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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
徳川家宣政権…翔馬、伸び伸びとやりたい放題する

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89/110

1711年 正月 江戸屋敷にて

半年以上、家を空けていた。


久々に帰ると、金之助のせがれ・真は、俺の顔を忘れてしまったらしい。

門をくぐると、白い息を弾ませて皆が出迎えてくれた。


その後ろで、少し照れくさそうに身を引いているのは、ピリカレラだった。

9カ月ぶりに見る彼女は化粧をし、ひとつ大人びた空気を纏っていた。


「よぉ、ピリカレラ。しばらく見ぬうちに、きれいになったな。」

アイヌ語でそう告げると、彼女は顔を真っ赤にして、勢いよく家の中へ駆け込んでしまった。


「ん?何を言ったんだい? ピリカレラちゃんをいじめると、兄いでも承知しないぞ?」

金之助が呆れ顔で言う。

「いやいや、褒めただけさ。恥ずかしくなったんだろう。」


鈴さんが、金之助の脇腹に肘を入れる。

「ほんとに、あんたは鈍感だねぇ。」


笑い声が、囲炉裏の炎と一緒に弾けた。久しぶりの、暖かい帰り着きだった。

正月の膳を囲みながら、場はすぐにモシリの話題で持ちきりになった。

俺が話す現地の様子に、皆が目を輝かせる。


「羊を飼ってるんだがな、熊によく襲われるんで、綱吉公が大事にしていた犬っころを護衛につかせたんだ。ところがそいつらが鶏舎を荒らして大騒ぎになってな。」

笑い話に、場が和む。


ピリカレラだけは無言だったが、その瞳は真剣そのものだった。

「シラウオイは……どうなってる?」

思いがけない問いに、一瞬言葉を詰まらせた。

彼女は村から追い出された身だ。それでも、まだ故郷を気にかけているのだ。


「シラウオイは苫小牧の隣だからな。室蘭まで鉄道ができて、その中間の町としてすごい発展ぶりだぞ。」

バッグから、スケッチ用紙を取り出した。

現地で描いた鉛筆画…室蘭の入江の港に建設中の製鉄工場と製紙工場、白老の木材置き場、中央議会の建物、そして広い通りを走る自動車と脇に並ぶ街灯。


「これが……苫小牧?」

「そう。まだまだ仮設の段階だけどな。あと3年もすれば立派な町が出来上がっているだろう。その時の町の機能としては、もう江戸を超えてるかもしれん。」


一番年長の藤川勘兵衛が、スケッチを覗き込みながら眉を寄せた。

「この広い道の脇に立っとるお玉みたいなもんは……なんじゃ?」

「ガス灯です。江戸じゃ規制が厳しくて国道沿いしか設置できなかったけど、モシリでは自由に街を作れたからな。地下に“燃える空気の道”を通して、街の隅々まで火を運んでるんですよ。夜になれば明かりが灯り、足元を照らすのです。」


「燃える空気……? ほう、まるで魔法じゃな。」

「それだけじゃありません。この住居、四階建てですけど、水道もガスも、そして電気も通ってます。」


「で、でんき……?」

勘兵衛が口をあんぐりと開け、鈴さんは笑いをこらえている。


一方で、ピリカレラの表情は違った。

驚きと、そして誇らしさが入り混じったような顔で、俺を見ていた。

「翔馬さんの知識で……江戸よりもすごい街を作っているんですね。これは……いつか見てみたいなぁ」

聞けば、春から未来館の大学に通い、農業を中心に、幅広く学んでいるらしい。

「いずれ、モシリを背負う人になりたい。あなたのように。だから、勉強する。」

まっすぐな眼差しに、一瞬、心が揺さぶられた。彼女を側近に引き上げる発想が浮かんだが、すぐに言葉を飲み込んだ。

彼女の成長を、もう少し遠くから見守りたいと思ったのだ。


「ピリカレラ。農業の勉強が好きなら、これをやるよ。久留里とモシリでの栽培記録をまとめた報告書だ。図解付きで200枚以上ある。暇なときにでも読んでくれ。」

差し出すと、彼女はまるで宝物でも受け取るように抱きかかえ、そのまま自室に駆け込んでいった。

「研究者気質だな、ありゃ。」

思わず笑みがこぼれる。


その夜、囲炉裏の火が静かに揺れる中、翔馬は心の底から思った。

平和とは、こういう時間のことを言うのかもしれない。


1711年の正月。

久しぶりに味わう、穏やかな夜だった。

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