能性こそが最も大切な要素なのだ。因みにどれも同じ柄なのは其の柄が好みだからである。
「ロッサ、夕方になってから裏通りに向かう。それまでは休んでなさい。……やれやれ、こっちは何も食ってねぇのに食事代とられちまったなぁ……」
まぁ、命を買ったと思えば安い買いモノだったか、と琉は考え直した。果たして二人は無事にこの国で過ごせるのか、そして垂涎の砂漠グルメを口にすることは出来るのか? ロッサをめぐるアルカリアでの物語は、まだ始まったばかりである!
「覚えてらっしゃい……! いつか、貴方の首はアタシがもらい受けるから!!」
今回は色々と変なことが判明しましたねw 更に新レギュラーも登場しました。あと、今回から次回予告は後書きでやろうと思います。ではどうぞ!
~次回予告~
「久しぶりだな!」
「琉、さっきから何を慌ててるの?」