『魔の蛇に飲まれるな』 序
~前回までのあらすじ~
琉の行きつけの工房。そこの職人であるアルとゲオの家族が、メンシェ教徒にさらわれた。救出に協力することになった琉とロッサ。ハルムに襲われつつもオアシスに到着した一行は、ついにメンシェ教の“地下聖殿”を発見する。体格がでかい職人二人に代わって潜入した琉とロッサ。地下4階の浄化室で、ついに職人二人の家族を発見した! そしてメンシェ教徒達を蹴散らして脱出を図った、のだが……。
突如苦しみ出したメンシェ教徒達。琉は何が起こったか分からず、うろたえていた。
「おい、どうした、大丈夫か……おわッ!?」
琉は足元にいた一人を抱えたが、抱えられた教徒は琉を払いのけて更にのたうち回っていた。浄化室はまさに地獄絵図と化していたのである。
「琉、装置を破壊したよ!」
「でかしたロッサ、すぐにズラかるぞ! パルトネール!!」
琉が手をかざして叫ぶと、ジャマーの呪縛を解かれたパルトネールが勢い良く飛び出て来た。熱も発しておらず、琉はすぐにそれをサッシュに差すとロッサやアル達の家族と共に浄化室を駆け出した。
「待て! まだ勝負は終わっちゃいな……くッ!?」
「し、神恵水はどこだ! 出せ、早く出せ……うぁぁぁ!!」
後を追いかけようとするアヤメ。だが、足元にいたメンシェ教徒に捕まって動けなくなってしまった。
「アル、ゲオ、聞こえるか!? 君達の家族なら無事だ、今外に向かってる! ……当然あちらには見つかった、応援頼む!」
浄化室の扉を閉め、琉は電話をかけた。そして電話を仕舞い、今度は牢獄にいる他の種族の囚人達に声をかけた。囚人達は怯えきっており、それどころかその場から動けない用にも見える。
「どうしたんだ?」
琉は檻の一つを開けて中に入った。中にはトヴェルクの青年が囚われている。相手は完全に怯えきっており、檻の奥で縮こまっていた。
「安心してくれ、俺はヒト族だがメンシェ教徒ではない。何で外に出ないんだ?」
「わ、輪が……」
そう言われ、琉は囚人の腕にはまっている腕輪と脚輪に気が付いた。
「これ、腕と脚の力を奪ってる。外さないと……」
ロッサが言う。額の眼で囚人を調べたらしい。一方でアルとゲオの家族達には腕輪はついていたものの脚輪が付いていなかった。
「だったらこうするまでだ、ちょっと腕を貸してくれ」
そう言って琉は腕を差しださせると、腕輪目がけて手刀を入れた。たちまち壊れた腕輪が床に散らばってゆく。
「てやッ! よし、動くか?」
もう片方の腕輪も外し、琉は囚人に聞いた。
「……は、はい! ありがとうございます!!」
「じゃ、脚は外せるかい?」
囚人は自分の脚輪を持つと手で引きちぎった。ホッとした表情の琉。
「よし君、皆の腕輪と脚輪を外して回ってくれ。ロッサも頼む、外れたら他の方達のも外すように言ってくれ! 皆でここを脱出するんだ、良いな!? 俺は外を見張っておこう」
琉は出口に向かうと、外の様子を探り始めた。案の定、メンシェ教徒達が大挙して向かって来る。
『無駄なあがきを。この地下聖殿にはまだ百人ものメンシェ教徒がいる。お前がここを脱出するのは不可能だ、諦めて裁きを受けるが良い!』
再びあの声が響く。琉はその声に向かって叫んだ。
「良い加減、姿を現しやがれ! アンタには聞きたいことが山ほどある!」
『死人に口なし。者ども、やれ!』
メンシェ教徒達は拳銃を構えて向かって来る。それを見た琉はパルトネールからトリガーパーツを外し、パルトネールの中央部を引き延ばして軽く折り曲げた。
「パルトブーメラン!」
扉の影から、琉はパルトネールを投げつけた。回転しながら飛翔するパルトネールが、次々に拳銃を叩き落としてゆく。しばらくして戻ってくるパルトネールだったが、琉はひたすらに投げ続けた。とにかく今は、時間を稼ぐ必要があるからだ。
「琉、全員のを外したよ!」
「よし、ちょっと待ってな。パルトネール・シューター!」
ロッサの声を聞いた琉はトリガーパーツを再びパルトネールに装着、メンシェ教徒達の正面に狙いを定めた。
「パルトスパイダー!」
