『古より愛をこめて』 破
ラングアーマーの修理。ロッサの戦慄の食事。その後は……
戦慄の食事の後、カレッタ号は港に戻った。二人はアードラーを甲板に上げ、船内に運んでいた。
「琉、これを何処に持ってくの?」
「作業室だ。君が目を覚ました部屋だよ」
二人は部屋に着くとアードラーのカバーを開け、中から大量の宝を取り出した。
「すごい、こんなに落ちてたの?」
「ふむ、おそらくほとんどが当時の装飾品だね。テクノロジーには応用することは出来ないが金にはなる。これでまたしばらく食っていけるぜ。しかしこのままじゃ売ることは出来ん、磨かないとな」
そういって琉はブラシを二本取り出し、ロッサに一本手渡した。そして宝の一つを手に取ると、
「良いかい、付着物をこいつで……こうやって取り除くんだ。時々こうやって真水で洗いながらね。……ほら!」
琉は少し磨いたその宝を見せた。磨かれた部分が鮮やかな青色となっている。
「こいつは立派なサファイアだ。他にもあるかもしれんな。これでちょっとでも当時の事を思い出してくれれば……まぁ良い。何かあったら呼んでくれ」
これだけ言うと琉は、再び作業に取り掛かった。ロッサも彼と同じように、ブラシを持って見よう見まねで作業に取り掛かる。二人の顔は真剣そのものだった。
(お、やってるやってる。こうすれば記憶戻しになる上に作業の効率化、即ち金儲けにもつながるって寸法だぜ。やっぱ二人分稼ぐにはそれなりのことをしてもらわないとな……)
黙々と作業を続ける二人。やがて付着物だらけの宝物は、どれもピカピカの装飾品へと変わって行った。残り少なくなった時、ロッサは琉に言った。
「琉、これ上手く出来ない。代わりにやってほしい」
ロッサがそう言って持ってきたのはひも状の何かだった。確かにこれを磨くのは初心者には難しい。
「よし分かった。じゃあ代わりにこいつを頼むよ。なるべく自分でも出来そうな奴を選ぶようにね」
琉はそれを受け取り、代わりに自分の磨いていた石を渡すと早速作業に取り掛かった。ところどころ錆てボロボロにはなっていたが、ものの数分で付着物だらけの紐は見事な形のペンダントに姿を変えた。
「ほぉ、こいつは中々上手いこと残ったペンダントだね。……ん?」
琉はペンダントの先が開きかけているのに気が付いた。しかし付着物と錆が邪魔で上手く開かない。そこで琉は更に磨きをかけ、錆を薬品で落として見事にこじ開けた。
「ここに写真か何かを収められるようになってんだな……んな!?」
琉は驚愕した。そしてロッサの方を向いた。それでもってもう一度ペンダントを見た。
「こりゃすごいモノを見つけちまったようだ……ロッサ、ちょっとこっちへ!」
「え、何か面白いのあったの?」
「面白いも何もこのペンダント見てくれ、こいつをどう思う!?」
ロッサは作業を中断すると、琉の方に歩いて来た。そして彼に言われた通りにペンダントを見た。そこには何と髪の長い無精髭を生やした男と、ロッサにそっくりな顔の女性が写っているではないか!
「すごく……そっくり……」
「そっくりどころか君じゃないのか? というか、この男に見覚えは!?」
琉は半ば興奮状態にあった。追い求める真実にまた一歩、近付きつつあるからである。一方のロッサはペンダントに写った男を凝視した。
「この人、知らな……!?」
ロッサの脳裏にある光景が鮮明によみがえった。炎の上がる街、崩れゆく建物、怒号や悲鳴の中で逃げまどう人々。そんな中自分の手を引いて走る謎の男、海中で突如広がったあの光景に出て来たあの男に、この写真の人はまさしく瓜二つだったのである。
「手を引いてくれてた……」
「な、何だって!? 覚えているのか、いや思い出したのか!? ちょっと詳しく聞かせてくれないかい?」
ロッサは琉に話を始めた。琉が潜水中に突如目の前に広がった光景。目の前で上がった炎、その後自分に話しかけて手を引き、街中を駆け抜けた謎の男。ロッサは出来る限りあの時の様子を琉に話して聞かせた。
「なるほど、フラッシュバックって奴か……。するとこの男が君を戦火の中から助け出したと言うのかい?」
「うん、この人だった。でも、誰なんだろう……?」
「ペンダントに一緒に写ってる辺り、恐らくいつも一緒にいた人だろうな。そういえばロッサ。確か以前に、昔も空を飛び回っていたと言ってなかったか?」
ロッサはうなずいた。琉はペンダントの写真を見つつ、少し考えるとロッサに言った。
「彼と一緒に、飛び回った覚えはないかい?」
「ごめん、思い出せない……。覚えてるのはただ、彼に手を引かれて街を出たくらいで……」
「分かった、もう良い。つらい記憶を蒸し返してすまなかった。……作業を、続けようか」
二人は作業を再開した。モノを磨きつつ、琉は考えていた。
(この男が何者か、また新しく謎が増えたな……。しかしここでの戦に巻きこまれたのなら、やはりここで“目”を失ったと考えて差し支えないだろうな……ん?)
琉はふと、ペンダントの裏側に文字が入ってることに気が付いた。そのうちの一行に、琉は見覚えがあったのだ。しかしここはエリアδ、使用されている文字は違うはずである。何故なら、海底遺跡のエリア区分は文字の種類によって分けられているからである。
琉は携帯電話を取り出すと、以前に登録した古代文字の表を出した。琉は解読した古代文字を携帯電話にも移し、見やすくしているのである。
「たしかここに……あった。下の方だな……『ロッサ・ヴァリアブール』……!?」
何という偶然か。何とペンダントに刻まれた文字はエリアβのモノだったのである。だとすればロッサの出身はエリアβ、場合によってはこの男の出身もエリアβの可能性が考えられるのである。
「翻訳機にかけてみるか。ロッサ、ちょっと席を外すぜ」
琉は部屋から出ると操舵室からPCを持って現れ、部屋にある装置に繋いで起動した。ペンダントを装置にかけ、琉のPCにはある文字が浮かび上がる。
「ねぇねぇ琉、それなぁに?」
ロッサが気付き、PCを見に来た。
「これ? 文字の翻訳機さ。こいつを使えば俺に分かる文字で出て来るんだ。何せ、ちょっとペンダントの文字に見覚えがあってさ……」
そう言って琉はPCの画面を見た。だが……
『ロッサ・ヴァリアブール』
画面にはロッサの名前だけが映っていた。肝心な男の名前までは出すことが出来ず、琉はがっくりと肩を落としていた。
「やはり、そう単純な話なワケないよなぁ……」
「ちょっと見せて」
そう言われ、琉はロッサにペンダントを渡した。ロッサの燃えるように赤い目が、ペンダントの文字をじっと見据えている。
「分かるかい?」
琉はロッサに聞いた。するとロッサはペンダントの文字を指差し、琉に見せながら言った。
「『愛する者とともに。リベール・ドラゴニアとロッサ・ヴァリアブール』って書いてある」
ロッサのまつわるモノを発見! そしてこの男の正体は?