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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
宝永地震と綱吉政権下

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特別救援活動任務

城をあとにした翔馬は、夜の江戸の街を抜け、一路土佐藩屋敷へと向かった。

エンジン音が聞こえるや否や、屋敷門前に藩主 山内やまのうち 宗義むねよし が飛び出してきた。


横には、乾勇作、そして数名の藩の重臣たち。燕尾の裾をはためかせながら、彼らは緊張の面持ちで車を見つめている。


車が停止すると、彼らはすぐに土佐の状況を尋ねてきた。

「土佐はどうなっているか?」


翔馬は車から降り、口を開く。

「分かりませぬ。土砂崩れや津波で道が何か所も寸断されております。早馬すら通れぬため、尾張以西からの報せが届かぬのが実情でございます」


沈痛な空気が屋敷の前庭を包んだ。藩主の顔に落胆が浮かび、重臣らも苦々しい表情を隠せない。

「……情報が入らぬとは、これほどとは思わなんだ」


翔馬は静かに視線を巡らせ、藩主と重臣たちを見据えた。


「藩主さま、将軍より特別救援活動の任を賜っております。今からでも土佐へ参りましょう。船路で進みます。急いで一日半で到着できます。共に行かれる方は、すぐご準備を」


藩主は一瞬ためらったが、乾が大きく「俺を連れて行ってくれ!」と反応するのを見て、決意を口にした。

「よかろう。我ら四人、同行させてもらおう。乾、準備せよ」


側近の文官ふたりも顔を引き締め、かすかに息を呑んだ。

「承知しました」


その足で車は未来館へ向かった。未来館に到着すると、焚火の灯りが闇の中に浮かんでいた。

翔馬は車を降り、叫んだ。


「救助団、整列せよ! 今から、土佐・紀州へ出航する!」

門の奥から、2隊合計120名の救助団員たちが整然と並び、順番で船に乗り込む。


翔馬は杖を叩き、号令を掛けた。

「一刻も早く出航する! 皆、最終確認を。命を救う仕事だ。忘れるな!」


こうして、暗い夜の帳を切り裂くように、翔馬率いる救援船団は海へ出る準備を始めた。


ーーー


出発から一日半。


海面がかすかに光を帯び始めた頃、船は土佐の玄関口、浦戸湾の入り口に差し掛かった。朝霧の向こうに見えたのは、瓦礫の山と化した沿岸の集落だった。


屋根のない家々、ひっくり返った舟、そして水路に引きずられた荷物の残骸。乾の顔が青ざめ、藩主の山内も息を飲んだ。


「これが…土佐か…むごすぎる」乾がつぶやく。

「想像以上の惨状だな…」翔馬も声を潜めた。

甲板に集まってきた他の衆も、一様に同じ反応であった。

家族を思い、泣き出す者もいた。


高知の玄関口の浦戸や種崎の集落は、津波の直撃でほぼ全壊。屋敷や倉、漁船は跡形もなく、土砂と海水の混じった泥に埋まっていた。人の声は、かすかに遠くで泣く子供の声と、行方不明の家族の名を呼ぶ声だけだった。


船が半壊した埠頭に着くと、翔馬は指示を出す。

「ブルドーザーで道を切り開く。城までのルートを確保するまで、救助班は徒歩でついてこい。助けを求められたらそれに応じよ。」


船の開閉扉が着岸し、打ち合わせ通りに皆は班分けの上、秩序よく上陸していく。

目前には、完全に破壊されて瓦礫で埋まった街。

沿道には、倒れた家の下に取り残された死体がちらほらと見える。泣き叫ぶ子供、結納品だったと思われる新しい家具、そして無惨に横たわる死体…まるで地獄の様相であった。藩主は拳を握り、乾は息を詰める。


