第二話 魔族はおかしい
片翼とは、魔族にとっての最愛の存在であり、魔族は片翼を見つけると、その存在を愛さずにはいられない。たとえ、相手が人妻だろうと、よぼよぼの老人だろうと、魔族にとってその人物が片翼であれば、何としてでも振り向いてもらいたいと思うのが当たり前だ。
とはいえ、どんな手段を用いてでも片翼を手に入れる、なんてことをすれば、下手をしたら戦争に発展する。
そのため、片翼に関する法律なんてものができたし、片翼を得るため、もしくは、得た後に暴走した際、大きな被害が出ると予想される魔族に関しては、監視がつけられる。
場合によっては、その魔族自身の排除もやむを得ない、というスタンスは、魔族を警戒する他種族への無害アピールであり、実際に、それだけの制限を設けなければ、破滅を迎えるであろう魔族という種の生存戦略だった。
「なんて、どれだけ恋愛脳なのよ。魔族って……」
宰相補佐にまで登り詰めた平民は、少ないとはいえ、過去には存在していた。もちろん、女性の宰相補佐だって居た記録はある。
それでも、私は宰相補佐としては異例だと言われていた。なにせ……。
「仕事にも片翼が関係してくるなんて、思わないじゃない」
膨大な資料が保管されている資料室で、いくつかの書類を探しながら、私は一人呟く。
魔族は、その習性として、必死に片翼を求める。そして、片翼次第では、魔族は善にも悪にも染まる。だからこそ、要職に就くためには、まず、片翼を得て、安定していることが確認されていなければならない、というのが、魔族の一般常識だ。
だから、オリアナ・リシャールという魔族が、片翼を得ていないにもかかわらず、宰相補佐となったのは、あまりにも異例の事態だった。
「そりゃあ、所帯を持ってる方が、世間一般では信頼されるって考え方は分からないでもないけど、魔族はそれが極端よね……。しかも、それだけが異例とされた理由じゃないっていうのが……いや、むしろ、こっちの方が気に食わない」
私が異例の昇進とされるもう一つの理由。それは、私の年齢だ。
「最年少でも良いじゃないっ! というか、他の魔族が宰相補佐になりたがらない理由がバカバカし過ぎるっ!」
私は、最年少で宰相補佐に登り詰めた。しかし、魔族は基本的に有能であれと厳しい教育を施されるため、私よりも有能な魔族は、同年代にも沢山いる。むしろ、私の年代は粒揃いだったらしい。それでも、私が宰相補佐になれたのは、その同年代達が、揃いも揃って片翼との時間を確保したい、とか、片翼を探すことに時間を割きたいという理由で、そもそも宰相補佐になろうとしなかったからだ。
「宰相補佐なんて仕事が不人気職だなんて、どういうことよっ!」
確かに、かなり時間を取られる職務ではあるが、働き甲斐はあるし、待遇も給与も文句なしだ。前世ならば、人気の職業ナンバーワンくらいになっていてもおかしくはない。
「あらあら、まぁた、愚痴を吐きながら資料を探してるのね」
と、その時、背後で野太い声がした。




