『古より愛をこめて』 急
拾い集めた宝。その中にあったペンダント。その中にはロッサと、もう一人謎の男が写っていた……。
まさかの展開に驚愕する琉。しかし同時にあることを思い出した。彼女の能力の一つ、あらゆる言語を読みとる力である。ロッサは復活してすぐにも関わらず今の時代の書物を読むことが出来た。ましてや自分のいた時代の古代文字が読めないはずがない。
「すると男の名はリベール……。一体何者だったんだ?」
リベール・ドラゴニア。このペンダントの写真から見る限り、短髪で童顔の琉とは対照的に、髪がボサボサと長く無精髭を生やしたむさ苦しい男である。ロッサの話では、彼女のドレスと似たような服を着ていたらしい。
「そいつは恐らくこの辺の民族衣装だぜ。何せ暑いからな」
二人はこの後も作業を続けた。モノを拾い、ひたすら磨いて当時の姿に出来るだけ戻す。作業開始からトータルして約3時間が経ち、結局ロッサの記憶のヒントとなったのは先程のペンダントだけであった。
「明日、もう一回δに行こう。ある程度思い出した所で見に行けば何か分かるかもしれないしな。……ところでペンダント、ボロボロだね。せっかくだし、修理してもらうかい?」
琉の提案で、ロッサはペンダントを修理してもらうこととなった。早速二人は船を降りると、アードラーを呼び出して街に向かった。発掘した宝石を売り払い、大金に代えると琉達はあの裏通りに走って行った。
「こいつの修理ねぇ。分かった、早速やっとくよぉ。どうせなら見て行くぅ?」
アルはペンダントを受け取ると、早速その手と目で意識を集中させた。これはディアマンの技術で、モノに含まれる鉱物の成分を調べるという技術である。本人いわく、「舐めたらもっと手っ取り早い」そうだが。
「ふむ、分かったよ。じゃあ早速やってみようか。ゲオちゃん、鎖の方お願ーい」
アルの手によりペンダントの錆が落とされ、更に輝きを増してゆく。そしてゲオがボロボロになった鎖を外して装置に入れ、流体化するとアルの書いたメモ書きを元に原料を注ぎ込んだ。スイッチを起動すると鎖の型の中に金属は注がれ、瞬く間に固まってゆく。遂にペンダントは新品同様の姿に生まれ変わったのであった。
「はい、これで完成! ロッサちゃん、早速着けてみなよ」
ゲオに渡され、ロッサはペンダントを首に着けた。銀のペンダントが、彼女の美しい胸元を演出している。
「うーん、もう少し筋肉があればなぁ……」
「ペンダントはやっぱりハガネのような胸板に合うよねぇ」
「いやいや、このままの方が良いッ!」
種族の価値観の違いは置いておくとして、話はロッサのこととなった。
「オイラ達にも一回詳しく聞かせてはくれないかい? 力になりたいからさぁ」
「こないだは酒が回ってたせいかよく覚えてない。たのむよ」
アルとゲオの二人に頼まれ、琉とロッサは話すことにした。
「まず今分かっていることなんだが、彼女は元々エリアβの出身らしいとのことだ。それが何らかの理由でエリアδにいた。そして彼女には、いつも一緒に行動していたと思われる男……ロッサ、ペンダント貸してくれ」
琉はロッサにペンダントを借りると携帯電話で挟まれた写真を撮り、確認だけするとロッサに返した。
「この男、名前はリベール・ドラゴニアって言うらしいな」
アルとゲオはまじまじと携帯電話を覗き込んだ。
「琉ちゃん、何で名前が分かったのぉ? δってまだ解読終わってないよー!」
「わたしが読んだ。字が書いてあれば分かるから」
ぽかんとする二人。琉はそっと補足した。
「二人とも、彼女は“文字”さえ書いてあれば表面上の意味を読みとることが出来るんだ。だから今の字でもきっちり読めたりする」
「琉ちゃん、それ凄いことだぞ。彼女さえいれば、ロステク全部復活出来るじゃねぇか!!」
