表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
徳川家宣政権…翔馬、伸び伸びとやりたい放題する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/82

1710年 新年 江戸にて暖かい食卓

二か月を超える北の旅を終え、翔馬の乗る自動車が江戸の屋敷に帰り着いたのは、冬の風が頬に痛いほど冷たくなった頃だった。新年も過ぎ、1710年も2月に入ろうかという時だ。


門前では、屋敷の面々が勢ぞろいして出迎えていた。

「天礎さま、お疲れ様でございました!」

先頭に立つ藤川が深く頭を下げる。


「……あぁ、今回は本当に疲れた。骨の折れる仕事だったよ。」

翔馬は苦笑を浮かべ、雪の混じる風を背に屋敷を見上げた。長い遠征の果てに、ようやく辿り着いた我が家。その光景に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


そのとき、少し離れたところで、和装にアイヌの首飾りや耳飾りを合わせた少女が、はにかむように立っていた。


ピリカレラ。以前よりもお洒落に、表情にも凛とした自信が宿っている。

「おお、ピリカレラ。江戸はどうだ? 元気にしていたか?」

「ええ。みんないい人で……学校にも行って、千花ちゃんと街に出たりして。毎日が楽しいです。」

翔馬の問いに、ピリカレラは少し照れくさそうに笑う。


「そうか、それは良かった。じゃあな、今日はこいつでご馳走といこうじゃないか。」

翔馬は車の後部座席を開けると、氷漬けにされた木箱を次々と降ろした。中にはモシリの海の幸がぎっしりと詰まっていた。鮭、帆立、タラ、鹿肉のフィレまである。


「うおお……! これは見事だ! こんな魚、江戸では見たことがない!」

「この貝、なんて大きさだ……! 調理法がわかりませぬ!」

「モシリの魚!嬉しいです!」


「任せろ。こう見えて俺は料理は上手いぞ。外は寒いから、中に入って準備だ!」

囲炉裏の炭が赤々と燃える中、翔馬が慣れた手つきで鮭を串に刺し、帆立の殻を火にかける。


香ばしい匂いが漂い始めると、屋敷中の空気が一気に和らいだ。鹿肉は塩を振り網焼き。そして上に和風醤油ソースをかける。ちょうど厨房にあった大根をおろして乗せる。鹿肉の和風ステーキだ。タラはたっぷりの野菜とともに鍋へ。

「う、うまいっ……! うますぎる!こんな美味いもん食ったことがねえ!」

金之助が感激の声をあげ、箸を止められずにいる。笑い声が絶えず、屋敷中が幸福な湯気に包まれた。


食後の多幸感に浸る中、ピリカレラがぽつりと口を開いた。

「一般講座で、農業の授業を受けました。知らないことばかりで……学ぶって、こんなに楽しいものなんですね。他の人達は鶏の話でもちきりでした。」


翔馬が微笑む。

「おお、そうか。久留里で鶏を飼っているんだ。今度見に行ってみるか?俺も視察しないといけないし。」

「いいんですか? ぜひ行きたいです!」

「じゃあ、明日行こう。」

「えっ、あ、明日? 急ですね……まぁ、いいですけど。」

「朝に将軍へ報告に行かなきゃだから、そのあとに出よう。」

「はい。……楽しみにしてます。」


焔の光が彼女の横顔を照らし、髪の間から覗くアイヌの飾りがほのかに揺れた。

翔馬はその姿に、初めて会ったときの怯えた少女の面影を思い出す。今、彼女の瞳には、希望が宿っている。

…あぁ、よかった。江戸が、彼女に笑顔を取り戻してくれた。

翔馬は心の中で静かにそう呟き、杯を掲げた。

その向かいで、ピリカレラは翔馬の横顔を見つめながら、内心で歓喜の声をあげていた。

翔馬さまと二人きり。この人のそばで、もっと多くのことを知りたい。

それはまだ名もなき感情だったが、確かに彼女の中に新しい感情が息づき始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