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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
徳川家宣政権…翔馬、伸び伸びとやりたい放題する

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1710年6月 閑話:オルタㇻペ村

翔馬が再びモシリの地に戻ったのは、初の「モシリ議会」を控えた一週間前のことだった。

議会に出席する各地の議員が続々と到着している最中、翔馬は執務室で一通の名簿を手に取っていた。

「大熊さま、こちらが出席予定の議員名簿です。近隣の方々はすでに宿舎に入られておりますが、遠方の者たちはまだ道中との報せです。あと一週間……間に合えばよいのですが。」

声をかけたのは、翔馬の側近 、吉沢文之進よしざわ・ぶんのしん


江戸から派遣された文官でありながら、他の役人たちにありがちな権威臭さがまるでない。

むしろ、翔馬の理想主義を面白がり、時に助言もしてくれる柔軟な男である。

翔馬もまた、将来この男を要職に据える候補として高く買っていた。


名簿をざっと眺めると、その中に見覚えのある名前を見つけた。

…石狩支庁オルタㇻペ村のカムイチェプ。

以前、江戸で開かれた蝦夷物産展で出会った、髭面で愛想のいいアイヌの男だ。

遊びに行くと話してからそのままだ。

(…石狩の代表だったのか…)


名簿には、まだ未到着の印が付いている。近隣の村のはずだが、のんびり構えているのだろうか。

翔馬は地図を指でなぞりながら、ふっと立ち上がった。

(会いに行くといいつつ機会を逃していたな… 今なら行けるか)


「吉沢、悪い。少し出かけてくる。オルタㇻペ村に行ってくる。」

「えっ、今からですか? あそこはまだ道が整っておりませんぞ。」

「だから行くんだよ。現地を見ないと、開発の構想も立たない。」

吉沢が呆れ顔を見せる中、翔馬はすでに馬の手配を命じていた。


夕張川の山地の入り口にあるという村まで、馬の脚なら2,3時間の距離。

車なら1時間ちょっとだが、まだ道が整備されていないため、仕方なしに馬に乗る。

空は晴れ、北の風が草原を渡っていく。苫小牧の町並みを背に、翔馬は馬の腹を軽く蹴った。


道らしい道はなく、川に沿って細い獣道をたどる。

進むたびに車輪のない世界の不便さを痛感する。

「道路網の整備は急務だな……」

そう呟きながらも、頬にあたる風が心地よく、草原が広がる広大な光景に自然と笑みがこぼれた。

やがて視界の先に、丸太を組んだ塀が見えてきた。

それがオルタㇻペ村だった。熊除けの柵の向こうには、十数軒の木造の家々と、煙を上げる焚き火の列。


入口に立っていた若いアイヌの男が、警戒心をあらわにして声をかけてくる。

「……ダレ キタ?」

「俺は和人の翔馬という。アイヌ名はキムンホロケ(熊の大男)だ。この村のカムイチェプ殿に会いに来た。江戸で会っただろう、背の高いアイヌ語を話す和人と言えば通じるはずだ。」

若者は一瞬首をかしげ、それから走って奥へ消えた。


ものの一分もしないうちに、聞き覚えのある大声が響いた。

「おお、ショーマ! 本当に来たのか! 江戸の大きいお方が、まさかこんな山まで来るとは!」

振り向けば、以前と変わらぬ快活な笑み。


カムイチェプは両腕で翔馬を包み込むように抱きしめ、肩を叩いた。

それから彼の家でいろいろ語ったが、まさか俺が松前を倒した張本人で、モシリを統治することになった男とは…その驚きの顔は想像以上だった。


「まさか、お前がモシリを治めることになるとはのう……。松前が倒れたと聞いた時は、みな目を丸くしておったぞ。内心、統治が幕府に変わるのは不安だったんじゃ。だから直接意見が言えるといわれる…議員?に立ち上がったんじゃ。しかし、お主なら大丈夫そうだな。」


翔馬は苦笑しながら答えた。

「まあ、いろいろあってな。任せてくれと言いたいところだが、協力も頼むぜ。今はこうして、共に新しい国を作る仲間だ。議員として共に歩むのだ。俺一人じゃたいした仕事はできないからな」


その晩、翔馬は村に泊まることになった。

焚き火の煙が夜空に上り、香ばしい鮭の匂いが漂う。


持参したダウンのインナーと缶詰を渡すと、カムイチェプは少年のように目を輝かせた。

「こんなに軽いのに温かいとは……和人の知恵は凄いのう!」


さらに翔馬は、もう一つの土産を差し出した。

袋に入った、いくつかのじゃがいもだった。

「これは……食べ物か?」

「食うものでもあるが、今食うために持ってきたわけじゃない。植えるものだ。」

翔馬はナイフで切りながら説明した。

「コイツを土に植えれば、どんどん増える。来年また植えれば、さらに増える。飢えをしのぐ助けにもなるし、売れば金にもなる。」


「そんな魔法のような植物があるとは……。わしらは狩りと漁で生きてきた。土を耕すことなど、考えたこともない。」

翔馬は笑って、持参したくわを手渡した。

「これで土を掘ってごらん。最初は腰が痛くなるが、慣れればすぐできる。少しずつでいい、生活を無理に変えることはない。だが、こうすれば食うに困らない時代が来る。冬に飢える心配も減る。明日、出る前に畑を作ろう。俺が育て方を教えるよ」


農業に興味津々なカムイチェプと、集められた村人に対しての即席農業講座が開かれた。

「農業か…わしらも変化を受け入れる時が来たのかもしれんな…」


焚き火の明かりに照らされながら、二人の影が地面に長く伸びた。

星の瞬く夜、鮭を肴に語り合い、笑い合う。

翔馬はこの静かな時間の中に、江戸の喧騒とは違う「新しい国の形」を感じていた。


翌朝、近くの草原を耕し、ちょっとした試験畑を皆で作った。

そして出発。カムイチェプと共に苫小牧を目指した。


翔馬は馬には乗らず、その席はカムイチェプに譲る。翔馬は自らの脚で伴走する。

「おいショーマ! 本当に走るのか? 馬と並走する人など見たことがないぞ!」

翔馬は笑いながら答えた。

「運動不足なんだよ。ちょっと身体を慣らしておきたくてな!」

草原を駆ける男の姿に、村人たちは目を丸くしたという。


後に議会で、議員たちの間ではこう語り草になった。

「キムンホロケは馬のように走る。鉄のように強い。」

北の大地に、新しい風が吹き始めていた。

本業の方が、年末年始のバタバタで更新が遅れがちになり申し訳ありませんでした。

ちょくちょく更新してまいります。

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