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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
徳川家宣政権…翔馬、伸び伸びとやりたい放題する

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小田原 新兵入隊

江戸に戻ると、息つく暇もなく仕事が山のように積まれていたが、合間を縫ってある“重要任務”を進めた。

 …音の収録だ。


人気の歌い手、三味線の名手、鼓の伝説級の師匠まで、ありとあらゆる演者を呼び寄せた。

もちろん彼らには高額の謝礼を払い、“響き箱”で流す許可も正式に取りつけた。


「ひびき……ばこ?」

「まあ、遠くの村でも君の歌が聞こえる道具だよ」

いくら説明しても、さすがに理解は追いつかないようだ。


だが包んだ報酬を見る瞬間、目尻が下がり切っていた。

時代がどうであれ、人間は分かりやすい。


こうして江戸での用事を片付ける頃には、数十枚の録音円盤が完成していた。

音楽の時代を百年早く進めるような作業に、胸が躍って仕方ない。



ーーー



秋風が吹き始める頃、ちょうど新兵の入隊式の日がやってきた。

俺は小田原に新しくできた訓練所へ向かうため、走り出したばかりの鉄道に乗りこんだ。

線路の先、山に囲まれた盆地…


陽を遮るように黒い灰が地面を覆い、かつて人が住んでいた痕跡はほぼ消えている。

富士の噴火に呑まれた地域だ。

(座標  35.36541889148476, 139.1583227177757)


そこに、軍の新施設が造成されつつあった。

灰を取り除いた土地の上に、真新しい木組みの営舎が立ち並ぶ。

まるで“死んだ大地に根ざす秘密の軍隊”だ。


今回の入隊は…

歩兵1000名、後方支援500名。

色丹での初回の入隊とほぼ同規模となる。

これ以上になると、兵の管理が難しいのに加え、官舎が不足する。他の方法を模索しないといけなくなる。


将軍には、ルーシとの衝突をかなり誇張して報告した。

負けて国がひっくり返る前に、早めの増援で力を固めよとの指示。

まさに願ったりかなったりだ。

俺が密かに海外で進めている国家事業を隠すためにも、「編入した国土を守るため」という詭弁は使える。

多少強引でも、国を守る名目さえあれば文句は出ない。その考え方は、俺の世界のルーシから学んだ。


色丹の時と同じように、入隊した者たちを“自衛隊方式”の訓練に馴染ませていった。

だが、その中にひとりだけ異様な存在がいた。

背丈は俺と同じくらい。いや、俺より大きいか。歳は俺より少し若いくらいか?

だが肩幅は倍あるのではと思うほど広く、目は鋭く、体つきは岩そのもの。

腕も脚も太さが違う。

すべての種目で圧倒的な記録を叩き出していた。


俺は彼を呼んだ。

「お主の名前は……無い? 本当に名前がないのか。どこから来た?」

「島……洞窟に住む…鬼は……いや……だ……」

言葉が不自由らしい。

だが理解はしているようだった。

ならば十分使える。


役人がそっと耳打ちしてきた。

「長官、あのデカい奴は瀬戸内海の小島におりましてな。

 どうやら親に捨てられたらしく、洞窟で一人、自活していたようで……。

 現地では“鬼”と呼ばれておりました。」


「なるほど……桃太郎の鬼退治の舞台ってわけか。

 言葉さえ覚えれば、立派な戦力になるな。」


結局、俺は彼を「無名むみょう」と名づけた。

名前を持たない男に、せめて呼び名だけでも与えたかった。

この大量の新兵と共に、開拓事業をさらに進める。


モシリの基盤整備もそうだが、今やカムチャッカ半島南部の開拓も着手しようとしている。

領有の既成事実を作るために、アバチャの開拓に早めに着手した方がよさそうだ。


街を造り、港を整え、電波塔と発電所を建てる。

いずれは農地も必要になる。

西に広がるなだらかな台地では、前世では野菜や穀物、じゃがいもなどが栽培されていた。ある程度の人口をまかなうだけの農業の下地がある。

どのみち、今の人口では人手が足りないからルーシの捕虜を活用しつつ、徐々に人を増やさないといけない。


そこで、歩兵達には訓練を兼ねた開拓作業を課すことにした。

汗を流しながら技術を覚え、同時に身体も鍛える…実に効率がいい。


無名むみょうは、といえば、

斧を振れば木が倒れ、

鎚を振れば丸太が割れ、

担げと言えば三人分の荷を平然と運んだ。

言葉には難があるが、彼の行動には知性も伴っている。

まるで神話の世界から抜け出してきたような大男で、皆が一目置いていた。


…この男は、いずれ“大仕事”を任せることになるかもしれない。

北の未来は、まだ始まったばかりだ。

だが、確実に動き出している。

俺の胸の中で、嗅ぎ覚えのある“開拓の熱”が再び燃え上がっていた。

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