表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mystic Lady ~邂逅編~  作者: DIVER_RYU
第九章『魔の蛇に飲まれるな』
27/39

『魔の蛇に飲まれるな』 急

地下聖殿脱出を試みる琉、ロッサ、アル、ゲオ、そして囚人達。しかし出口に達する寸前で琉とロッサが閉じ込められてしまう。そして遂に地下聖殿の主、ビショップ・ワインダーが琉とロッサの前に姿を現したのであった!

「もしもし、ちょっとトラブルだ! あちらのお偉いさんが出てきて、そのデカくなり出して……とにかく、何言ってるか分からんかもしれんが、とにかく危険だからシャッターの所まで来るなよ? ……うわっ!?」


 礼拝堂内に広がる光。やがてワインダーのシルエットが、見る見るうちに巨大なモノへと変化してゆく。琉とロッサは手をかざしつつ、ただただ戦慄と共に見ているしかなかった。


「コイツもか!? コイツもなのか!?」


 眩い光が収まると、ワインダーはその巨大なる体格を現した。身長約13m、以前戦ったゴライアスと比べて手足が長く、優美な印象を受ける。装甲を纏ったその身体には、これまた装甲に包まれた巨大な蛇が巻き付いており、舌を出しつつこちらを睨んでいる。


『神の力を以て、貴様らに天罰を下してくれる。いくぞ……!』


 キシャーッ! という音を出し、蛇がその口を開いた。すぐに身構える琉とロッサ。すると蛇の牙から真っ赤なガスが噴射され、二人に襲い掛かった。


「うっ! こんな密室で毒ガスだと!?」


「琉、早く!! こっち!!」


 スカーフで口元を覆う琉を、ロッサが引っ張ってガスから引き離す。ガスがシャッターに当たった瞬間、シャッターは見る見るうちに泡を発して溶け始めた。


『見たか! これが聖なる煙の力、お前たちは白い泡となって浄化されるのだ!!』


 聖なる煙。その正体は、あらゆる物質を溶解する強力な毒ガスである。これをマトモに吸い込んでしまえば最期、体内から浸食されて分子レベルでの溶解を起こし、数秒で跡形もなく消滅してしまう。なお、遺跡で発見されるガス室は特殊素材で作られていることが判明しており、ガスによって内部が傷んだり、外にガスが漏れることはないと考えられている。恐らく、浄化室もそうなのであろう。


「お前は、これで何人ものトヴェルクやディアマンを虐殺したのかッ!」


『残念ながら、ここではまだ誰も殺してはおらん。彩田琉之助、貴様に邪魔をされたためにな! だから代わりに、貴様ら二人が実験台になるが良い!!』


 蛇が再び口を開く! するとロッサは琉を抱えると、翼を広げて宙に浮いた。


「琉、何とか天井に穴を開けることは出来ない? そうすれば……」


 ロッサは琉の耳にひそひそと何かを話し始めた。


「一応、ブラスターを使えば……やってみるか!」


 吹きつけられる煙。煙は彫刻やタペストリーにも広がり、荘厳だった光景が見る見るうちに殺風景になってゆく。しかしその様子を見た琉は、あることに気が付いた。


(このガス、重いな。さっきから噴射されると拡散せずにすぐ地に落ちてはモノを溶かしている。ということは、宙に浮けば回避出来るということか)


 琉はロッサに抱えられたまま、パルトネールを取り出すとすぐにトリガーパーツを取り付けてシューターに変形させた。そしてレバーをPからBに切り替えると、ワインダーの頭上に狙いを定めて接近する。


「3……2……1……! パルトブラスター!!」


 パルトネールから放たれた青い光弾が、ワインダーのすぐ上の天井を貫いた! たちまち天井が崩れ、ガレキがワインダー目がけて降り注ぐ。そこにロッサの鞭状に変形した指が、崩れた天井に更に追い打ちをかけた。打ち砕かれ、更に多くのガレキがワインダーに降り注ぐ。


「今だロッサ!!」


 琉の言葉を受け、ロッサが天井の一番薄くなった個所に突進する。ロッサは全身を液化させると琉の体を再び包み込み、自ら緩衝材となると天井目がけて突っ込んだのである! やがて、二人の目にはアルカリアの眩しく燃える太陽が目に焼き付いた。


「やった、上手くいった!」


 作戦成功に喜ぶロッサ。ロッサの体から分離した琉は、その場で思いきり息を吸い込むと言った。


「フハァーッ! 地上の空気が、いつも以上に旨く感じるぜ! ……おっ!?」


 二人が外に出ると、遠くの方から二つの影がこちらに駆け寄って来ていた。


「おぉーい、琉ちゃーん、ロッサちゃーん!」


「おい、無事か!? 大丈夫だったか!?」


 琉達も駆け寄ろうとした……が!


