『琉が飲むソディアの水は熱い』 破
アルカリアの領地、ソディア島に着いた琉とロッサ。二人は早速地元の飯屋に向かったのだが……。
二人が着いたのは小さな露店であった。この島は日中が暑いため、建物の外に店を構える所が多い。ちょっとした屋根の下にある店内には、実に様々な食材が置いてあり、実に旨そうな匂いが立ちこめている。琉は店の外にアードラーを駐車し、席に着いたのであった。店で中年と思われる男が一人で切り盛りしていた。
「いらっしゃい、注文が決まったら呼んでくれ……!?」
「どうかしましたか? ひょっとして、何か付いてる?」
店主の男は琉とロッサを見るなり驚愕の表情を浮かべ、すぐさま建物の中に駆け込んで行った。
「一応、頼むモノは決めとくか。あと、チャリンも用意しないとな」
この世界の飲食店は先払いが基本である。因みに通貨はどこにいってもCで通じるようになっている。
「琉、あの吊るされてるモノは何?」
「あれ? オオトカゲだ。流石に朝からこいつは重たいな……」
ロッサの指差した先には大きなトカゲの尻尾を結んで吊るしてある。他にも、サソリの入ったバケツや適当な大きさに切られたサボテンが置いてあった。
「何か、お勧めはある?」
「うーん、そうだね。朝だし比較的あっさりしたモノが食べたいかな……。この砂豆のスープなんてどうだい? 味は塩味が良さそうだ」
砂豆とはこの島で育つ独特の豆の事である。少ない栄養分でも育ち、かつ栄誉分が豊富なのでアルカリアでは主食として食べられている。元々は野生のモノだが、品種改良して大粒かつ大量に実るモノが栽培されているという特徴を持つ。因みにこのスープ、塩味の他にオオトカゲの肉の入ったモノや魚のつみれダンゴを入れたモノ、香辛料を多く入れたモノまで色々ある。
「すいませ~ん!!」
琉は店主を呼んだ。建物の奥から先程の男が慌てて走ってくる。
「えぇと、砂豆のスープを二つ。一つは大盛り、味は塩味で!」
「は、はい、かしこまりました。250チャリンです……」
この店主、今度はロッサをじっと見ている。それも睨みつけるかのような鋭い目つきで。ロッサは首を傾げた。
「どうしたんです? ……やっぱ、気になりますか?」
そこに琉が自分の両手を胸に当て、おどけた口調で悪戯っぽく聞いた。
「あ、いや、何でもありません!! いや、何か見覚えのある顔だな、と思っただけで……」
「わたし、この人知らない」
妙に慌てる店員。彼の顔を指差し、冷静かつバッサリと否定するロッサ。その様子を笑って見ている琉。
「そ、そうですよね~。ははは……」
店主は逃げるように店の奥へと走っていった。
「何だ人違いだったのか。まぁ良くあることさ」
琉はロッサに言った。そう考えれば腑に落ちないこともない。一方のロッサは店内に置いてある大きな赤い果物を手に取っていた
「琉、このゴツゴツしたのは何?」
「そいつはドラゴンフルーツ、サボテンの実だ。そうだな、そいつデザートに頼んでみるかい? 旨いんだぜ~、これ! ……すいませ~ん、追加注文したいのですが~!?」
一方建物の奥では。
「良いかアヤ、よ~く見ろ。あいつらだ。例の二人がよりにもよってうちの店に来たぞ!」
「お父さん、どうする? やっつけるの?」
先程の店主が、自分の娘に言い聞かせている。店員の手に持っているモノ、そこには琉とロッサの顔写真が映ったポスターであった。
『WANTED! 賞金:男は100000C、女は300000C。独立宗教法人メンシェ教』
そう、琉達が寄ったこの店はメンシェ教徒の持ち主だったのである。
「アヤ、あの棚から例のアレを持って来い」
娘は棚から何やら白い粉を持って来た。店主はその粉をコップに入った水に入れる。粉は瞬く間に水に溶け、跡形もなくなった。
「お父さん、念のためにこれも持ってって」
娘は大きなナイフを店主に手渡した。店主はナイフを懐にしまい、コップの乗った盆を持った。同時に店から琉の声がかかる。
