第八話 片翼という呪い
会いたくないと思っていても、この呪いがある限り、きっと会わざるを得ないのだろう。
「ぼ、僕のような新人が、烏滸がましいとは思います。ですがっ、お願いします! 僕と、結婚を前提にお付き合いをしてください!」
彼は、茶髪に青い瞳を持つ、人懐っこい顔立ちの男だ。
その髪の色は、カラフルな色合いの魔族が多い中で安心する色合いだし、青という色も好きな色だ。前世で付き合った人は、全て年上だったため、この可愛い年下の男の子感あふれる彼は、また違った付き合いになるのかもしれない。
しかし……。
「他を当たってください」
彼の言葉は、私にとって地雷だらけだった。
最初に付き合った人も、私に気後れしつつ、告白してきた。しかし、結局は結婚式を前に好きな人ができたらしく、私を愛せない云々とぬかした。
そして、結婚というワードそのものが、私には忌むべき言葉だ。
結婚なんて言葉を軽々しく口にする男は、きっと軽い男だ。そして、結婚と口にした瞬間に態度を変える男もロクなものじゃない。
そう、私は、至極当然の返答をしたのだ。この胸が、とても痛いとは思っても、それでも、こうすることが正しい。そう、思っていたのに……。
「そ、んな……」
絶望したような表情をした彼を前に、私は動けなくなる。
ともすれば、口が勝手に、先程の言葉を撤回しそうになる。
しっかりしなさいっ。前世でちゃんと学習したでしょうっ!
表情という表情をなくしてしまった彼に、私は、クルリと踵を返す。
調べものは次回にしましょう。今は、ここを離れて冷静にならないと。
「……オリアナ様は、僕が、嫌いですか?」
背後からかけられた声に、私はどう応えて良いのか分からなかった。
「…………」
「……応えがないのであれば、僕は、僕に都合の良いように解釈します」
「……好きになさい」
『嫌いだ』と、『顔も見たくない』と、そういった言葉をかけられたなら、こんなにも苦しまずに済んだのかもしれない。
ただ、私は、傷つきたくないのだ。もう、これ以上、裏切られたくない。それだけの思いで、きっと、彼には酷い言葉をかけてしまっている。
もしかしたら、この言葉は、これ以上罪悪感を感じたくないからこそ出てきた言葉だったのかもしれない。それとも、もしかしたら、私はとうに、片翼という呪いに囚われていたのかもしれない。
「では、明日からまた、よろしくお願いします」
「? ……えぇ、よろしく」
その笑顔に心を奪われそうになりながらも、どうにか振り切って、私はその場を立ち去った。