 ブシャァーッ!!


 突如地面から吹き出した赤い煙。4人の足取りがピタリと止まった。


「琉ちゃん、これは一体!?」


「気を付けろ! あれを吸い込めば最期だぞ!!」


 各々武器を構え、後ずさりを始める4人。やがて煙の引き出した場所から、あの蛇が、そしてワインダーが姿を現した!!


『よくもやってくれたな! 貴様らまとめて罰を下してやるから覚悟しろ!!』


 まさに怒り心頭、ワインダーに絡みついた蛇は鎌首を上げ、琉とロッサ目がけて飛びかかって来た!!


「確かに俺は旨いモノ食ってるからな、俺自身も旨いかもしれん……て、こっち来んな!!」


 ギリギリで毒牙をかわす琉。しかし蛇は、なおも琉を呑みこまんと襲い掛かる。


「琉、掴まって!」


 ロッサが飛来する。琉の手を取ると、そのまま空へと舞い上がった。


「アタビチグヮ(この野郎)! ヌチヌカリンドゥ(命抜き取るぞ)!?」


 興奮した琉。ロッサに掴まったまま、島言葉全開でタンカを切りつつパルトネールを取り出した。ロッサは琉を抱えたまま飛び回り、ドレスの裾から出現した尻尾を手に持つと、ワインダーの“本体”目がけて高熱の炎を放った。


「そこだ! パルトブラスターッ!!」


 琉のパルトブラスターが追い打ちをかける! 遂に、ワインダーの胸から上が見事に吹っ飛ばされた。


「よし!」


 ガッツポーズ。蛇は地面に落ち、下半身だけになった巨体。これでほとんど無力化したと言えるだろう。脚だけが、フラフラと琉達目がけて近付いてくる。しかし次の瞬間だった。


『馬鹿め。これでやられると思ったか!』


 前言撤回。安心したのもつかの間、何と見る見るうちにワインダーの体が元通りになってゆくではないか! 


「ひぃぃッ、アギジャビヨー(なんてこった)!? じゃあ、石板は一体何処なんだ!!」


 琉の声が裏返り、顔からは血の気が引いてゆく。空中に浮かぶロッサの腕の中で、琉は震える手を押さえつつパルトネールを握り直した。しかしスパイダーとブラスターを何度も撃ったせいで、パルトネールのエネルギーは残りブラスター一発分しか残っていないという状況である。ただでさえ詰め替えは大きな隙が生じる上、手持ちの未使用電池は残り一つ。


「ロッサ、石板の位置は!?」


 ロッサの眉間がグワッと開く。この眼はロッサ自身の力を消耗するため、滅多やたらに使うことは出来ない。


「嘘……本体の何処にもないなんて!?」


 しかし大量のエネルギーを消耗したにも関わらず、ロッサの口から出たのは信じられない結果であった。これではいくらブラスターを撃っても炎で焼けども、効果があるとは考えられない。


「ええい、これでも食らえぇッ!!」


 地上にて、地下聖殿から持ち出したミサイルポッドを抱えたアルとゲオが飛び出してきた。白い軌跡を描き、複数の小型ミサイルがワインダーに襲い掛かる。次々に被弾するミサイル。ワインダーの体中から爆風が上がる。ロッサは琉を抱えてその場から飛び去り、アルとゲオの背後に着地した。


「部分破壊がダメなら、全身を吹き飛ばすまでだッ!」


 ゲオが言う。力づくだが、ある意味真っ当な考えとも言えるだろう。ミサイル攻撃に耐えきれず、ワインダーの全身は遂に砕け散って行った。その破片も、次々に塵状となって消えてゆく。


「ついにやったか!」


 アルとゲオが拳を掲げ、歓喜の声を上げた。琉もやっと胸を撫で下ろし、ホッと息をつく。だが、ロッサだけは違った。


「ダメ、まだいる!」


「え? ヤツなら全身が吹き飛んだはずだぞ……!?」


 突如震えだす砂の大地! 再び身構える4人組。そして勝利による歓喜のムードをブチ壊し、蛇を伴ったワインダーが地中より出現したではないか!


