閑話:ようやく子宝に恵まれる
「おお……わしの子か……!」
金之助は涙をこらえきれず、産湯に浸された赤子を抱きしめた。
鈴は汗で濡れた額を押さえながら、安堵の笑みを浮かべる。
「元気な男の子でよかった……」
「出っ歯じゃなくてわっしは嬉しいよ。大変だったな…鈴」
金之助は目を真っ赤にしている。きっと泣いたのだろう。
「あんたも馬鹿ね。まだ歯は生えてないわよ!アハハ…痛っ」
まだ鈴は産後痛の中にある。
その翌日、屋敷の中で小さな祝いの席を催した。翔馬は、ふたりから名づけを頼まれる。
「翔馬兄。もしよければ、この子に名をつけちゃくれんか?」
「私からもお願いいたしやす。翔馬さんの知恵を、どうか……」
翔馬は少し考え、にやりと笑った。
「今日は七夕だろう? なら、この日の風習を使って名を決めようじゃないか」
「風習……?」と皆が首をかしげると、翔馬は笹竹を運ばせ、細長い紙をいくつも切り出した。
「これは短冊という。願いを書いて笹に結ぶんだ。昔から人は、星に願いを託してきた。せっかくだ、この子の名に込めたい願いを、皆で書こう」
灯りの下、皆が筆を取り、思い思いに紙へと願いを綴る。
金之助は筆を走らせる。
「『強く、正直な男になれ』。わしの子だからな、これだけは外せん」
鈴は静かに微笑みながら書く。
「『人に寄り添い、優しさを忘れぬ子に』。この子が誰かを支えられるように」
門番の浜田勝之助は咳払いしつつ、真剣に力強く書き付ける。
「『志を貫ける者となれ』だな。世の荒波を渡るにはこれが要る」
浜田の妻の千代は母親らしい視点で。
「『健やかに育ち、丈夫で長生きできるように』…」
番頭の藤川勘兵衛は腕を組み、渋い顔をしながらも書く。
「学を修め、知を広める者となれ。……まあ、願うくらいはよかろう」
最後に翔馬が短冊に記す。
「…『未来を切り拓く力を持て』。この国を変えるのは、次の世代だ」
ーーー
笹に吊された短冊は、夏の夜風に揺れ、さらさらと音を立てる。
翔馬はしばらく眺め、皆に振り返った。
「見ろ。ここにあるのは一人ひとりの願いだ。強さ、優しさ、学び、未来。これらを一文字に託せば…」
金之助が身を乗り出す。
「おお、ではどの字がよいと思うか?」
「そうだな……『真』はどうだ?」翔馬は提案した。
「真実を見極める目、正直で揺るがぬ心。皆の願いをまとめるなら、この字がふさわしいんじゃないかな。」
「真……」鈴がその音を口に転がし、柔らかく微笑む。
腕の赤子が鈴を見つめる。まるでそれがいいと言うように。
「まこと。確かに、強くも優しくもあって、嘘のない子に育ってほしい……」
金之助が腕を組んでうなずく。
「うむ、いい字だ。志を通すにも、まずは真でなければならんからな。」
念願の、俺の先祖?が生まれた。




