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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
徳川家宣政権…翔馬、伸び伸びとやりたい放題する

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72/82

凍土の誓い

松前藩が廃藩されたという報は、風のように北の地を駆け抜けた。


その日から、松前の町は一変した。城下には幕府の役人が千人単位で入り込み、道々を行き交う。帳簿、取引記録、名簿、倉庫の米俵…すべてが洗い出された。


翔馬は、報告書に目を通しながら淡々と命を下す。

「加担していた者は、一人たりとも見逃すな。」

罪状を問われた者は千人に及んだ。

実に、松前藩の人口の1/10にあたる。


農民、商人、船乗り、代官…その誰もが、長年続いた搾取の仕組みの中で、当然の如くアイヌを軽んじ、自覚せぬまま罪を背負っていた。


捕らえられた者たちは鋼鉄の足輪を嵌められ、船に押し込まれていく。

冬の海風が頬を刺す中、翔馬はただ黙って見つめた。

「これもまた、清算の一部だ。」

己に言い聞かせるように呟く。


ひと段落つくと、翔馬は事前に作っておいた計画書を開いた。

それは、モシリの新体制を示す青図であった。


各地に散る幕府役人を“メッセンジャー”として派遣する。

目的は、モシリの全村に幕府の方針を伝えること、そして新設する「モシリ運営議会」への参加を打診すること。


議会は苫小牧に建設されるモシリ中央政府を中心にして、各地の中核地で地方議会を開き、ローカル案件を協議する。その否決を中央議会に持ち込む形で構成される。


アイヌ代表が集い、幕府の提案を審議し、共同で未来を決める――それが翔馬の描いた「共治の国」の形だった。

メッセンジャーの役人たちには厳命した。

「権威を見せつけるな。見下すな。友として接しろ。」


翔馬は役人に片言のアイヌ語を教え、幕府のお触書をアイヌ語をカタカナ表記に直した文を持たせた。

文字を持たぬ民に、言葉で伝えるための工夫だった。

さらに翔馬が作った『アイヌ語日常会話集』と地図を携え、新たな中核地の選定も命じた。

大船団は半月かけてモシリを一周し、途中途中で役人を降ろし、翔馬は寒風の中で日々指示を飛ばした。

その間に、囚人を使って苫小牧に一大拠点を築いた。

例のツーバイフォー官舎を次々と立ち上げる。


松前の罪人を強制労働させ、新しい街のインフラを築く。

木材と石を積み上げ、白煙が立ち上る。

「ここをモシリの心臓とする。誰もが凍えぬよう、温かい血を各地に送るのだ。」


一方その頃、モシリの各村では、初めて訪れる“和人の役人”に人々は戸惑っていた。

多くの村ではまだ、松前藩がなくなったことすら知られていない。

「マツマエ? 殿様、どこ行った?」

「バクフって、何するカムイなんだ?」

役人が懸命にお触書を読み上げても、素直に意図が伝わらない。


役人たちは何度も聞き取り、辞書を引きながら、つたない言葉で説明した。

「これからは、あなたたちの村も話し合いに加わることができます」

「みんなで、モシリを一緒に作るのです」

伝わっているのかどうかも分からぬまま、役人たちは笑顔で頭を下げた。

この時間のかかる会話に、怒り出す者はいなかった。


むしろ、言葉は分からずとも、「話し合いたい」という気持ちは伝わっていた。

長老の一人が、焚き火の前で呟いた。

「和人が、話をしに来たのは初めてだな。」

その顔は、静かにほころんでいた。


だが、すべての村がそうではなかった。

ある村では、役人がいくら語っても、誰も返事をしなかった。

「カムイ(神)が決める。人はただ生きるだけだ。我々はカムイの思し召しに従うだけだ。」

長老はそう言って立ち去り、若者たちもこちらを振り返りつつも跡を追った。


自らの運命を、信仰に委ねる…それは、長年の支配の中で学ばされた“諦め”でもあった。

役人たちはその光景を前に、ただ立ち尽くした。


翔馬の理想の道のりが、いかに険しいかを思い知らされた瞬間だった。

二か月が過ぎ、空は灰色に沈み、雪が苫小牧の町を白く覆い始めた。

大船団が江戸へ戻るその日、翔馬は静かに空を見上げた。


「人はすぐには変わらんのはわかる。けれど、暖かい心を向け続けることが肝心なんじゃないかな。」

白い息が空に溶け、凍てつく空気の中で、翔馬の瞳は熱を帯びていた。


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