『つくづく馬鹿なヤツよ。良いか、私は不死身なのだ!!』


 戦慄する4人。ここまで恐ろしいことが果たして他にあるだろうか。だが、この様子を見ていた琉はあることに気が付いたのである。


「ロッサ、もう1回眼を使ってくれ! しかし本体ではなく、あの蛇だ!」


「蛇? 分かった……」


 ロッサの眼が再び開く。そしてその視線を、人型をした方ではなく蛇に向けたのである。


「……やっぱり! 本体はあのおっきい方じゃない、蛇の方だったんだ!」


「そうと分かれば話は早いぜ! ロッサ、行くぞッ!!」


 ロッサは翼を広げ、琉を抱えて飛ぼうとした……が!


「うッ!? ……ダメ、体が……乾いて……エネルギーも……うぅ……」


「ロッサ!? しまった、水分とエネルギーか!! アル、ゲオ、ロッサをオアシスに!!」


 琉はロッサを抱えてアルとゲオに渡しながら言った。


「琉、ヤツの石板は……アゴの……下に……」


「もう良い、これ以上喋ったらダメだ! アル、ゲオ、早く!!」


 それだけ言うと琉は蛇の頭を見据え、パルトネールをチェインに変形させると蛇目がけて駆け寄った!


「琉ちゃん!? よせ、死にに行く気か!!」


 ゲオの忠告を無視し、琉はなおも敵に向かって走り寄る!


『遂に自暴自棄になったか! 直接握りつぶしてくれる!』


「やれるモンならやってみろ! 良いかワインダー、不死身なのはこの彩田琉之助の方だァッ!!」


 迫りくる手に飛び乗り、琉は更にチェインの分銅をワインダーの首に放って鉤を引っ掛け、その体をよじ登る!


『狂ったか彩田琉之助!』


「いいや、俺は正気だね!」


 ワインダーの長い腕が琉を払おうとする。それをかわしつつ、琉はワインダーの首元にしがみ付き、後頭部へと移動した。するとワインダーの蛇が、こちらにむかって鎌首を上げている。


『おのれ!』


 牙をむき出し、蛇が襲い掛かる! しかしワインダーの体目がけて、煙を噴射することは出来ない。そこで琉はパルトネールをサーベルに変形させると今度は蛇の頭にしがみついた。


「物騒なモンは没収だ!」


 暴れる蛇の頭にしがみ付き、琉が剣を振るう。すると蛇の牙が、上あごの一部と共に切断されて砂に落ちた。


『馬鹿な! 私の牙がッ!!』


 のたうち回る蛇から飛び降り、琉はパルトネールを構え直すと呼吸を整えた。


「ハァーッ……。パルトヴァニッシュ!」


 音声コードを受け、エネルギーを帯びた刃が光を放ち始める。サーベルを横に構え、琉はのたうつ敵に刻一刻と近づいてゆく。


『やめろ……! やめてくれ……!!』


 蛇がダメージを受けたのに伴い、巨大な人型の方もガックリと姿勢が崩れている。琉は蛇の下あごに鱗に紛れた石板を確認すると、躊躇せずに真っ直ぐ刃を突き刺した! 途端に大人しくなる蛇。


『ぐわぁ! おのれ……』


 最期の力を振り絞り、ワインダーの巨体が琉目がけて腕を振り、払おうとする。しかし琉はその場で跳び上がり、腕をかわすと真っ直ぐに蛇を見下ろした。そのカエシのある刃は、一度突き刺すと貫きでもしない限り引き抜くことが出来ない。次の瞬間、琉は飛び蹴りの姿勢を取りつつ、体をひねり始めたのである!


「必殺・旋風螺旋蹴りッ!!」


 琉の脚がパルトネールに当たる。靴底の滑り止めがパルトネールに合わさり、彼の体のひねりと共に刃が回され、刺されている石板が砕かれてゆく。


『ぐわあああああああ!!』


 鋭い悲鳴と共に崩れてゆくワインダーの体。蛇の体も崩れてゆき、その胴から元のビショップ・ワインダーが姿を現した。


「き……さ……ま……」


 ワインダーはなおも琉に手を伸ばす。


「貴様を……消せば……。私は……ラディアの……教皇になり……この世界の……頂点に……」


 何かを言いかけ、ワインダーはこと切れた。


「生臭ボウズが、何が世界の頂点だ。お前のようなヤツが頂点に立てても、待っているのは孤独だけなんだぜ……」


 琉はワインダーを抱えると、近くの倉庫に放り込んだ。


「琉ちゃん、大丈夫!?」


「琉! 良かった……」


 アルとゲオ、そしてロッサが駆けよって来る。かくして4人の長い1日が、遂に終わりを迎えたのであった……。


遂にワインダーとの決着が付きました! ここまで長かったな……。さぁて、来章のMystic Ladyは~?w


~次回予告~

「汚物は消毒するように、ナメクジは駆除せねばならん!」


「こら、ダメでしょ!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