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第23話:触れるということ

強さには種類がある。

速さ、力、技術。

だがそれらはすべて“同じ土台の上”にある。

その土台が違うなら――

どれだけ積み上げても、届かない。

触れているつもりで、触れていない。

見えているつもりで、見えていない。

その差に気づいたとき、初めて戦いは変わる。

「……まだ奥にあるな」

ゼルは短く言った。

観測の存在が崩れた後も、この空間の違和感は消えていない。

むしろ、さらに濃くなっている。

アッシュは拳を軽く握る。

「さっきの、どうやった」

ゼルは振り返らない。

「そのままだ」

「は?」

「お前がやってることと変わらねぇ」

明らかに違った。

あの一撃は、明らかに“別の何か”だった。

「ふざけんな」

アッシュは舌打ちする。

「俺がやったら何も起きねぇだろ」

ゼルは少しだけ足を止める。

そして、ほんの少しだけ横目で見る。

「見てる場所が違う」

それだけ言って、また歩き出す。

「……意味わかんねぇな」

だが、その言葉が頭に残る。

リナが小声で言う。

「でも……さっきの、確かに違いましたよね」

「ああ」

アッシュは短く答える。

「触れてる場所が違う感じだ」

自分でも曖昧だ。

だが、何かが引っかかっている。

三人はさらに奥へ進む。

通路という形はもうない。

ただ“空間が続いている”。

そして、その中心に――

“それ”はあった。

巨大な構造。

いや、“集まり”だ。

壁でも柱でもない。

だが確実に“形”を持っている。

まるで何かを支えているような。

「……これ、やばくないですか……」

リナが息を呑む。

圧が違う。

立っているだけで体が重い。

「中心ってやつか」

アッシュは低く言う。

ゼルは無言で前に出る。

その瞬間――

空間が一斉に動いた。

「来るぞ」

ゼルの声と同時に、複数の“影”が現れる。

今までとは比べものにならない数。

そして質。

「多すぎだろ」

アッシュは笑う。

だが後退はしない。

一体目が来る。

拳。

当たる。

だが――

崩れない。

「……硬ぇな」

その瞬間、横から別の一体。

速い。

だが――

「遅ぇよ」

ゼルが一歩踏み出す。

手を振る。

それだけで、一体が“消える”。

「……やっぱおかしいだろそれ」

アッシュが呟く。

ゼルは答えない。

ただ動く。

一つ一つ、確実に消していく。

だが――

数が減らない。

むしろ増えている。

「キリねぇな」

アッシュは周囲を見る。

(こいつら、無限か?)

その時、ゼルが言う。

「本体を見ろ」

「本体?」

「これ全部“枝”だ」

アッシュは目を細める。

中心を見る。

巨大な構造。

そこから“何かが流れている”。

「……あれか」

「気づくの遅ぇ」

ゼルは一言。

その瞬間、空間が歪む。

中心が動いた。

『観測更新』

声。

さっきより重い。

明らかに“上”だ。

リナが震える。

「まだいるんですか……」

「いるだろうな」

アッシュは笑う。

「じゃなきゃつまんねぇ」

ゼルは一歩前へ。

「来るぞ」

次の瞬間――

“それ”が現れた。

今までのどれとも違う。

形が安定している。

だが同時に、形が揺れている。

見ているとズレる。

理解できない。

「……これが本体か」

アッシュは低く言う。

『観測対象:更新完了』

声が重なる。

一つじゃない。

複数。

「うるせぇな」

アッシュは踏み込む。

拳。

当たる。

だが――

すり抜ける。

「……チッ」

やっぱりだ。

同じだ。

触れていない。

その瞬間。

“それ”が動く。

遅い。

だが避けられない。

空間ごと押される。

「ぐっ!!」

アッシュが吹き飛ぶ。

「アッシュさん!」

リナが叫ぶ。

ゼルが前に出る。

「……なるほどな」

小さく呟く。

そして――

踏み込む。

さっきと同じ動き。

同じように腕を振る。

だが今度は――

止まる。

「……?」

アッシュが顔を上げる。

効いていない。

ゼルの一撃が、止められている。

「おいおい……」

初めて、ゼルの表情が少し変わる。

「強くなってんじゃねぇか」

“それ”が反応する。

『干渉適応』

アッシュは立ち上がる。

「マジかよ……」

今のは確実に通るはずだった。

それが止められた。

つまり――

「学習してる」

ゼルが言う。

「さっきのも含めてな」

アッシュは笑う。

「最高じゃねぇか」

状況は最悪。

だが、面白い。

「ならこっちも変えるだけだ」

アッシュは深く息を吸う。

そして――

目を閉じる。

「……一回、見るか」

ゼルの言葉を思い出す。

“見てる場所が違う”

なら――

見る場所を変える。

目を開く。

世界が、少しだけ違って見える。

空間の“流れ”。

ズレ。

重なり。

「……見えた」

小さく呟く。

アッシュは踏み込む。

今度は――

“そこ”を狙う。

拳を振る。

ズンッ!!

今までと違う感触。

確実に“触れた”。

『……誤差発生』

声が揺れる。

アッシュは笑う。

「これか」

ゼルが横で言う。

「やっとか」

「遅ぇよ」

だが、その瞬間――

“それ”が大きく動く。

空間が一気に崩れる。

「っ!!」

三人が同時に構える。

核心の奥。

まだ終わらない。

むしろ――

ここからが本番だ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回は観測領域のさらに奥にある“中心構造”と、その本体に近い存在との接触を描きました。

また、従来の戦闘では通用しなかった相手に対し、“見る場所を変える”ことで干渉できる可能性が示されています。

ゼルとの対比により、戦い方の違いと成長の方向性も明確になり、主人公にとって重要な転換点となる回となりました。

次回は、この本体との戦闘の深化、あるいはさらなる変化が起こる展開となる予定です。

引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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