生徒会と性欲とシークレットミッションと。
「こちら別館3階監視役の飯山。人の出入り及び気配は15分間ありません」
「こちら本館2階勉強してるふりして監視役の多田。生徒会室への人の動き及び勉強の成果15分間ありません」
「こちら生徒会室の扉ピッキング役の牛田。生徒会室周辺の人の気配及び応援の川島君の姿15分間ありません」
「こちらぁ生徒会ちゃんと外で活動してるか確認役の米田ぁ。生徒会メンバー全員PR撮影の準備に奔走中......生徒会長の柄杓さん今日も美人でいい匂いしますどうぞぉ」
「こちらシークレットミッション総指揮の須田。遅刻常習犯の川島は論外だからなにかあったら牛田はお色気作戦でいってくれ。最後に実行役の三島、準備できてるか」
ついに俺の番が回ってきた、真っ黒な全身タイツ及びリュックを身に纏った俺は生徒会室目の前の男子トイレの個室に待機している。
「こちら実行役の三島。無事にトイレと便所飯を済ませて準備万端。USBメモリとクリアファイルは忘れず携帯してます」
俺が言い終えると、総指揮の須田が落ち着いた声で全員に伝えた。
「これより生徒会室への侵入及び我が漫画部の機密文書の奪還シークレットミッションを開始する!」
「「「はい!」」」 「うぃ」
返事と共に個室を飛び出し男子トイレから出て生徒会室の方を見ると、すでに牛田が扉の鍵のピッキングを始めていた。
「牛田! 問題なく行けそうか?」
慣れた手つきでカチャカチャと音を立てている牛田に問いかけると、視線は鍵に向けたままニヤリと口角を上げてきた。
「このために何回うちの姉ちゃんの部屋の鍵壊してきたと思ってんのよ! あと一回やったらあたしのBL本燃やすってところまでやったんだから!まかせなさい!」
そんなことを言っているうちに鍵から大きな金属音が響いて、牛田がその手を止めた。
「どうした? まさか何か仕掛けが?」
「いや、ちがうわ」
牛田は生徒会室の扉に手をかけるとゆっくりと開き始めた。
「おお!やったか!」
「ふん、あたしにかかればあの生徒会のお粗末セキュリティなんて屁でも......え? ちょ待っブッ!」
扉が前回になった瞬間、部屋の中から猛スピードのこんにゃくが牛田の顔面に直撃した。
「う、牛田あああああああ!」
「う......臭......あとは......まかせた......わよ......うっ」
戦場に散った牛田の亡骸を尻目に、俺は警戒を強めてゆっくりと部屋の中へと侵入した。
「こちら三島。牛田が生徒会の卑劣な罠によってやられたが、無事に生徒会室への侵入は果たした。ここからの行動及び状況の報告を頼む」
仲間を失った悔しさに胸を痛めながらもなんとか冷静に連絡を取ろうとすると、すぐに応答が返ってきた。
「こちら須田。牛田のことは残念だが、シークレットミッションを続けよう。機密文書は生徒会室奥の3段ボックスのどこかに入っているそうだ。実物なのかデータなのかどのような形式で入っているのかわからないが目を凝らして探してくれ」
「了解! 現在の周辺状況はどうだ?」
「それについて残念な報告だが、おそらく多田と飯山がやられた」
「なんだって!? 飯山は外で監視してたから仕方ないとしても、多田がやられたってことはもう本館2階に生徒会が?」
冷や汗を流しながら須田に確認をとると、ため息交じりに詳細が伝えられた。
「いや、多田があそこに来て15分以上何も勉強が進んでなかったから先生が気を使って涼しい職員室に連れて行ったらしい」
「はぁ!? おい須田! だから勉強できないあいつをそこに配置するなって言ったんだ! こんなの自爆じゃないか!」
「配置を間違えたのは誤る。だが多田が連れていかれたのはついさっきだ、つまりまだ生徒会のやつらはまだそこまでは来てないはずだ!」
「......ッ! 了解。俺が実行役として最高の仕事をこなせばいいんだな! 任せとけ!」
勢いよく通信を切ると、俺は1.5倍速で機密文書を探し始めた。
「はぁ、はぁ、残り最後の1段......ここにあるはずだ!......なッ!?」
手早く3段ボックスの内の2段を探し終え、最後の1段を開けるとそこには女子生徒の制服が綺麗に畳んだ状態で収納されていた。