ゲオが目を輝かせて話に食いついた。しかし琉は首を横に振る。
「よく考えろゲオ。どうやってその解読が合ってると証明するんだい? 具体的な解読方法を示さないと認めてもらえないぜ。……ただ、ヒントにはなるな。さて続きだ。彼女はそのエリアδであの大戦争に巻きこまれた。そしてその際に、“第三の目”を失ったと考えられる」
「攻撃を受けた、ということかぁ。すると相当弱ってたと考えて良いねぇ」
「そしてその後脱出して、何処へ向かったのかということか。恐らく、エリアβに直行した可能性が高いな……」
琉の調べた結果に、アルとゲオの推測が答える。一方ロッサはペンダントの奥にいるリベールの顔を見つめていた。
(リベール……一体誰なの? どうしてわたしと一緒にいたの? 教えて、教えてよリベール……)
しかしいくら問うてもリベールは答えない。彼は三千年も前の人間、すでにこの世にはいないのだ。
「ねぇ琉ちゃん、例の“使命”って一体誰が言ったんだろうねぇ? 少なくとも“目”を失う前だよねぇ。でも何でわざわざ……」
アルが琉に聞いた。ロッサには、“母になる”という使命がある。しかし誰が言ったのかは定かではないし、そもそも繁殖そのものをわざわざ“使命”とするのはおかしいだろう、アルはそう考えたのである。
「そこは流石に分からん。そのためには彼女の種族、“ヴァリアブール”自体を調べる必要があるからな……」
謎が謎呼ぶロッサの過去。本人すらも計り知れないこの謎を解き明かすのは容易なことではない。しかし解き明かさねば、彼女は使命を果たせなくなる可能性がある。
「これは俺の推測なのだが……ひょっとしたら彼女の他にもう一人ヴァリアブールがいる可能性があるんじゃないかと思うんだ。それも“男”のだ」
「男のヴァリアブール?」
アルとゲオは同時に声を発した。
「そうだ。つまり彼女は生き残り、もう一人男の生き残りがいてこちらが“父になれ”という使命を帯びている、とすれば……」
「それ何か昨日言った気がするよぉ、何となくだけど……。しかし普通に考えればそれしか思いつかないねぇ」
「琉ちゃん、しばらくは棺桶探しだな。しかし何かヒントはないものか……」
男三人は黙り込んだ。必死に思い出そうとするロッサだが、これ以上の記憶が出てこない。ペンダントを握ったまま考えるロッサに、琉が話しかけた。
「ロッサ、明日もう一度エリアδに行こう。そんでカレッタ号でじっくりと全体を回ってみようか。また何か、思い出すかもしれない。アル、ゲオ、今日は有難う。今日はもうこれで失礼するよ。また明日、調査が終わったらここに来るから」
琉はそう言うと、工房を出てアードラーに跨った。
「気を付けてねぇ~!」
「こっちも何か分かったら連絡するぜ!」
工房で手を振る二人。ゴツい見た目でも気さくな性格である。アードラーで風を受けつつ、琉はロッサに言った。
「そう気を落とすなって。じっくりとな、じっくり」
ものの数分で二人はカレッタ号にたどり着いた。
「よし、チェィンジ・マリンアードラー! ……さて、明日は7時出発だが……」
琉はアードラーを船底に戻すと甲板から階段を展開させ、ロッサと一緒に昇りつつ言った。しかしロッサの顔はシリアスな面持ちのままである。
「……ロッサ、難しい顔はよせ。どうにも思い出せないのを無理に思いだそうとしてもくたびれるだけだぜ。……さぁ、飯だ飯だ~!」
「……うん、そうだよね。飯だ飯だ~!」
ロッサの顔に笑顔が戻る。難しいことはまた明日、今日はひとまず腹ごしらえ。そう考えて、二人は階段を駆け上がって行ったのであった。
謎の男リーベル。彼は何故ロッサと一緒にいたのか。謎が謎呼ぶ物語、第五章にご期待下さい。
~次回予告~
「くっ、何だこいつらは!?」
「嘘……誰も乗ってない!?」