表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
江戸、成り上がりの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/82

蒸気機関車 ーお披露目の章

それから翔馬は、複数の藩邸を巡って歩き、災害時には幕府への協力を惜しまぬよう要請して回った。やるべきことはひと通りやり終え、あとは宝永地震が訪れるその時を待つばかりである。だが、翔馬にはもう一つ心残りがあった。


 …蒸気機関車の試験運転の公開だ。


10月の災厄を前に、9月にはどうしてもお披露目を終えておきたかった。その後は多忙を極めるのは必至だからだ。

細かい調整は運用しながらになるが、一応実用に足るだけの調整した車両は、ゆくゆくは20世紀のものを凌ぐ性能のものを想定している。


名機「D51」をモチーフとして設計した。タービンは今回は諦め、クラシックな見た目のレシプロ機関に仕上げた。

流線形の見た目重視のものも設計はしたが、保守や点検の効率性を考慮すると、このような無骨な姿で結局落ち着く。「最初はこれで十二分だ…」そう自分に言い聞かせる。

むろん、細部の足回りや複雑な機構の仕上げまでは追いつかない。ベアリングの作成も、まだまだ初期段階だ。来年以降、じっくり詰めねばならぬ課題も多い。だが、ボイラーの性能は二十世紀のそれを凌ぐ自信があった。エンジンの性能だけで言えば、合金製で20気圧まで圧力を高められるこの機体であれば、D51のゆうに1.5倍もの馬力は出せる計算になっている。岡部が言ったように、今はただ「走り、止まる」。その二つができれば十分だが、なかなかの出来に仕上がったとの自負がある。


当日。大江戸未来館の正面庁舎には、将軍家をはじめ老中や各藩の重臣らが集まった。応接間を満たす人々の中には、かつて文官講習で翔馬を辛辣に問い詰めた薩摩の伊集院・長州の吉田、若き藩士、そして土佐の乾の姿もある。


将軍は庁舎の大広間をぐるりと見回し、感嘆の声を洩らした。

「しばらく見ぬ間に、建物だらけになっておるな。……ほう、たった二年半でこれほどのものを作り上げるとは」


翔馬は深く頭を下げ、柔らかく応じた。

「ええ、革新的な物を一つ産み出すためには、その周りに付随する無数の技術や施設も同時に発展させねばなりませぬ。これが我らが苦労するところにございますが、将軍様の潤沢なご支援あればこそ、どうにか回っております。日頃のご愛顧に心より感謝申し上げます」


薩摩の伊集院広重が、どこか愉快そうに笑った。

「もう一年も経つか……あの時言うちょった“機関車”っちゅうやつか。楽しみにしちょっど」


開会の辞を終え、翔馬は声を張った。

「本日はご多忙の中お集まりくださり、ありがとうございます。昨年来より皆様に告知しておりました通り…蒸気の力で走る“蒸気機関車”が完成いたしました。この場を借りて、実際にご覧いただきます」


拍手が広がる。

「まず、蒸気機関車とは何か。すでに講習を受けられた方は承知と思いますが、簡単に申せば、熱を動力に変える仕組みでございます。その力を媒介するのは水の状態変化。すなわち蒸気です。今回お見せする車両は試験線ゆえ全力は出せませぬが、最速で一刻で六十里(換算で時速120キロ)。馬二千頭分より多くの荷を曳く力を備えております」


会場にざわめきが広がった。

「線路さえ敷かれれば、日本中、行けぬところはなくなる。港を基点に鉄路を張り巡らせ、年貢の徴収を簡素にし、物流を強化する。それこそが幕府の思いにございます」


外に出ると、広場に黒々とした巨体の機関車が鎮座していた。まだ細部の仕上げは粗いものの、威容は圧倒的だった。


「触れると熱いですぞ」と言ったそばから、一人がボイラーに手を触れ「熱っ!」と飛び退いた。どっと笑いが起こり、場は和んだ。


翔馬が合図すると、機関車はゆるやかに後退し、空の台車へと近づいていった。自動連結器が「ガチャン」と音を立てると、見物人の目が丸くなる。


「いずれは荷台や客車を接続し、人も物も自在に運ぶことができます。今回は応急で手すりを付けただけの台車ですが、実用化までには、特急客車、一般客車なども製造する予定です。今回はゆるりと走りますので、興味のある方はぜひ」


