『砂の地獄を突破せよ』 序
~前回までのあらすじ~
手掛かりを求めてアルカリアに来た琉とロッサ。探索で重要な手掛かりを見つけたものの、メンシェ教の無人小型艇の襲撃により断念せざるを得なくなってしまう。そして故郷に帰ろうとした琉に届いたのは恐ろしいニュース。メンシェ教がタダの田舎宗教ではなく、大規模なテロ組織であることが判明したのだ。そしてその魔の手は琉の知人である工房の二人にも襲いかかり、家族を人質に工房の明け渡しを迫っていたのであった。琉の加勢で何とか退けたのだが……。
「悪魔を倒し、世界を救うのなら分かります。不当に逮捕された父や、同志を救い出すのも分かります。しかし、これは……」
薄暗い部屋の中で、一人の女が抗議している。
「何故ヒトじゃないというだけの理由で、関係のない者を捕えたり命を奪ったりする必要があるのですか? 早く家に帰すべきではないのでしょうか!?」
「良い良い、アヤメの言うことももっともだ。しかしな、こうでもしなければ協力を仰げなくてな」
もう一人、部屋にいる男が言葉を返した。
「悪魔を連れてる男――彩田琉之助。ヤツはラング装者、我々とは技術にしても素の体力そもそも次元が違う存在だ。それに対抗するには、ヤツが“利用”する亜人種どもの技術を利用し、同時にヤツの戦力をそぎ落とす必要があると考えたのだ……」
その頃、襲撃のあった工房では。
「それは奥へ。こいつは持って行こう。……よし片付いた!」
工房内では、アルの指揮下で従業員、そして琉とロッサが総出で片付けをしていた。
「琉……何で今工房の中を片付けるの? 早く行かないと……」
「急がば回れ、だ。砂漠を直に突っ走るワケにもいかんだろう? 何、すぐに分かるさ」
工具、作りかけの製品、修理を依頼されたモノ。これら全てを奥の部屋に仕舞い込み、工房内はたちまち殺風景となった。
「皆ぁ、奥の部屋で待機しててねぇ。工房を頼んだよぅ! んじゃゲオ、行こうか。琉ちゃんとロッサちゃんは、その白い線より外側で待っててねぇ」
アルがある扉の鍵を開けると、そこには地下への階段が。アルとゲオはそのまま階段を駆け降りて行った。
「何があるの?」
「すぐに分かるさ……ほら来た!」
一方アルとゲオは階段を降りると、早速そこにあった椅子に乗りこんだ。そして周りの壁についたスイッチを押すと、アルがレバーを動かして目の前にあるハンドルを握り、叫んだ。
「フロア・オープン! アンタレス・セットアップ!!」
工房内全体に、大きな音と振動が響く。工房の床が二つに開き、中から巨大な影が浮かび上がる。やがて影は工房の中に姿を現した。
「これは……!?」
「コイツはアンタレス。ここの工房の“最高傑作”さ」
アンタレス。砂漠を時速約100kmで走ることが可能なバギーカーである。屋根に付いたソーラーパネルでエネルギーを補完し、砂漠を約1カ月、フルパワーで走り続けることが可能なスーパーマシンである。
「さ、早く乗ってぇ! ……よぉし、アンタレス・ゴー!!」
シャッターが開き、アンタレスの巨大な姿が現れる。誰も通らぬ裏通りの砂の道を、一つのバギーが駆け抜ける。やがて周りの景色は建物の建ち並ぶ街から見渡す限りの砂漠へと変わって行った。
「どうだいロッサちゃん、初めてのバギーは。早すぎてクラクラしてないかい?」
「……それより何か乾く。琉、水ちょうだい」
「はい、水。ゲオ、そもそも彼女は砂漠自体が初めてだぜ」
目指すはオアシス。囚われの家族を助け出し、メンシェの暴走を止めるために4人は砂漠を渡る。シリアスな状況下でもユーモアを失わない琉とゲオ。ハンドルを握りながら笑うアル。こういう時こそリラックスすることが大切だと、男3人は分かっていた。
「街がどんどん、小さくなってゆく……」
だんだんと離れてゆく街。一方のロッサは水を片手に、周りの見渡す限りの砂景色を眺めていた。赤みがかった黒髪が風になびき、紅玉の瞳は何処か不安げな表情をたたえている。
(街から離れるのが不安か。そりゃそうだろうな……)
アンタレスはひたすらオアシスを目指して疾走した。ハンドルを握るアルの隣で、レーダーを持ったゲオが説明する。
「反応はオアシスに向かってまっしぐらだ。しかしオアシスで何をする気なんだ?」
「ねぇねぇ、メンシェもバギー使うの?」
ロッサが聞く。
「そりゃ使うさ。でなきゃこんな場所、移動出来ないぜ! しかしすぐ追いつくと思ったんだがなぁ……」
「どうやら違法改造したみたいだねぇ。100kmは確かに速いかもしれんけど、法律ギリギリだからねぇ。あっちは確実に150kmとか出してるよぉ」
「全く船にしてもバギーにしても……。何でも速けりゃ良いってもんじゃないのになぁ。しかしエンジン壊れたりしないのか?」
琉はタメ息をつきながら言った。あまりに高い速度を出すと、エンジンにかかる負担も大きくなる。メンシェ教徒は一体何を考えているんだ、と琉は思った。
「ところで、あとどれくらいでオアシスに着くの?」
ロッサはアルとゲオに聞いた。
「ん……あと3時間くらぁい」
約2時間が経過した時だった。
「琉、のど渇いた……」
「ロッサはよく飲むねぇ……。ちょっとずつ、だぞ?」
体質上、水を全く飲まないアル。時折飲む程度の琉とゲオ。一方のロッサは常に飲み続けていた。
「ロッサちゃん、水中には強いみたいだけど乾燥は苦手みたいだねぇ。オイラとは正反対だぁ」
「オアシスに着いたらまず水分補給だな。……お、どうやらあちらはオアシスに着いたみたいだぞ!」
ゲオのレーダーを、琉とロッサが覗き込む。
「反応の移動が止まっている。……オアシスのふちっこかな? こんな所に何かあったっけな……」
そう言ってる時だった。ガタン! という音がしてバギーが停止したのである。
「アル、どうした?」
「目の前見て! 来るよ!!」
今回のタイトルは久々のオリジナルです。そして第七章は海ではなく、砂漠が主な舞台となります。果たして四人は、無事にオアシスに到着出来るのでありましょうか!?