琉が引き金を引くとパルトネールの先端から赤い光弾が放たれた。そしてメンシェ教徒達の目の前で光弾が弾け、蜘蛛の巣状に広がったのである。狭い廊下に一面広がった蜘蛛の巣は、次々にメンシェ教徒達を引っ掛けていった。
「3……2……1! よし、行こう!」
次々にパルトスパイダーに突っ込んでは、バタバタと床に伏せてゆくメンシェ教徒達。薬によって体が強化されて足の速さも常人を遥かに上回る彼らだが、その分急には止まれないことを琉は見抜いたのである。パルトスパイダーが消えるのを見計らい、琉はロッサと囚人達に合図を出した。一行は一斉に走りだした。
「ここが階段か。とにかく上だ、上を目指すぞ!」
階段を見つけ、駆け上がる琉達。駆け上がった先には伏兵が待ち構えていた。
「ここから生きては帰さん! 異端者め、死ねぃ!!」
「死ねと言われて、素直に死ぬヤツがいるかッ!!」
琉はナイフが来るよりも早く相手の額にパルトネールを突き付け、パラライザーを撃ち込んだ。
「まだいるかもしれん、皆固まって動いてくれ!」
地下三階。階段を昇りきった先にあったのは、ベルトコンベアー等の機械が大量に置かれた奇妙な部屋であった。
「これは……工場? 聖殿とか言いながら、奥にこんなモノを隠していたのか」
銃を構えたまま、琉は周りを見渡した。機械だけではない、この広間には他にもビーム砲、燃料タンク、装甲といったモノが置かれていた。
「琉、何かこれに見覚えがあるんだけど……」
ロッサがあるモノを指差した。そこにあったのは巨大なシャーレのような機械で、中にビーム砲を備え付けてあった。
「これは……無人艇!? そうか、ヤツらの目的が分かったぞ! ヤツらはここで新しい武器を開発、量産していたんだ。そしてその作業のために、異種族の力が必要だったというワケだな。しかしこんな物騒なモノ、表で堂々とは作れないし誰も協力しようとはしないだろう。だからこの島の異種族を無理矢理さらって、秘密裏に作ってたというワケだ」
『御名答だな、異端者よ』
あの声が工房中に響き渡った。身構える琉とロッサ。怯える異種族達。
「じゃあ観念して姿を現すんだな! お前さんの計画はこれまでだ、諦めて警察にでも出頭することをお勧めするぜ!!」
タンカを切る琉。しかし相手は意外なことを言いだした。
『よろしい、ならば地下2階の大聖堂まで来い!』
「ほう、話が分かるじゃねぇか。では、遠慮なく行かせてもらうぞ!」
琉は一行を引きつれて行こうとした、が
「ここから先には通さん! 異端者よ、ここで朽ち果てるが良い!」
「やっぱそうなるのか」
そう簡単に行かせてもらえるワケがない。工房のあちこちには伏兵が潜んでいたのである。広いフロアだけに、これまでより一回り多くの敵に包囲される一行。琉はパルトネールを構えて睨みつけた。
「さっきはやってくれたわね、彩田琉之助。でもここまでよ!」
その中には、先程浄化室で交戦したアヤメも混じっていた。
「しつこい女は嫌われるぜ、お嬢さん?」
琉はパルトネールを構えつつ言った。口調こそ軽かったが、その顔には焦燥が浮かび上がっていた。
『そやつらに裁きを与えよ! 特に異端者と悪魔だけは生きて帰すな!!』
一斉に武器を構えるメンシェ教徒達。万事休す、そう思われた時だった。工房内に突如衝撃が走ったのである。壁にはヒビが入り、ガラガラと音を立てて崩れ始めた!
「馬鹿な!? この地下聖殿が、崩れ出しただと!?」
メンシェ教徒は口ぐちに騒ぎ始めた。いきなり地下室の壁が崩れ出すなどと、誰が予想出来ようか。一方で琉とロッサの口元は、何処か不敵な笑みを浮かべている。
「来た……」
「真打ち登場だぜ……」
『な、何だ!? 何が起きたのだ!!』
カメラにも映っていたらしい。放送される声まで慌てふためいている。そうしている間にも壁は砕け、たちまち砂煙が上がりだした。砂煙の中に浮かぶ影、そしてその中から響く声。
「皆ぁ、助けに来たよぉ~!」
「ドリルは漢のロマンだぜぃ!」
囚人救出! そして壁を破って現れたのは何者か!? そしてタイトルにある「魔の蛇」とは何なのか? 第九章、お楽しみに!