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Mystic Lady ~邂逅編~  作者: DIVER_RYU
第四章『古より愛をこめて』
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『古より愛をこめて』 序

~前回までのあらすじ~

俺はある時、遺跡で女を見つけた。名前をロッサという。彼女は記憶を失くしていた。そこで俺はあちこち回って調べることにし、手掛かりを求めてアルカリアまでやって来た。そして海底遺跡エリアδに挑んだんだけど、そこで久々にハルム、それもよりにもよってタチの悪いパントーダに襲われちまった。危ないところをロッサに助けてもらい、無事に浮上することが出来たのだが……。

 アルカリア領海、ソディア島沖。何とか浮上に成功した琉はラングアーマーの点検を行っていた。ラング装置にPCを繋ぎ、キーを打つ。琉の目の先にはメッセージが表示された。


『アクアイヤーに損傷あり。修復します』


 アクアイヤーとは、ラングアーマーのパーツの一つで船との通信に使う装置のことである。頭部に着いた耳かヒレのようなモノで、琉のモノは縁の紅い三日月型をしているという特徴がある。カレッタ号との通信が出来なくなったのは、この装置を毒液で溶かされたのが原因であった。


『粒子化装置を起動します。原料を挿入して下さい』


 海底遺跡から発掘されたロストテクノロジーのうち、最大の発見とされているのが物質の粒子化技術と流体化技術である。特殊な装置と人工触媒を用いて物質の形を自在に変え、制作や収納、変形が自在に出来るようになったのだ。ラング装置には一定量の粒子化した原料がタンクの内部に入っている。ライセンスに書き込まれた情報をもとにして形状化し、その人専用の使用に自在に姿を変えることが可能となっているのだ。そしてもし今回のように損傷した場合、必要に応じてそこに必要な原料を注ぎ足すことで容易に修復することが出来るのである。


「ロッサ。悪ぃ、そこの『イヤー』と書かれた引き出しから、瓶を持ってきてくれないか?」


 ロッサは琉に言われた通りに引き出しを開けた。中にはワインボトルが数本入っており、ラベルには『飲むなよ! 絶対に飲むなよ!!』と書いてあった。


「これ……ワイン?」


「ワインボトルの使いまわしだ。中身はむしろ同じ量のワインより高いな……飲めないんだけど。つか飲んだら不味いだろうな、多分」


 冗談を言いつつ、琉は瓶を開けると装置に注いだ。


『燃料残り30%です。補充して下さい』


 修復が終わると今度は燃料である。先程の戦闘で大量に消耗しているので、今回は多めに注ぐ必要があった。


「ロッサ、こいつに一杯水を汲んできてくれ」


 琉は装置から筒状のモノを出してロッサに渡した。ロッサが戻ってくると、琉は水の中に白い粉を入れた。粉は一瞬にして水に溶け、跡形もなくなった。


「琉、これもしかして……」


「あの時の水に入ってた奴さ。これが正しい使い方だぜ」


 琉は容器に蓋をすると、再び装置に入れた。


『メンテナンス完了』


 画面に映った文字。ラングアーマーは再び使える状態となった。作業の後にはメンテナンス、ラング装者の常識である。


「さて、腹も減ったし飯にするか!」


 修理を終えた二人は食堂に向かった。単純計算で、水中での運動量は同じ時間の陸における運動量の約2倍となる。ましてやあんなにも激しい運動をした二人は当然空腹となっていた。


「作業の後は豪快な、ガツンとしたモノが食いたくなるんだよね」


 琉は冷蔵庫から骨付き肉を取り出すと、オーブンにそのまま入れてスイッチを入れた。この肉は保存用に特殊なタレに漬け込んだモノである。タレは琉の手作りで、各種香辛料を彼自身の好みで混ぜ合わせて出来ている。保存が利くだけでなく既に味が付いているので、疲れきった作業後でもオーブンに入れて焼くだけで手ごろに食べられるという利点がある。更に使用されている香辛料が、肉の臭みを消すだけでなく疲労回復等の様々な薬効を発揮する優れモノでもあるのだ。


「よし、焼き上がりだ!」


 オーブンを開けるとたちまち香ばしい匂いが食堂に広がった。見事に焼き上がった肉に、琉は豪快にかぶりついた。ロッサはそれを見ると、琉と同じように骨を掴んで肉に噛み付いた。


「どうかな? 焼いただけなんだが。……せめて切りゃあ良かったかな」


 琉の言うことは耳もくれず、ロッサは肉に噛み付いたまま離れなかった。噛み付きながらもその目はルビーのように輝いている。相当気に入ったらしい。


「ま、表情に出てるから良いか……ん?」


 琉はあることに気が付いた。ロッサは肉に噛み付いたまま引き千切らない。よく見ると、彼女の白い指が骨の溝に突き刺さっていた。巨大な塊だった肉は見る見るうちにしぼんでいき、最終的には骨すらもボロボロと崩れてしまった。


「はゎ~、おいしかった~! 特に骨が」


「は、ははは……。そうか、それは良かったぜ……」


 骨付き肉を、文字通り骨の髄まで堪能したロッサ。彼女の意外な好物と驚愕の食事法に、琉はひきつった表情のまま笑っていたのであった。しかし琉にはある光景がフラッシュバックされていた。エリアαにおいて、オドベルスを捕食した際のあのやり方に、今の食事法がそっくりだったのである。


「い、一体どうやって骨まで食ったのかな~?」


「指先で溶かして吸った。そのままだと噛めないから」


 ロッサは、その尖った指先から自分の体の一部を流し込み、溶かして同化してしまう。以前オドベルスと戦った時も指先を相手の体に突き刺し、溶けたオドベルスの肉や骨を首筋から吸いとっていたのだ。現実世界における、タガメやクモのようなモノだと考えていただければ分かりやすいと思われる。


(ロッサの好物は肉よりも骨か。覚えておかないとな。しかしどうにも恐ろしい食い方だぜ。まさしく猟奇的な彼女って奴か……)


 肉をかじりつつ、琉は思っていた。一方でロッサは琉の持っている肉を、いやその骨をじーっと見ていた。琉は肉を食べ終わると、ロッサに聞いた。


「俺、骨までは食えないんだ。よかったらどうだい?」


「え、良いの? じゃあ早速……」


 骨をもらってむしゃぶりつくロッサ。彼女の指が骨の溝に刺しこまれ、真っ赤なその唇に触れた途端に骨はたちまちボロボロになり、砂のように崩れてしまった。


「じゃあ、皿は洗っとくよ。……こんなに喜ぶんだったら今度からは多めに作っておくかな。ロッサ、港に戻ったら拾ったモノをチェックするぜ。ひょっとしたら何か思い出すモノがあるかもな」


 そう言いつつ琉は皿を受け取った。ロッサの皿には吸い尽されて原形をとどめていない骨がこじんまりと置かれている。いや、もはや骨とも言い難かった。


(まぁ、骨の処理が楽になったと考えれば良いか。別に俺が吸われるワケじゃないしな)


前回のあらすじを読んでいるのは……そう、あの人です。しかし今回、ロッサのちょっと怖い部分が判明しましたねw

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