『砂の地獄を突破せよ』 破
アルとゲオの力作バギー、アンタレス。それに乗り、オアシスに向かう4人であったが……。
「一刻も早く、悪魔はせん滅せねばならん。アヤメ、手段を選んでる場合ではないのだぞ? ……ん?」
突如、男の携帯電話が鳴り響いた。
「どうした。……何? 突然ヤツが現れて妨害した? そんでもってこちらに向かっているだと!?」
同時刻、アルの工房を襲ったメンシェ教徒が琉によって蹴散らされていた。男は携帯電話を切ると、狂ったように笑いこう言った
「クカカカカカカ! これは良い、飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのことよ! アヤメ、ヤツが、彩田琉之助が来るぞ。そこでお主には、侵入者を抹殺するという使命と権限を与える。良いな? 存分に仇を討つが良い!!」
「……ハッ! メンシェの神の……名のもとに」
それだけ言うと、アヤメと呼ばれた女は部屋から出て行った。
「ついでだ。コントロール装置を起動させておこう……。ククク、ヤツらめ、まさかハルム襲撃がメンシェの仕業とは思わんだろうな!」
薄暗い部屋に、男の不気味な笑い声が響き渡った。
「あ、あれは!?」
ほぼ同時刻。あと少しでオアシスにたどり着く、そんな場所のことである。
「やっぱりいたねぇ、ハルム。こうなったら振り切るよぉ!」
バギーの前の地面が、ぼこぼこと盛り上がっている。盛り上がりはバギーと一定の距離を保ちつつ、うろうろと動き回っている。地中に潜むハルムは、獲物の動きを伺うかのようにうろうろと動き回っているように見えた。
ギュゥン!!
レバーを切り替え、一気にアクセルを踏み鳴らすアル。その音に気付いたのか、ハルムはすぐにこちらに向かってきた。
「皆、武器を構えてぇ! アンタレスに追いつけるハルムなんざそうそういないけど、万が一ってことがあるからね!!」
ハンドルを切るアル。砂を巻き上げ、砂漠に独特の曲がりくねった軌跡を刻みつつ疾走するアンタレス。その座席から、琉はチェインに切り替えたパルトネールを、ロッサは戦闘用に黒く変形させた自らの腕を、ゲオは自前の盾とそこに取り付けられたパイルバンカーをそれぞれ構えていた。
「チッ、やっぱ海ん中じゃないとパルトネールは反応せんな……」
琉はバギーの背後から迫る砂の盛り上がりを睨みつつ言った。海中作業用に作られた道具であるトライデントのハルムセンサーは、海水中に溶け込んだハルムの分泌物に反応するように出来ており、陸上では反応しないという特徴を持つ。これは、琉の持つパルトネールとて例外ではないのだ。
砂の中から迫るハルムであったが、アンタレスには追い付けずどんどん遠ざかってゆく。4人がホッと胸をなでおろした、そんな時だった。
「よし、振りきれた……って、前にもいる!?」
ハルムは一匹ではなかった。アンタレスの前に、盛り上がった砂が更に3つか4つ、動き回っていたのである。瞬く間にアンタレスはハルムに包囲されてしまった。
「武器、構えてぇ。来るよぉ!!」
次の瞬間。盛り上がった砂を突き破り、先端に針を持った紐状の生物が飛び出し、獲物を貫かんと襲いかかって来た! アルはハンドルを切って攻撃をかわすと、ハルムのうちの一つ目がけて突進する。突進すると同時に4人は武器を手にバギーから飛び降りてすぐさま分散した。攻撃を食らったハルムが倒れると、根元にはハサミと脚の付いた“本体”が蠢いていた。それを見たゲオが声を上げる。
「イグピオン!? 馬鹿な、こいつら集団行動しないはずだぞ!?」
イグピオン。サソリとトカゲを合わせたような見た目が特徴で、本体を砂の中に隠し、約6mにも及ぶ巨大な尾を振りかざして獲物を狩るという習性を持つ。巨大な尾はムチのようによくしなり、先端には50cmにも及ぶ三角形の剣のような毒針を持つ。しかし本来は縄張り意識が強く、このように集団で行動するのはまず考えられないことであった。
「ロッサちゃん! こいつは本体、尾の付け根を狙ってぇ! ……おわっ!?」
前述の通り、地表に出ているのは尾であり操ってる本体は地中のごく浅い場所にに潜んでいる。しかしそうやすやすと近づくことは出来ず、アルはイグピオンの針を鉤爪で引っ掛けて防いでいた。しかしこの尾にはもう一つの恐ろしい武器がある。鉤爪に引っ掛けられた針。しかし次の瞬間、その先端は真っ赤な色に染まったのである!
