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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
徳川家宣政権…翔馬、伸び伸びとやりたい放題する

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シュムシュ(占守島)の霧

海は鉛のように重く、霧が一寸先も覆い隠していた。

羅針盤の針だけが、頼りだった。


翔馬は船首に立ち、海図を見つめる。波間に点在する無数の岩礁を避けながら、昼間だけの運航で慎重に北へ進む。


夜の闇と霧が重なれば、岩肌は獣のように牙を剥く。ここでは、一瞬の油断が沈没に繋がる。

三日かけての航海。


二日目の夜はパラムシル島(現・幌筵島)の入り江に停泊し、朝霧が晴れるのを待つ。海峡を隔てた向こうには、目指すシュムシュ島の稜線が見え隠れしていた。


地理的には千島の端は、国後から江戸までより少し遠く、千島列島の奥行の深さを身をもって感じる。海流は複雑で、潮目が刻々と変わる。まさに“この世の果て”と呼ぶにふさわしい場所だ。


翔馬の脳裏に、スマホで見た一文が浮かぶ。

…19世紀初頭、疫病の流行で千島アイヌの人口は二百を下回った。

その原因は、ルーシ人が持ち込んだ天然痘や麻疹だった。


翔馬は、出航前からその再現を恐れ、細心の衛生管理を徹底していた。発熱者や咳をする者は全て下船。現地での身体的接触も禁じ、食器類は熱湯で消毒させている。


三日目の昼前、霧が薄らいでいく。

パラムシルとシュムシュのあいだの狭い海峡…後に「第二次大戦最後の戦場」となる場所を抜けると、両島の海岸にそれぞれ大きな集落が見えた。翔馬は驚いた。

思ったより人が多い。二百人は下らない。

対岸のパラムシル島にも大きな集落が見える。

(シュムシュ村座標 50.71664621969566, 156.19340417615595)

(パラムシル村座標 50.67882289731908, 156.1275361328423)


村はここだけじゃないことを考慮すると、それはつまり、後年の大流行病でほとんどが失われたということを意味していた。


「アシリノさん、あれが……」

「うん、間違いない。あれがわたしの島、シュムシュだよ。」

アリシノは、目頭を押さえて風景を瞳に刻むように見入っている。


船は砂浜へと突っ込み、前部ハッチを開く。

アシリノは足腰が弱く、翔馬が抱き上げて海岸の丘を登った。

丘の上では、槍を構えた若者たちが威嚇していたが、アシリノが声を上げる。

「私は前の村長、トカナイの娘アシリノだ!今は誰が長をやっておる?

五十年ぶりの里帰りじゃ。迎えてはくれぬか?」


守衛の若者は村に戻り、決断を待つまでの静寂。


次の瞬間、村がどよめいた。

驚きと歓喜の声が入り混じり、人々が駆け寄る。

今の村長は、かつての幼馴染モナシの息子ウレシパ…中年の髭男だ。

幼馴染モナシは涙ながらにアシリノを抱きしめた。

「アシリノ姉……生きていたのか……!こんな日が来るとは!」


アリシノの兄弟たちはすでに亡くなっていたが、その子や孫が次々と挨拶に訪れた。

妹は対岸のパラムシルに嫁いでおり、今も健在だという。


アシリノは甥におぶわれながら、思い出の場所を一歩ずつ歩き、潮風に髪を揺らした。


翔馬は、村長ウレシパと場所を変え、村長の家で彼に向き合った。

「今、蝦夷地は新たに『アイヌモシリ』として再編されています。幕府主導で、新しい体制の下で、アイヌの文化を尊重しながら豊かに生きる仕組みを整えている最中です。」


村長は険しい表情を浮かべる。

「松前とは間接的に関わっていたが、悪い噂しか聞かなかったぞ。どの時代でも、最初は口ではいいことしか言わない。おぬしらが違うという証は、どこにある?」


翔馬は静かに答えた。

「我々は奪わない。与える側です。だが……時間がない。あと1年で、ルーシ人がここまで来る。」


「ルーシ人?なぜ、そんなことがわかる?」

翔馬は一呼吸置き、遠くの霧を見た。


「北のカムチャッカは、すでに彼らの支配下です。

もうすぐ、この南端に到達します。

彼らは“税”と称して毛皮を奪い、逆らえば銃を向ける。

もし備えなければ、あなたたちの村は来年、何も残らない。」

村長は黙っていたが、その手は震えていた。


翔馬は、船から荷を運ばせた。

薄手の羽毛服…久留里で採取したガチョウの羽毛を使った試作品だ。

表面はシルクの布地で覆われ、すべすべで心地よい。

肌着の上に着るだけで、北風も通さず軽くて暖かい。某人気アパレルの商品を参考にさせてもらった。実際俺も前世で愛用していた品だ。


さらに缶詰と酒を添えて渡すと、村人たちは驚きと感嘆の声を上げた。

「これを、定期的に届けたい。その代わり、あなたたちの魚と毛皮を交換してくれ。」

「……悪くない話だ。」

村長はうなずき、笑った。

「この海で商いをする者は多いが、こうして礼を尽くす者は初めてだ。」

別れの時、翔馬は手紙を豪華な封筒に入れて託した…北方連絡の第一号文書だった。


霧の中、再び船は離岸し、夕暮れまでパラムシルの村で姉妹の再開を果たした。

パラムシルもシュムシュ同様、交渉には肯定的な印象を受けた。

今回はご挨拶であったが、夏にもまた必ず来る。ここを仲間に引き入れられるかどうかで、今後の日本の立ち位置が変わってくる。


アシリノは船尾に立ち、島影を見つめていた。

「翔馬殿……あの島が、わたしの故郷だ。この目で見られて、もう思い残すことはない。ありがとう。ありがとう。」

翔馬は黙ってうなずいた。

「そう言わずに長生きしてよ。おばあちゃん。新しい時代を一緒に見ようじゃないか。」


風は冷たいが、不思議と心は温かかった。

この航海が、北方の未来を決める…彼にはそう確信できた。

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