「こ、これはどういうことだ......ん? この匂いは!」
無意識に俺の口角は上がっていた。このドキドキするいい匂いは生徒会長・柄杓真純のもので間違いなかったからだ。
「PR動画は体育着で撮影する......つまりこれは生徒会長が朝来ていたもの......機密文書よりもすごいものじゃないのか? 」
思わず手を伸ばして掴もうとしたその時、背後からすさまじい殺気を感じた。
「まさか生徒会か? ばれたか......」
俺がゆっくりと後ろを向くとそこには、扉のところでこんにゃくを握りつぶしたまま倒れている牛田の姿しかなかった。
「なんだ......気のせいか......」
ここで我に返った俺は、目の前の制服を丁寧に別の場所に移動させてすぐに機密文書の入ったUSBメモリを発見した。
「よしこれで......こちら三島。機密文書を入手した。今から牛田を連れて部室にもど......」
「だめだ! お前ひとり戻るんだ! 牛田を連れていく時間はない!」
「その声は飯山か? なにがあった!? 須田はなぜ応答しないんだ!」
問いかけると、荒いながらもなんとか落ち着こうと深呼吸を試みる飯山の声が伝わってきた。
「須田はさっき、お前との通信が切れた直後にやられた」
「なに!? 須田がいたのは多田と同じ本館2階のはずだろ! さっきまだ来てないって」
「何かが起きたんだと思う......予想以上に生徒会のやつらがうまく......うっ!」
「飯山! どうした飯山!」
「......」
「やられたのか? くそ......くそッ!」
涙ながらに通信を切った俺は全速力で漫画部の部室へと戻っていった。
「はぁ、はぁ、何とか戻ってこれたぞ......」
息を切らしながら部室の扉を開けると予想もしない声が耳に届いた。
「よ、よぉお疲れ三島ぁ」
そこには生徒会ちゃんと外で活動してるか確認役の米田の姿があった。
「な......なんで米田がここにいるんだ? お前もやられたんじゃ...?」
衝撃を受けて固まっていると、俺の後ろから複数人の足音と一番恐れていた声が聞こえてきた。
「変態は馬鹿なのよ。隙だらけなの。その上言葉だけで操れるんだから本当に楽で助かるわ」
振り返るとそこには、一番恐れていた存在である生徒会長・柄杓真純とその他の生徒会のメンバーがいた。
「漫画部長副部長・三島陽。あなたももう分かったでしょう? この状況の意味が」
「ああ、米田......お前やったな! 仲間を売りやがって!」
俺が怒りの眼を向けると、米田は鼻の下を伸ばしたまま口を開いた。
「へ、へへ......柄杓さん、それじゃ約束通り......」
「ええみんなまとめて職員室送りよ」
「へ、へへ......やった......職員室送り......職員室送り?」
米田の顔が一気に青ざめていく。
「当り前じゃない。作戦を企てた時点であなたも同罪なんだから、ほら早く行きなさい。自発的にいけばまだ少し処分は軽くなるかもしれないわ」
ガックリと肩を落として職員室の方へと歩き始める米田の後をついていこうとすると、生徒会長がカンッと床を鳴らした。
「職員室に行く前に返すものがあるんじゃない? 早く出しなさい」
振り向いて、リュックから取り出したものを見せつけると瞬く間に生徒会長の顔が青ざめた。
「な、なんで......それ、もしかして......」
勝利を確信した俺は最高に悪い顔で答えた。
「ああ、機密文書の入ったメモリ......と、あんたの制服だよ」
「ッ! 変態! 返しなさいよ!」
全力で睨みつけてくるその目を捉えながら、俺は淡々と話し始める。
「変態が馬鹿とは限らない。衝動的な性欲をどれだけ自分のものとして支配できるか、支配できるものはこうやって相手の予想外の行動を選ぶことができる。さぁ、返せるのはどっちか片方だ。選ばせてやるよ」
生徒会長は悔しさを滲ませながら制服の方を指差す。
「おーけい。じゃあこっちは返すよ。メモリは俺たちの所有物ということで、俺たちの勝ちだ」
その日、この学校の歴史上初めて、生徒会が他の部活動に敗北した。
それも、最低の部活と呼ばれる漫画部に。
『性欲に勝るものなし』
俺の信条である。