「うわぁッ! ……やってくれたねぇ!!」
このハルムの毒液には発火性があり、これを利用して尾から高熱の火炎を発射する力が、イグピオンにはあった。
アルは寸手の所で炎をかわすと引っ掛けた針をもう片方の腕でへし折って炎を止め、そのまま相手の本体目がけて飛び込んだ。そして着地すると同時に鉤爪を突き刺し、本体を砂から引きずり出したのである。アルは、刺した本体をそのまま引き裂いて消滅させた。
「オイラを焼いて食おうなんて、1万年早いんだよぉ!」
一方のゲオは巨大な盾で針を防ぎ、2体のイグピオンを相手に奮闘していた。
「この盾は防火使用だ、そんな炎なんかでやられるかよ!」
火炎放射攻撃を盾で防ぎ、追い詰めるゲオ。そして尾の根元を見るや否や背中に取り付けた大筒に点火したのである!
「こっちの火力はもっと凄いぜ、覚悟しな! シュート!!」
次の瞬間、ゲオの大筒が火を噴いた! 大筒は尾の付け根に命中し、この個体は毒液に引火したのかたちまち爆発して消滅した。
「そこだッ!」
更にゲオはもう一体の懐に飛び込むと、本体目がけて右手のパイルバンカーを炸裂、刺し貫いた。急所を貫かれ、この個体もたちまち崩れるようにして消滅したのであった。
「ロッサの“捕食”の邪魔はさせん、いくぞ!」
琉はそう言いながらチェインで対抗していた。炎をかわし針をかわし、本体目がけて分銅を発射させる琉。途端に尾の動きがおかしくなった。
「パルトショック!」
たちまち鎖を介して高圧の電流が襲う。本体に強烈な攻撃を撃ち込まれ、イグニオンはたちまち消滅した。しかし更に他の個体の針が琉に襲いかかる。
「パルトネール・サーベル!!」
かわしきれない! そう思った琉はパルトネールをチェインからサーベルに変えて針を弾き返し、更に弾かれた針の付けね目がけて斬りつけ、切断した。
「トドメだ、パルトネール・シューター、パラライザー!」
後ろに飛び退き、琉はその傷口に赤い閃光を放つ。パラライザーとはいえ、発火性の強い物質には引火する。たちまちこのイグピオンは動かなくなり、炎に包まれて消滅した。
「琉ちゃん、こっちは片付けたよぉ!」
「そっちはどうだい! ロッサちゃんは無事か!?」
「心配はいらん。あれを見てみな」
アルとゲオの二人が見た先、それは……。
「ハァァァァァッ!」
ロッサの長く伸びた指が、4体のイグピオンを同時になぎ倒す。イグピオンが負けじと尾から炎を放つも、液化して逃れるロッサを捉えることが出来ない。次の瞬間ロッサの爪が、1体のイグピオンの本体を貫いた!
「よし! しかし琉ちゃん、助けに行かなくて大丈夫なの?」
「彼女は今、イグピオンを“捕食”しようと試みている。消滅させるワケにはいかん、とにかく食わせないと……ん!?」
ロッサは自らの手で貫いたイグピオン本体を引きずり出し、そっとその口を近づけて吸い始めた。
「イグピオンを……食っている!?」
「以前話した能力だ。彼女はハルムを食べ、その形質を取り込むという力を持っている。今まではオドベルスの翼しか持っていなかったが……」
ロッサに吸い尽され、イグピオンの体が灰のように崩れ去ってゆく。そして、
「はぅ! う、う……!!」
「おい、本当に大丈夫なのか!?」
以前にオドベルスを捕食した時と、同じ反応。ロッサは胸の辺りを押さえてうずくまり出した。と、そこに、残った3体のイグピオンの容赦のない火炎攻撃が襲いかかる!
「しまった、この反応のことをすっかり忘れていた!! ロッサァーーッ!? 」
ロッサの運命やいかに!? そして今回登場のイグピオン、モチーフはそのまんまサソリですw