『地下聖殿に潜り込め』 序
~前回までのあらすじ~
手掛かりを求めてアルカリアに来た琉とロッサ。探索の途中でテロ宗教組織:メンシェ教が暴走し、その魔の手は琉の知り合いである工房の二人の家族にまで襲いかかった。その後を追い、オアシスに向かった一行は途中で恐るべきハルム“イグピオン”の襲撃を受ける。その不可解な行動に翻弄される一行。しかしロッサがその能力を吸収して一気に形勢逆転、無事オアシスに着いたのだった……。
ソディア島・オアシス。表面という表面が砂漠に覆われたこの島に置いて、貴重な水源である。この島にはこのオアシスの周りと海岸にしか町がない。そして今、オアシスの付近は静まり返っていた。
一行はレーダーの反応を追い、オアシスの町外れにバギーを停めた。反応が正しければ、この付近にアルとゲオの家族がいるはずである。青いスーツに身を包んだヒト族の青年――琉は、オアシスの町の様子について言った。
「相当にハデにやりやがったみたいだな、こっちでも……。まさか、さっきのイグピオンもヤツらが差し向けたんじゃなかろうな?」
「まさかぁ。ヤツらはヒト族至上主義でしょ、ハルムなんか生かして放っとくワケが……」
「あっ、そういえば! 琉、ちょっとこっち来て……」
ロッサは何かを思い出すと琉を呼び、その豊満な胸の間に手を入れて何やらもぞもぞと探し始めた。
「ロッサ、どうした……っておい、一体何やってんだ!?」
不意打ちセクシーショットを見せつけられ、思わず赤面する琉。心なしか、ロッサの胸はただでさえ豊満なのにも関わらず、今の琉には更に大きくなっているように見えた。そんな琉にお構いなく、ロッサはその魅惑の谷間からコイン状の物体を取り出して琉に見せた。
「さっきイグピオンを食べた時に何か余計なモノが入ってたの。これなんだけど……琉、何で顔そらすの? しかも真っ赤になってるけど」
「……全く、君には“恥じらい”ってモノはないのかね。ってコレか?」
琉はロッサからモノを受け取ってマジマジと見た。
「パッと見、ゲオの使ってる追跡コインにも見えるが……。アル、専門家の出番だぜ」
琉はアルにこの奇妙なコインを投げ渡した。この世界にはコイン型のマイクロマシンが様々な用途で使われている。しかし琉は、その専門家ではない。やはりここは制作者に任せるのが良いだろう、と彼は考えたのだ。
「はいよ、どれどれぇ……。うぅーむ、腐食がひどいねぇ」
このコインはロッサがイグピオンを食った際に出て来たモノ、即ちロッサの体内で溶け残ったモノである。そのため、何とかコイン型マイクロマシンとしての外観を留めているだけで内部はほぼダメになっていた。
「これがイグピオンにくっついてたのかぁい?」
「うん。何か美味しくないと思ったら……」
うむ、と言ってアルは再びコインを睨んだ。
「ひょっとして、これをハルムにくっ付けて操ってたのかなぁ。でもそんなの聞いたことないよぉ。ゲオー、分かるー?」
「ん? 見せて見せてー」
アルはレーダーを監視しているゲオにコインを渡そうとした、その時だった。
「あ、メンシェ教徒が来るよ!!」
ロッサが気付き、四人はすぐにバギーの影に隠れた。隠れながらも、ゲオはレーダーを注視している。
「どうやらこちらは気付かれていないらしい。ちょっくら様子見と行こうか」
琉はバギーの影から、フードを被った男を観察し始めた。ロッサも琉の背後に隠れつつ、様子を見ている。
メンシェ教徒はバギーの影にいる四人には目もくれず、ある看板に向かった。看板には“落下注意”と書かれている。教徒は周りをキョロキョロと見回すと、おもむろに看板を引き抜いた。
「うわ……やりたい放題だな、こりゃ。……おや?」
琉達が見ている中、彼は何やら引き抜いた跡に手を突っ込み、その後看板を戻した。するとどうだろう、看板の近くの地面が割れて地下への階段が現れたのである!
「琉、これって……」
「間違いねぇ、入口だ!! よし、見てろ……」
琉は近くに落ちていた石を拾うと、思いきりメンシェ教徒目がけて投げつけた。
「痛ぇッ!? 誰だ!!」
階段を降りていたメンシェ教徒は、そのまま地表に戻って来た。そして石の飛んできた方向、バギーに向かってきた。
「何処のガキだが知らんが大人しく出て来い! 罰を与えてやる!!」
「はいはい、出てきてやるよ出てきてやるよ。大人しくないけどな!!」
その言葉と同時に、メンシェ教徒の首に、サーベルとなったパルトネールの先端が突き付けられた!