「ふっふっふ、丁度良い時に追加注文か。意外と馬鹿な奴らだ……。はいはーい!!」
店主は琉の元に向かった。テーブルに水を置き、琉とロッサの顔を見ると、彼は追加注文の内容を伺った。
「あーすいません、ドラゴンフルーツを一つ。お願いできますかね?」
「はいかしこまりました。120チャリンです」
店主は琉からチャリンを受け取ると、そのまま店の奥まで逃げるように入って身を隠した。
「どうしてあの人、慌てて奥まで行くの?」
「本当に謎だよな。何でこう慌てて店の奥に行くんだ? まだ朝早いし、客なんざまだ俺達含めてまだ3組しか来てねぇぞ? まぁでも、これからどんどん忙しくなるんだろうな。……そんなことより水来たぜ水! ここにいると本当に喉が渇くんだよな!!」
そう言いながら琉は水を口にしようとした。が、
「ん!? ロッサ、飲むの待った。ちょっとそのコップ貸してくれ」
琉に言われ、ロッサもコップを琉に渡した。琉は水の匂いを嗅ぎ、言った。
「ロッサのもだ。おかしいぜ。何で水からトラ電池の匂いがするんだ?」
トラ電池とは、「トライデント用電池」の略である。第一部の第六章で、琉がオキソ島のラング基地で買ったアレである。この電池は、中に特殊な液体燃料が密封してあるのだ。しかしこれは非常に危険な物質で、一般家庭にあるモノではない。
「まずい、感づかれたか? くそ、相当鼻が良いみたいだな……」
琉はコップを持って立ち上がると、真剣な顔でロッサにこう言った。
「一応調べを入れる。ちょっと離れてくれ」
ロッサがそこから数歩下がるのを確認すると、琉は持ったコップを傾けて中の水を地面に少し落とした。するとなんということだろう。水が地面に着いた瞬間に瞬く間に炎が上がったのである!
「水が……燃えた!?」
信じられぬ光景に絶句するロッサ。当然周りの客も騒ぎ始めた。琉は炎を踏みつけて消すと、店の奥に向かってこう言った。
「アキサミヨー(なんてこったい)!? ……おい、これは何てタイムサービスだい? 喉の消毒サービスか……うわッ!?」
店の奥から店主がナイフ片手に飛びかかってきた! 刃をかわし、店主の腕を素早くつかむ琉。そのナイフを見て、琉は驚愕した。
「これはメンシェマーク!? おい、いくら俺が憎くてもこんなことしたら店の評判が落ちて、アンタの家計まで火の車になっちまうぜ!! ……ロッサ、他の客連れて外に逃げろ!!」
琉に言われ、ロッサは他の客と一緒に外に出た。
「ひぃッ、あんなモノ飲まされた日にゃ、一瞬で灰にされちまうぞ!」
「朝からなんてことが起きるんだ全く!!」
客は口々に言いつつ外に逃げた。
「貴様、よく気付いたな! しかしメンシェの裁きから逃れられると思うなよ!」
「説教なんざどうでも良い、表に出ろ!!」
琉と店主が組みついたまま、店の外まで飛び出て来た。静かだった通りはたちまち騒がしくなる。店主は琉を振り払うと、そのままナイフで斬りかかった。
(ちっ、速いな。パルトを抜く隙がない。よし……)
相手のナイフをしゃがんでかわし、そのまま足払いを掛ける。ナイフを持ったまま、相手は転倒した。つかさず琉はナイフを握った手を掴み、指を立てて強く握りしめた。
「ぎゃああああ!?」
穴が開くほどの激痛が店主の腕に走る。悲鳴とともにナイフは落ちた。
「お父さん!?」
悲鳴を聞きつけ、店から店主の娘が飛び出て来る。
「俺の握力は90kgはある。リンゴを握ればつぶれるどころか穴が開くぜ!」
台詞と共に琉は腕を放した。ナイフに手を伸ばす店主。しかし琉がナイフを蹴飛ばし、額にパルトネールの先端を押し当てて言った。
「しばらく眠ってな。パラライザー!」
第二部連載中! 今回もまたノッケから飛ばしますよ!w 更に第二部以降は一章を序・破・急の三部構成にしようと思います。四部構成だと後の管理が大変だったので……。