翔馬は心を引き締め、手を差し伸べるために機械の指示を次々に出していった。

「まずは救助を最優先だ。負傷者を見つけ次第、ブルドーザーと台車で安全な場所まで運べ。」


救助団たちは、指示に従い瓦礫をかき分けながら進む。

手作業では進めない場所には、蒸気ブルドーザーが前へ進む。鉄の巨体が瓦礫を押しのけ、倒れた樹木を踏みつけるたび、乾はその威力に目を丸くした。


「蒸気機関…想像以上の力だ。」乾は機械に目が留まる。


藩主の山内が、壊滅して瓦礫だらけになった集落を見て、地面に座り込みぽつりと気弱に呟く。

「あぁ…どうすればいいんだ…」

「山内さま。できるだけのことをやりましょう。我々は無力ではありません。この力で、必ず生き残った人々を救えます。生きていればどうにかなる!」翔馬の声は力強く、揺るぎない確信に満ちていた。

勇気づけられた山内は、表情を変え、また強く一歩を踏みだす。


港町の全景が見渡せる高台までたどり着くと、種崎の集落は津波に呑まれ、海面と瓦礫の境目さえ判別できない。蒸気トラックが泥水に埋まった道路を踏みしめ、トラックに乗せた救援物資を次々に運ぶ。クレーン車は瓦礫に埋まった荷物を持ち上げ、台車に積み替えて移送する。

翔馬はその光景を、冷静に、しかし胸に深く刻み込んだ。


「ここで手をこまねいている場合じゃない。やれることに全力を尽くす!」

その瞬間、乾も心を決め、藩主も前に踏み出す。瓦礫の海の中、二人の影が、蒸気機械に導かれ、被災地支援の先頭に立つ姿があった。


ーーー


道をかき分けながら、ようやく高知城の門をくぐると、城を預かっていた役人たちが緊張した面持ちで迎える。藩主の山内は彼らに駆け寄って尋ねる。

「ようやく帰還できた。土佐の現況はどうなっておる?今どの程度まで把握できている?」

「被害状況は、わかる範囲でまとめてあります。書庫へどうぞ。」


城内に呼び入れられた翔馬たちは、城の書庫で記録と報告を確認する。

職員から説明を受けると、土佐の人口二十万のうち、海辺に住む約五万人が津波により甚大な被害を受けていること、沿岸部の集落はほぼ消滅し、家屋倒壊や土砂崩れで行方不明者も多数出ていることがわかった。

被害が分かっているのはこの高知の平野部だけであり、室戸や四万十のような地方は情報が届かないとのこと。


翔馬は資料を手に取り、冷静に頭の中で作業分担を整理する。

「まずは津波被災者の多い土佐沿岸部の高台に拠点を築く。生存者を拠点へ誘導し、炊き出しを行うと同時に、別班は家屋倒壊で埋もれた人々を捜索する。まだ生きている人がいるかもしれない。集まった人達には寝袋も配布し、露天であっても凍えぬよう配慮するように。」


乾が険しい顔で頷く。「わかった。まずは沿岸部だな。手の空いた城の者も同行する。まずは命を最優先に…だな?」


翔馬は続ける。

「役人は、俺たちの活動に手を貸してくれ。住民の誘導や情報集めには特に現地の人手が必要だ。

そして、船団はここが落ち着き次第、このまま室戸や安芸など、被害が想定される人の多い町を回る。元気な民に助力を求め、一緒に救出活動を行う。重機も最大限活用する。寝袋は、全被災者には渡るほどは持っていない。だから、家族二人でひとつを使用してもらうよう徹底してくれ。それでもとりあえず応急の救済にはなる。」


側近たちの表情にわずかに安堵が漂う。翔馬は、城内で整理した情報をもとに、救援作業の優先順位とルートを即座に決定した。


「よし、全員準備を整えろ。時間との勝負だ。」


城内には緊張感が漂い、だが一方で秩序立った指示により、救助班は着実に動き出す。翔馬、山内、乾の三人は、被災者を一刻も早く救うため、指揮を取りながら現場に向かうのであった。

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