「うっ!? 貴様、何をやってるのか……分かってるのか!!」
「説教なんざ興味ないね。……アンタ達の仕業ってのは分かってるんだ、この島の住民達は一体何処にいる!?」
琉は語気を強め、声を低めてメンシェ教徒に言った。更にサーベルの刃を傾け、袈裟掛けの形にして押し当てる。刃を引けばこのメンシェ教徒は、たちまちバッサリと斬られてしまうだろう。
「お、教えるものか……殺すならさっさと殺せ!!」
「寝言は寝てから言え、アンタにはまだ聞きたいことが山ほどあるんだ!」
ドゴォッ! という音と共に琉の脚が鳩尾に入り、メンシェ教徒はその場で倒れ込んだ。つかさず琉はメンシェ教徒の胸ぐらを掴み、その首に刃を押し当てつつ言った。
「貴様……中坊の分際で……」
「これでも一応25なんだが。あと、聞くのはこっちで答えるのはそっちのハズなんだが? ……あの入口はどうやって開けた」
琉が問う。しかし敵は口を閉ざして一文字。
「ロッサ、ちょっとこっち」
琉はロッサを呼び、そっとその耳に何かを吹きこむと、ロッサはメンシェ教徒のアゴを指で支えて上に向け、その顔を覗き込んだ。そしてロッサと目が合った途端に、メンシェ教徒の顔から見る見るうちに血の気が引いていくのが見えた。
「あ、ああああ、あ、悪魔……!!」
「ふふふ、悪魔なんて失礼ね……」
ロッサはそっとローブに指を這わせた。するとその軌跡を辿るかのように、ローブの生地が裂けてゆく。その裂けた生地から、液化したロッサの手が服の中に入り込んだ。
「ふふふ……どう? 神の教えを破りながら死ぬ気分は……」
「や、やめてくれ……く、食われるのだけは……!!」
メンシェの教義では、悪魔ことヴァリアブールのエサになって死ぬことは絶対に許されないとされている。つまり、相手の兵糧にだけはなるなということである。そのため、ただ琉に斬り殺されるのは大丈夫でもロッサに食われるということに関しては凄まじいまでの恐怖を感じるのだ。この異常な感覚、言うまでもなく薬物による洗脳の影響である。
「……なんてね、すぐには食べてあげない。まずは料理をしないと、ねぇ?」
ロッサの猫撫で声が、メンシェ教徒の耳に突き刺さる。
「あああああ、ああっ!?」
ロッサの液化した腕が、メンシェ教徒の体中をねっとりと這いまわる。ローブを裂かれ、服に仕舞い込んでいた武器が次々に外に飛び出て来た。スタンガン、拳銃、聖弾、ナイフ……一通りの武器を取り上げると、ロッサは手を元に戻して服の中から引いた。
「もし素直に答えるのなら、ロッサを止めてやっても良い。彼女は俺の言うことなら聞くからな、一通り吐いてくれたら命だけは助けてやる。どうだ?」
琉がそう言うと、メンシェ教徒は黙ったまま何度もうなづいた。恐怖で引きつった顔のまま、その眼は明らかに“助け”を求めていた。
「じゃあ聞くぞ。トヴェルクとディアマンは何処にいる」
「ち、地下4階の牢獄だ……」
それを聞くなり、琉は携帯電話を取り出して素早く書き取った。
「入口はどうやって開け閉めすれば良い?」
「か、かかか看板の下に、ハンドルが……それを半分ひねれば開くはずだ。閉める時は内側から半分戻せば良い、それだけだ……」
ほほう、と言いつつ琉はメモを取る。
「何故この島のトヴェルクとディアマンを拉致した? 何が目的だ?」
「そういや、オイラ達以外の職人はほぼ連れて行かれたらしいねぇ。一体何がしたいんだぁ?」
メンシェ教による異種族狩り。その規模は留まることを知らず、このソディア島のトヴェルクとディアマンはそのほとんどが何処かに連れて行かれていた。町が静まり返っているのはそのためである。
「そ、それは……」
流石のメンシェ教徒も口を閉ざした。どうやらかなりの極秘項目だったらしい。琉は黙ってロッサに目を合わせ、そのまま片眉を上げた。
「ふふふ、言わなくて良いのよ、イヤなことは。ゆっくりと溶かしてあげる……」
「や、やめてくれ! 頼む、食われるのだけは、食われるのだけはイヤだ……!!」
引きつった声で、メンシェ教徒は震えながら懇願した。と、その時である。
「……ん? おい、レーダーの反応が動いたぞ! 何処かに連れて行かれるみたいだ!!」
今回の章は久々にロッサの怪演(?)が冴えてますw しかし琉も琉で何を吹きこんだのやら……。さて、第八章のタイトルもネタ抜きのオリジナルです。