『史実は見えるか』 破
ロッサの記憶のため、再びエリアδに挑む琉。しかし二人を待っていたのは思いもよらぬ展開であった。
ダイブモードに変形し、海中を進むカレッタ号。徐々に群青に染まりゆく光景に、眩いサーチライトの光が刺し込んでゆく。やがて光は、数々の“塔”がそびえ立つエリアδ独特の風景を映し出した。所々、塔や地面に空いたクレーターが、3000年前の大戦争の激しさを物語っている。ロッサは、ペンダントに写った男――リベールの顔を見ながらδの景色を眺めた。
「あの道を、わたしとリベールは一緒に走って、そして……」
ロッサはそう言いながらδの端を見た。
「あの崩れた所……あそこに船があって一緒に逃げた……」
「あの道、ねぇ……。ちょっと、俺にも見せてくれないか」
舵を握ったまま、琉はロッサと一緒になって窓の外を眺めていた。琉はロッサにペンダントを見せてもらいつつ、当時の光景を想像していた。女の手を引き、海を目指して走る男。男に手を引かれ、炎から逃れて走る女。今の推測では、このエリアδという所は元々大きな街だったと考えられている。戦場と化した街。奪われた日常。迫りくる炎。琉の脳裏に浮かんだのはあまりにも悲惨な光景であった。
「ちょっと、あちこち回ってみるぜ。ついでに……」
琉は、ある大きく崩れた塔を見て言った。
「回収、するかな。ガレキはどかしておかないとね、クラストアーム!」
クラストアームを展開し、ガレキを取り除く。この塔は前日の戦いで大きく崩れた塔であり、まだ若干の宝が残っていた。琉の記憶では、この中に棺が混じっているはずである。
「たしかこの辺に……あった」
琉はそれらしきモノを見つけると、クラストアームでカレッタ号の船内に取り込んだ。他にも石像等の宝を見つけ、漏れなく回収して行った。これでまたしばらく食っていける。
「ロッサ、遺跡の中を見て回ろう。アンカー・シュート!」
琉は碇を打つと、ラング装置の部屋に向かった。
「ロッサは水の中でも平気みたいだけど、俺はこれがないと息が、ね。ラングアーマー・セットアップ!」
ラングアーマーを装着し、飛び込む琉。そして海中からロッサの手を引き、水中へとエスコートした。アードラーを呼び、二人はその背中に乗って海底へと向かってゆく。塔の隙間に出来た碁盤状の道を、縫うように進む琉とロッサ。サーチライトに照らされた遺跡の光景。道に出来たクレーターや塔に空いた穴が、かつての戦争の激しさを物語っている。
「そう、この道。この道を、ずっと向こうの方に走ったんだ!」
「この道かい? よし、たどって行こう」
カレッタ号の明かりから離れた個所を、ロッサが指差した。そこに向って、アードラーのサーチライトが照らし始める。
「ここに船があって、そこから海に出て……ごめん、あとは思いだせない……」
「……そうか。しかしここから比較的近いのはエリアβだ。今度行ってみることにしよう」
来た道を戻る二人。遺跡の外れから、再び塔の建ち並ぶ遺跡へと戻って行く。街を歩くのと同じように、二人は海底スレスレをアードラーで進む。
「……そうだ、あの辺にいつも行ってた食べ物のお店があって、この辺でいつも散歩してて……。あ、あそこだ!」
「うん? あの辺がどうしたんだ?」
「わたしがリベールと住んでた家……あの塔の中にあったと思う」
ロッサの記憶が戻ってゆく。ここでリベールと暮らした思い出。例えわずかな記憶でも、琉にとっては重要な手掛かりとなる。ましてやかつての家となれば、琉にとってはこれ以上ないキーアイテムが見つかるだろう。琉はアードラーの先端を塔に向け、真っ直ぐにその部屋に向かった。
「ここかい?」
「その右……そうそこ!」
琉はアードラーを穴の入口に停めると、ロッサと共に入り込んだ。パルトネールの先端から光を出し、中を捜索し始める琉。
(まさかこんなことまで思い出してくれるとはな……これでまた一歩、彼女の史実に近づいたか。さぁて、俺に史実は見えるかな、と)
琉とロッサは家にあるモノを片っぱしから拾い集めてはアードラーに積んで行った。部屋の壁には攻撃によって空いた大きな穴があり、持ち帰れるモノは少なかったが、それでも大きな進展につながるのは間違いないだろう。一通り積み終わると、琉はロッサに言った。
「よし、カレッタ号に戻って一個ずつ確かめるとしようか……うわっ!?」
突然塔に走った衝撃。思わずよろける琉とロッサ。塔の天井が音を立てて崩れ始めた。琉はロッサを抱えるとすぐにアードラーにしがみ付き、夢中になって塔の穴から飛び出した。そして、ある違和感に気が付いたのである。
「馬鹿な、パルトネールが反応してないだと!?」
「琉、見て!」
ロッサの指差す方向から、大量の影がこちらに向かって来る。たちまち二人のいる塔の周りを、向かってきたモノが取り囲んだ。直径約2m、厚さ50cmほどの円盤状の物体。中心は盛り上がっており、その先端から砲台が伸びている。先程の衝撃はどうやらこの攻撃だったようである。
「驚いた、小型艇だったとはな。最近の海賊はこんな狭苦しい船に乗ってるんか」
琉がパルトネールを構えて言い放った。ロッサは第三の目を開き、小型艇を睨んでいる。この世界の海賊は小型艇に乗り、機動性を活かして集団で襲いかかってくることで知られている。しかしロッサの口から、思わぬ事実が告げられた。
「嘘……誰も乗ってない!? 琉、この船自分で勝手に動いてる!」
「何だと!? んな馬鹿な、ラジコン操作ってワケかい? 確かに、ヒトが乗るにはちょっと小さすぎるとは思ったんだが……」
そんな二人のおしゃべりに聞く耳持たず、無人の小型艇は二人に照準を合わせると容赦なくぶっ放してきた。すぐさまアードラーに乗ってかわす二人。
「無人ならこちらも容赦はいらないな。パルトネール・チェイン!」
パルトネールの先端から分銅が現れる。一方でロッサの手が赤黒い狩りの腕に変貌する。琉は一つの小型艇目がけて分銅を発射した。中心部を貫かれ、たちまち動きが鈍る小型艇。
「パルトショック!」
鎖から伝わる電流で、小型艇は爆破された。そのまま琉は分銅を振り回し、小型艇を引っ掛けると別の小型艇にぶつけて大破させた。一方のロッサも、指を突き伸ばして小型艇を捉え、指が発光した途端に小型艇が海中にも関わらず炎上した。
小型艇の砲台から放たれる光線をかわし、一つ、また一つ小型艇が落としてゆく。砲撃では駄目だと操り手が思ったのか、小型艇は側面からノコギリのような刃を出し、回転しながら向かってきた。
「しつこいな、心中は御免だぜ。ロッサ、しっかり掴まってろよ……アードラー・バックスティング!」
アードラーのトゲから放たれる針のような光線が無数に放たれ、小型艇に刺さっては爆破してゆく。戦闘開始からわずか五分で、辺りの小型艇は全滅した。
「よし。海賊やっつけたし、さっさと帰るか」
「……!? 琉、気を付けて! まだいる!!」
「何ィッ!?」
謎の敵、あらわる! 因みにモチーフは珪藻ですw デザインは実習中に思いつきました。