『史実は見えるか』 急
記憶を戻すべく、水中で探索を開始した琉とロッサ。しかし二人のランデブーを邪魔するモノが現れて……。
ロッサに言われ、琉が向いた先には更に多くの小型艇が向かってきていた。先程襲いかかって来たモノと違い、こちらは直径が約5m、厚さが約80cmと大きく、表面には砲台等が見当たらない。しかしある程度こちらに近づいた途端、小型艇は上下にガバッと開き、砲台を伸ばすとそのまま琉達目がけて発射してきた!
「うわ!? 俺こんなラムネ菓子食いたくねぇよ! ロッサ、ヒンギレー(逃げろ)!」
まとも相手してかなう相手ではない。琉はロッサを強く抱えると、アードラーに掴まりスピードを一気に上げた。
「どうするの……?」
不安に駆られたロッサが琉の顔を見る。マスクのレンズ越しに写る琉の目は険しく、真っ直ぐにカレッタ号を見つめている。
「このままではラチが明かない。ひとまずここから去る必要がありそうだ。全く、タチの悪い海賊だぜ……。しかし今の様子を見る限り、今度のも無人のようだな」
小型艇は容赦なく針のような光線を琉達に浴びせて来る。光線の間を、縫うように進むアードラー。琉はチラリと後ろを向くと、パルトネールを取り出して引き延ばし、
「パルトブーメラン!!」
音声コードを入力すると回転させて投げつけた。そして更に、
「オセルスフラッシュ!!」
額のオセルスレーダーから放たれた赤い光線が、投げられたパルトネールに命中する。オセルスフラッシュを浴びたパルトネールは、その身に真っ赤な光を宿すと更に勢いよく回転し、先程までとは段違いのスピードで小型艇の群れに突っ込んでゆく。赤い軌道を描き、パルトネールは小型艇を次々に貫いていった。たちまちあちこちで、爆発音が響く。小型艇の頭数が減ることにより、琉達に注がれる光線の数もそれに比例した。その隙に琉達は真っ直ぐにカレッタ号のハッチに急いだのである。
「ロッサ、先に入って!! ……お、来たか!」
パルトネールが戻って来た。既に光は宿しておらず、元の黒い棒状の道具に戻っている。琉はパルトネールを手に持つと、自らもカレッタ号に入り込んだ。ラングアーマーを解除し、ウェットスーツのまま操舵室に走る琉。
「琉、見て! さっきの小型艇が……!!」
舵を握り、ロッサの指差す方向を見る琉。操舵室の窓から見えたモノ、それは、
「くっ、何だこいつらは!? ラムネ菓子のパック詰めか!?」
なんと先程の小型艇が結集し、次々に合体しているではないか! 合体した小型艇は細長い棒状になり、長さは約16mとかなり大きくなっている。どこから湧いたのかアンテナ状の突起を生やしており、その姿はどことなく異様なモノであった。
「なるほど、こちらに対抗して大きくなったということか……うわっ!?」
合体した直後、相手の突起から放たれた光線がカレッタ号に降りかかった! 強い衝撃が中の二人を襲う。
「きゃあっ!?」
「おわっ! 大丈夫かロッサ……ん!?」
よろめいた拍子に、琉の口にはほのかな甘みがひろがった。そう、ロッサの赤い唇が琉の口に触れたのである。が、相手は空気を読まずにぶっ放してきた。琉はすぐに正気に戻ると口をぬぐい、舵を握った。
「アタビチグヮ(この野郎)、俺のファーストキッスを達成させといて邪魔するのつもりかよ!?」
琉は窓越しにタンカを切ると碇を引き上げ、カレッタ号を旋回させた。
「なるべく早く脱出したいが、コイツを片づけないと厄介だな。ツインレーザー!」
カレッタ号の両端からそれぞれ小さな砲台が顔を出す。操舵室の窓に、二つのロックオンマーカーが表示された。琉はマーカーを重ねて相手の一点に照準を合わせると、レバーに付いたスイッチを握り、押した。たちまち細いレーザー光線を発射され、相手の突起の生えた個所に突き刺さって爆発が起きた。
「シールド展開! 必殺・カレッタストライク!! ……ロッサ、しっかりと掴まっててくれ。ちょっと荒けないことするから」
特殊なシールドに覆われ、青く発光するカレッタ号。琉はレバーを握り直すと、一気に手前に倒した。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
琉の雄叫びと共に突進するカレッタ号。中心部をやられた合体小型艇は爆発し、海の底へと沈んで行った。その中から一つ、無傷で沈みゆく小型艇を琉は見つけた。
「クラストアーム!」
琉は素早く小型艇を拾い上げ、回収した。
「琉、今なら逃げられる!」
「よし、分かった! ……へっ、やっと諦めてくれたか……」
琉は安堵の言葉を口にすると、そのまま浮上して港に戻って行ったのであった。
「で、これが話にあったモノさ」
港に戻った琉とロッサ。琉はアルとゲオの二人を呼び、回収した小型艇を見せていた。
「これはかなり精巧だよぉ。しかし人が乗れる場所がないねぇ」
「無人で動く船か……。一体何処で作られたモノなんだ? ちょっと失礼するぜ」
無線装置は撃沈した際に壊れてしまったらしく、小型艇はピクりとも動かない。ゲオが外のパーツをいくつか外すと小型艇は水中でみたように上下に開き、アンテナ状の砲台が4つ外に張り出してきた。
「う~む、こいつ装甲こそ薄いがこの光線砲はかなりのモノだ。相手は並みの海賊ではないだろう。……ん? 何だ、このマークは」
ゲオに指摘され、琉達は装甲の内側に書かれているマークを見た。稲妻が十字を切るように書かれ、その中心にヒトをあしらったモノである。これを見た瞬間、琉とロッサの脳に電流が走った。
「これ、メンシェ教の!」
「確かに、間違いなくメンシェ教のマークだ! やっぱり、唯の海賊ではなかったのか……」
「だとしたら琉ちゃん、しばらくエリアδに行っちゃあ駄目だよぉ。明日の朝にはもう、ハイドロまで帰った方が良いかも。ロッサちゃん、せっかくだから今の時代のことを色々と勉強したらどうかな」
アルが琉とロッサに忠告した。確かにこのままここにいては危険すぎる。ロッサのためにも、ここは一旦ハイドロ島に帰還して大人しくした方が良いだろう。
「……分かった、そうしよう。ロッサ、しばらく探索はやめだ。ハイドロに帰って、しばらくは道場の手伝いでもしようかな……」
船の階段を昇る琉とロッサ。予想外に早くなった帰郷。たまにはのんびりするのも悪くはないかな、と思う琉なのであった。
「……ふむ、撃沈されたか」
「申し訳御座いません! 今度こそ、ヤツを……!」
琉達が港に着いた頃。薄暗い部屋の中で男はモニター越しに話をしていた。モニターの向こうには女性が映っている。
「いや、こちらから見る限り実験は成功だ。あとは改良を加えるのみだが、これでも我々メンシェ教の勢力を広げるには申し分ない。早う戻ってくるが良い」
そう言って、男は画面を切った。そしてローブの袖をめくり、腕時計を見ながら呟いた。
「間もなく時は訪れる。我らが同志を捕え、虐げた者たちよ。メンシェの神の名のもとに天誅を与えてくれようぞ……!」
ここのところ忙しいです。毎度のことながら不定期連載ですが、応援よろしくお願いします!
では、次回予告です。
「思っていたよりデカかったんだな……」
「わたしの居場所は……どこにあるの?」