「俺も!」「わしも!」と声が飛び交い、結局全員が乗り込んでしまった。五十人乗っても、機関車はびくともしない。


汽笛一声。白煙を上げて、車体はゆっくりと動き出した。敷地内に巡らせた試験線を一周するたび、乗客から歓声が上がる。やがて終点の埠頭に停まると、そこではブルドーザー、クレーン車、トラックが忙しく立ち働いていた。福岡から到着した第一号艦、博多丸が接岸しており、荷役が始まっている。


翔馬は見物人を一歩下がらせ、作業の様子を見せた。巨大なクレーンが船の荷台から石炭を積んだコンテナを吊り上げ、作業員の合図に合わせて台車の上へとぴたりと下ろし連結する。その見事な一連の動きに、人々は思わず息をのんだ。


「このように、船と機関車をつなげれば、物資は迅速かつ容易に運べます。いずれは国全体にこの流通網を広げたい。皆様のご協力を、心より願います」

拍手が嵐のように響き渡った。


ーーー


拍手と喝采に包まれたその場で、薩摩の伊集院広重が口火を切った。


「……なるほど、確かに馬二千頭分の力は大したもんじゃ。だがよ、線路を敷くには金も人も莫大にいる。そげん大工事を、果たしてどこの藩が呑めるかのう? 絵空事に終わらんことを祈るばかりじゃ」


すかさず長州の毛利元孝が続ける。

「それにの、蒸気とやらは水と火を使うのであろう? もし爆ぜたら一瞬で人馬百を失うわ。安全の理を示せぬままに幕府の物流を担うなど、危うきことこの上なしじゃ」


場の空気が少しざわつく。


将軍や老中らも視線を翔馬に向ける。

翔馬は一歩進み出て、毅然と声を張った。


「ご懸念はごもっともにございます。ですが、ご安心を」

声の調子をわずかに落とし、全員をぐるりと見渡した。


「鉄路の敷設は幕府と各藩が役割を分担して成し遂げます。また、安全については強靭な金属ニッケル配合の合金を用い、圧力に耐えうる設計を施しております。……ですが、口で申し上げるよりも、お見せしたほうが早いでしょう」


そう言って、見学一行を埠頭に停泊している博多丸に案内した。


「列車と船だけが主役ではありません。これらの働く車をご覧ください。」

傍らの広場では異形の車両がせわしなく動き回っている。

蒸気で駆動するブルドーザーが、轟音を立てて地面を押しならしていく。

トラックが荷台を高々と傾け、積み込まれた石炭をさらさらと降ろす。

そしてクレーン車が船の甲板から木箱を吊り上げ、するするとワイヤーを伸ばして、機関車の台車にぴたりと下ろす。


その一連の動きは、訓練された作業員の合図に従い、まるで舞のように滑らかだった。

重機の動くたび、蒸気の白い息が陽光に映え、観客の目を奪う。


伊集院が思わず唸る。

「お、おい……なんじゃこりゃ……馬どころか、人足千人分の働きじゃなかか?」


毛利も言葉を失い、吊り下げられた荷が正確に所定の位置に収まるのを目で追った。

「……なるほど、蒸気の力とは……ここまでか」


翔馬は静かに頷き、声を張り上げた。

「このように、蒸気の力を活用すれば、この車一台で百人以上の仕事をします。よって、工期も短縮され、必要な人足数も少なくて済む。よって、出費も、想定よりは少なく出ると計算しております。」

続ける…

「このように、蒸気は鉄路の上だけではなく、土を動かし、荷を運び、船と陸を繋ぎます。もしも国土を襲う大災害があろうとも、この力をもって復旧に当たることができる。これこそが、私が皆様にご覧いただきたかった未来の姿でございます!」


その言葉に、先ほどまで懐疑的だった藩士たちからも感嘆の声があがり、最後には大きな拍手が湧き起こった。


将軍も感慨深げに頷き、口元に笑みを浮かべる。

こうして蒸気機関車と重機のお披露目は、幕府と諸藩に強烈な衝撃を残したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