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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
江戸、成り上がりの章

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絶体絶命

外で笛を吹いて駆けてくる多数の気配は気づいていた。町奉行だ。即座に手持ちの銃とナイフを段取り通りに隠した。


薄壁の隙間に悟られぬようそっと武器をくぐらせ、隣の部屋の金之助は震える手で、壁の隙間から受け取った。

「もしもの時は、これを隠しておいてくれ」

そう念を押していたのだ。


床には呻き声を漏らす男たちが転がっている。ひとりから吐き出された言葉は…

「……権藤一家に頼まれただけだ。詳しいことは、俺も……」


その直後、外から役人の足音が響いた。町奉行所の捕方が雪崩れ込み、翔馬は抵抗する間もなく縄を掛けられた。


「待ってくれ、俺は正当防衛だ!」

必死に訴えるも、捕方の冷たい目は微動だにしない。


「下手人を捕らえたぞ!」

外では人々が口々に騒ぎ立てていた。


「何事だ!」「鈴ちゃんの悲鳴が聞こえたぞ!」


「翔馬兄ぃ、何があったんだ!」


金之助の叫びが、ざわめきの中でひときわ響いた。

翔馬は振り返り、深く頭を垂れて「……すまない」と小さく呟いた。


ーーー



奉行所の牢内。


たいした事情聴取もなく、最初から結論ありきに感じる。

どうやって6人もの武人を一瞬で倒したのか聞かれたが、当然銃のことは伏せた。

この時代に、連続で撃てる銃なんて存在しないから、そもそも銃で撃ったという可能性すら考慮されていないようだ。

あいつらが雑魚だからと鼻で笑ってやった。どうせ結論が変わるわけでもないから。

好き放題殴られもしたが、全くダメージは食らっていない。


この世界では、平民の傷害事件に関してはかなり厳しい判決がでるのは知っている。

それが武士階級相手なら死罪が妥当。正当防衛も武士の証言が優先される時点で平民の裁判は詰んでいる。


翔馬は荒縄で縛られ、町奉行の前に引き据えられる。

「人を傷つけておきながら、罪を被害者になすりつけんとの言い訳、まさに笑止千万。平民の分際で何を申すか」


町奉行の冷ややかな声が響く。

翔馬の言葉は取り合われることもなく、すでに判決は下されたも同然だった。


「死罪を申し渡す!」


その言葉が響いた瞬間、傍らに控えていた権藤一家の面々がにやりと笑う。背後には、さらに黒い影があることを翔馬は直感していた。


いざとなれば、縄を解いて大暴れすることも考えていたが、まずは時を稼ごう。


大袈裟にバタバタしたり、罪を糾弾したり、頭がおかしいふりをして時間を稼ぐ。


次の一手のために。


俺は、越後屋との密談の件を考えていた。


榊原と破談になる前から、 江戸の金融・小売りを握る越後屋に、新型機織り機の設計図を売るためにアプローチをかけていたのだ。


設計図の半分を安値で売り渡して、残りの半分と革新的な部分は、後日に無料で渡すと約束していた。


これから幕府との交渉になるので、下手を打ったら捕まるかもしれないと事前に伝えた上で。


だから、俺の無事を担保できるよう、越後屋にも上層へのコネを使って俺を守ってくれと働きかた。


そして、勘定奉行に蹴られたその日に、いよいよ問題がおきるかもと警告を伝えていた。


機織り機は、性能だけで見れば、俺の紹介した新型と従来の品とでは性能に雲泥の差があり、最初は半信半疑だった当主の三井氏に、米の脱穀用の水車の模型を見せたら本気で話を聞いてくれるようになった。ゆくゆくは、外部動力を利用した自動機織り機が作れるという言葉に一気に目を輝かせていた。

俺が要求したのはたったの1両(12万円ほど)。これで保険になるなら安いものだ。

自分の身に降りかかる陰謀を察して、越後屋にも解決策の相談をした上で、できるだけの策は巡らせていたというわけだ。


よって翔馬の死は、越後屋にとっても致命となる。


「お待ちくだされ!」


奉行所の大門が激しく叩かれる音がした。

駆け込んできたのは、越後屋当主その人である。

金之助に、俺に何かあれば、すぐに越後屋に伝えてくれと言伝していたのだ。

「間に合ったか…」


「私は越後屋の当主、三井高平でございます。この件、今しばらくお待ちを!」

だが町奉行は鼻で笑った。


「越後屋風情が口を挟む場ではない。不届き者め!」

その言葉が終わるや否や、背後の正門から乗馬した大群が押し寄せる。


護衛の高級武士を従え、老中秋元喬知あきもと たかとも が悠然としたたたずまいで姿を現した。

老中とは国家中枢の将軍に次ぐ肩書。実質公権力のトップに立つ人だ。

組織としては、各奉行所は老中の傘下になる。


「ワシは老中 秋元喬知たかとも……越後屋の言、もっともだ。この件、我らに任せてもらえぬか」

奉行所内に緊張が走る。町奉行は即座に畏まって平伏した。


越後屋は、お得意様であり商業界の面倒を見てくれている秋元氏と懇意にしていた。面白い男がいるという話と勘定奉行の策謀の話をしていたのだ。

特に発明の話には興味をもち、一度会ってみたいと秋元氏から言葉をもらったくらいだ。


「も、もちろんにございます、秋元様」


「ならば即刻、その男の身柄を我に渡せ。どうにも策謀の臭いがする。」


町奉行「策謀など…あるわけございません!」


秋元「公務に就く者の収賄の顛末はどうなるか分かっておろうな?」


周囲の町奉行は、息を飲みただ茫然としていた。


縄を解かれた翔馬も、しばし呆然とした。


権藤一家の面々が歯噛みし、背後の影を匂わせる気配が渦巻く。


苦い顔をしている権藤一家を尻目に、翔馬は安堵の表情とともに一瞥をくれてから門をくぐるのであった。



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