1708年 年末 国土改造計画進捗
江戸から大坂までを貫く「一級国道」は、幕府命令により全国で規格が統一されていた。
まずは江戸と大坂の間。それが終えると、各藩で局地的に行っている工事を繋げて、全国を縦貫する国道を作る。
道幅12メートル以上、両側に広い歩道を備え、路面は小田原タイルで舗装。耐荷重は十五トン以上。
建物の建築規制も歩道から4メートル以上と定められた。道路敷設による旧集落の取り壊しを避けるために、集落を避けつつも遠すぎない立地選考をするのには苦労をした。
この道路規格は、各藩の作事奉行や代官を通じて既に周知され、異を唱える余地はない。
もっとも、各地の現場では声が上がる。
「十二間幅も要りますかねえ? 大八車(手押し車)なら半分もあれば通れますのに」
「歩道まで敷くとは、何がしたいのか理解できん」
だが、その場にいる発明奉行・翔馬は揺るがない。
「目の前で動いているだろう、この怪物のような重機を。これを走らせるのに細い道ではどうにもならん。人を轢いたりでもしたら目も当てられないのは想像できないか?車と人の分離は必要だ。」
「道が広くなければ、仕事そのものができぬのだ。
そなたらはもう、新しい時代に片足を突っ込んでいるのだよ。先を見越して行動することの意味をまずは理解せよ。」
役人や職人たちは顔を見合わせ、やがて黙って頷いた。
ーー小田原タイル工場
工事の要は小田原タイルの供給であった。
翔馬の命で建てられた窯は増設を重ね、20棟を直列につなぎ、24時間稼働で炎を絶やさない。
車道用タイル一枚は30センチ角、厚さ15センチ。およそ32キロの重量がある。歩道は5センチ厚。
窯ひとつで一日に300枚前後が焼き上がる。20棟なら一日6000枚。月にすれば18万枚を越える。
さしあたって、江戸や大坂京都に近い場所にタイルが送られていく。道路を全部しきつめるのにはこのペースであれば30年はかかるだろう。更なる増産が必要になってくるのは明らかである。
現場責任者の庄吉に相談する。製造はどのような感じか?
「1日3交代制でやってますが、結構手一杯です。余力がもう少し欲しいところです。」
翔馬はニヤリと笑い…
「では、窯の数を倍にすると言えば?」
「ひぇー…今の倍ですかぁ。今のままなら死んじゃいます。でしたらあと100人は人員がいないと。」
「よし、庄吉、お前は現場よりも管理に徹底しろ。今より小田原タイル部の部長に任命する。俺があと200人は回すのは約束しよう。八平のおやっさんに頼んで窯の増設はしてもらうから、倒れぬよう、力加減をしながら仕事に当たれ。お前だけじゃなくて全員な。まずは体が第一だ。」
「部長?ってなんだ?… まぁ、200人いれば倍以上いけますぜ。翔馬さま…ありがとうございます。」
翔馬は肩をすくめて答える。
「お前はその二百名を率いる長ということだ。励めよ?」
庄吉は背筋を伸ばし、顔を引き締める。
ーー道と鉄道
鉄道も国道と並行して計画されている。
ただし今は道路優先で、鉄路は炭鉱や銅などの資源を中心に延伸しており、その他では越後のような広大な米どころなどに限られていた。
線路敷設のための盛り土や砕石は、国道工事と並行して準備される。
道路を整地し、出た土砂はそばの線路の盛り土として圧縮される。
これだけやっておけば、鉄の供給が追い付く頃には早めに開通できるだろう。
「翔馬様、これでは鉄道はまだ人を乗せられませぬな」
「まぁいい。道路が先であってもなんら問題はない。まずは物を運べることが重要だ。」
江戸から横浜、小田原へと伸びる国道はすでに半分が完成。
大坂から京都、近江へと延びる道も順調に進んでいた。
ーー難関のトンネル、橋梁
トンネルは避ける。人力で掘れないこともないのだが、時間と費用を浪費しすぎる。シールドマシーンがあれば着手する予定だが、現状では刃こぼれしない機械を作る技術をまだ持たない。箱根のような難所は、小田原からぐるっと迂回して通す形にした。
そして現状、最大の難関は橋である。
クレーン船を活用して囲いで支柱周囲の水をせき止め、川の底を掘り、鉄筋コンクリートで土台を固める作業は、序盤は発明奉行の監督のもと、幕府の機関に教育も兼ねて指導していた。
職人は腕利きの職人を雇い、技術を習得させると共に、橋梁鳶として専門職を育てる。信用できるまで技術を習得できるようになったなら、幕府に監督をお願いする流れだ。
クレーン船を用いた施工は発明奉行の管轄だった。
「おお、あんな大きな桁を一息に吊り上げるとは!」
「おお、寸分たがわずハマったぞ!」
作業を見守る大工衆は目を丸くする。翔馬は淡々と答える。
「この工事を人の手でやれば十年かかる。いや、この天竜川では人力では難しいかもな。だが、機械があればすぐだ。君らも早く技術を習得してくれ。橋梁鳶は名誉職だぞ。これから日本中の川に橋を作るぞ。」
クレーンに持ち上げられる橋桁を眺めながら、職人らはその言葉を受け入れた。




