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第21話:歪みを殴る

壊せないものは、存在の仕方が違う。

硬いから壊せないわけじゃない。

そこに“実体”がないから、触れ方がズレているだけだ。

だが、それでも人は殴る。

届かないと分かっていても、届かせようとする。

それが戦いというものだ。

「……くそ、感触がねぇ」

アッシュは拳を見ながら呟いた。

さっきの一撃。

確かに当てたはずなのに、“手応え”がない。

殴った瞬間だけ、世界が薄くなる感覚。

「アッシュさん、これ本当に戦えてるんですか……?」

リナの声が不安を帯びる。

「戦えてるかどうかは関係ねぇ」

短く返す。

「壊れるかどうかだ」

目の前の存在は、まだそこにある。

『誤差継続』

またあの声。

淡々としている。

まるで“結果だけ見ている”ような反応。

アッシュは一歩踏み出す。

「なら、誤差ごと壊す」

その瞬間――

そいつが動いた。

空間が一瞬消える。

「っ!」

反射で横に跳ぶ。

だが遅い。

腕がかすれる。

「ぐっ……!」

今度ははっきり痛い。

(さっきより強くなってる?)

いや違う。

“適応している”。

戦闘の中で学習している。

(ふざけてんな……)

アッシュは息を吐く。

だが焦りはない。

むしろ少し笑っている。

「いいじゃねぇか」

リナが叫ぶ。

「アッシュさん!無理ですってこれ!」

「無理かどうか決めんのは俺だ」

その言葉と同時に踏み込む。

今度は真正面。

避けるのは分かってる。

だから――読ませる。

あえて単純に。

拳。

そいつは反応する。

回避。

その瞬間。

「そこだ」

アッシュは“もう一歩”踏み込む。

今までより深く。

拳を“当てに行く”んじゃない。

“重ねに行く”。

ズンッ!!

今までと違う感触。

「……っ!」

そいつの動きが初めて“乱れた”。

『誤差拡大』

声が少しだけ揺れる。

「今だ……!」

アッシュはさらに踏み込む。

廃棄吸収。

周囲の“壊れた構造”が一気に流れ込む。

それを無理やり拳に圧縮。

『再構築』

今度は武器じゃない。

“圧そのもの”。

「ぶっ壊れろ」

拳を叩き込む。

今度は――

“手応えがあった”。

ズガンッ!!

空間がひび割れるように揺れる。

そいつの体が初めて後退する。

『……異常干渉』

「やっと反応したか」

アッシュは息を吐く。

リナが目を見開く。

「効いてる……!」

だがその瞬間――

空間全体が“沈む”。

「……っ」

空気が重い。

いや、空気じゃない。

“世界そのものの圧”。

そいつがゆっくり手を上げる。

『修正開始』

その言葉と同時に――

今までのひびが“戻っていく”。

「……は?」

アッシュの目が細くなる。

(戻ってる?)

壊したはずの部分が修復されている。

いや違う。

“なかったことにされている”。

「冗談だろ……」

リナが震える。

「これ、勝てないやつじゃ……」

「まだだ」

アッシュは前を見る。

「壊れてねぇなら、もう一回殴るだけだ」

その瞬間だった。

背後の扉が――完全に閉じる。

ゴウン……

「っ!」

退路が消えた。

リナが息を呑む。

「閉じられた……」

「想定通りだ」

アッシュは冷静だ。

むしろここからが本番だと思っている。

そいつが一歩近づく。

『観測完了段階へ移行』

「観測?まだやってんのかよ」

アッシュは笑う。

「じゃあ教えてやるよ」

一歩踏み出す。

「観測ってのはな」

拳を握る。

「ぶっ壊すためにあるんだよ」

次の瞬間――

空間が一気に歪む。

そいつが動く。

アッシュも動く。

二つの存在がぶつかる瞬間。

世界が“軋んだ”。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回は観測領域内での本格的な衝突を描きました。

これまでの“異形との戦闘”とは異なり、相手は物理的な存在ではなく、空間そのものに干渉する性質を持っています。

そのため通常の攻撃では完全な破壊が成立せず、主人公も“干渉の重ね合わせ”という形で対抗する形となりました。

また、破壊したはずのものが修復される描写により、この空間の異常性とルールの違いがより明確になっています。

次回は、この“修正する存在”との決着、あるいは別の介入による展開の変化が予想されます。

物語は引き続き核心へと進行していきます。

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