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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
江戸、成り上がりの章

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震災への根回し

10月4日の宝永地震の期日が近づくにつれ、翔馬は己の焦燥を紛らわすように、次々と新たな機械を世に送り出していた。


ニッケルを配合した鋼材によって、従来の蒸気機関よりも小型で高出力のエンジンを実現し、その筐体を共通とする車体を基盤に、ブルドーザー、トラック、クレーン車を設計。

そのうち、バスやロードローラー、ダンプなどの業務用途車両に派生させるのを視野にいれている。


いずれも土木工事や鉱山や炭坑での運搬・採掘作業を目的としたものだったが、その機能は災害復旧にも流用できることは明らかであった。共通プラットフォームを採用しているため、大量生産も可能。すでに3台ワンセットとして10組が完成し、未来館の構内で試験運用が行われていた。


さらに、食料の備蓄も着々と進んでいた。缶詰は前述の通り、日々倉庫を満たしつつある。


加えて、整然と倉庫に積み上げられたツーバイフォー長屋。非常時には避難民の仮住まいとして機能するよう、一棟ずつパッケージングされ、現地にて組み立て可能な形で準備されていた。

その数、すでに五十棟分。倉庫二棟を埋め尽くすほどの量である。

そもそもが、俺が住居を重視したのは、やってくる地震に備えるためだと言っても過言はない。


「この住宅のやつ、そろそろはかさないと倉庫が満になりますぜ」

職人が不安げに漏らした声に、翔馬は即座に答えた。


「心配ない。必ず必要になるから。とにかくこの倉庫をすべて満たせ。」


越後屋と二年前に相談していた防寒用の寝袋も、すでに三万個を突破。これもまた倉庫一棟を専有していた。


ーーー


翔馬はできうる限りの準備を進めていた。だが、なお残る課題は…『政治』である。


当時の慣習として、各藩で起きた災害は藩自身が処理すべきものとされていた。幕府が進んで手を貸すことは稀であり、藩の側から援助を請えば、それは即ち「無能の烙印」と受け取られかねなかった。


翔馬にとって、最も厄介なのはこの制度そのものだった。同じ日本の国土でありながら、藩を跨ぐために逐一伺いを立てねばならぬ。これでは、彼が目指す「国」とはほど遠い。


ある日の御目通り、翔馬は思い切って将軍綱吉に進言した。


「仮に藩で対処できぬほどの大災害や飢饉が起きたとき、藩から幕府へ助力を願い出るのは難しゅうございます。ならば、幕府の側から働きかける仕組みが必要ではございませんか」


綱吉は鋭い眼光で翔馬を見据えた。

「数年前の元禄地震でも、被害を受けた小田原や安房などの藩は自力で復興しておるではないか。藩が幕府を頼るなど、甘えに過ぎぬ。わしはそのような考えは好かぬ。」


「いいえ、殿。藩を跨ぐほどの規模の災害が起きぬ保証はございませぬ。実際、近年各地で異変が続いておりますし…街では今年10月4日に、」


「ええい!」綱吉は言葉を遮った。

「お主もそのような噂めいたものを信じておるのか! そのような占いに振り回されるようでは、国の舵取りなど務まらぬわ!」


強い口調で一蹴された翔馬だったが、頭を下げてこう付け加えた。


「ごもっともにございます。私も噂を信じるわけではありませぬ。ただし、もしもの時に幕府がどう動くべきかを考える、良き機会かと存じます。」


「お主に指摘されるまでもなくわかっておるわ!」


それ以上は議論も深まらず、その日の謁見は終わった。


ーーー


帰途、翔馬は土佐藩邸を訪ねた。


史実では、土佐(高知県)は、宝永地震で十数メートルの津波に飲まれ、平地集落のほとんが壊滅してしまった土地だ。

被害でいえば、一番酷い場所だったかもしれない。


未来館の文官教育の場で知り合った土佐藩士 いぬい 勇作ゆうさくを呼び出す。

かつては翔馬の施策に批判的だった彼も、送られた農機具の効果を目の当たりにし、態度は一変していた。農村では収穫が増え、農民が余暇で野菜を育てるほどになったと、感謝を述べる。


やがて話題は噂される地震に及ぶ。翔馬は真剣な眼差しで問いかけた。


「仮に起きたとしたら、土佐は津波で壊滅的な被害を受ける。その時、土佐はどうする?」


源吾は苦笑しつつ答える。

「そんな噂、信じとうはないが……もしも起きたら、そりゃ死に物狂いで復興するしかなかろうな。」


「藩の力だけで?」


「ああ、当然そうだろう。」


翔馬は一歩詰め寄り、低い声で告げた。

「もしも藩の力で対処できぬほどの大災害ならば、恥も外聞も捨てて幕府に頼ってくれ。俺も将軍には提言した。無下にはしないと思うのだが……仮に将軍が却下したとしても、俺を頼れ。俺は命を懸けてでも、この国を救うつもりだ。」


その言葉に、源吾は一瞬言葉を失い、やがて苦笑混じりに応じた。

「……噂一つにそこまでの覚悟を抱くとは、正直引くぜよ。だが、頼りにはさせてもらう。おまんも変わり者だな。そういう熱いところ嫌いじゃないぜ。」


翔馬は肩を叩き、静かに言った。

「お前も、上に掛け合える時があれば、この話を出してくれ。もしもの時の対応は、その場で決めるよりも事前に打ち合わせしていた方がいい。仮に何も起こらないとしてもだ。」

「……あぁ、わかった。」


夜風が江戸の屋敷町を吹き抜ける。

翔馬の心は重かったが、それでも備えを進めるしかなかった。


ーーー


徳川家宣の甲府藩邸


次期将軍ということで、時折意見交換を続けてきた家宣。

震災間近というわけで、最後の挨拶にうかがった。

甲府も富士山噴火で被害を被るが、風上に当たるために被害は最小限で済んだ経緯がある。

それでもいくつかの集落は灰に埋もれた。


「家宣さま。いよいよでございます。甲府藩への助太刀をしたいところですが、甲府までの道が険しく、重機を運び入れる状況ではございません。せめて、私どもが作っている缶詰飯なる、腐らない、温めるだけでいつでもどこでも食べられるものをお渡しします。恐らく、数千人もの避難民が発生するでしょう。災害用保存食として活用してください。それと、寝袋なる布団も。家族二人で暖がとれる布団です。これで避難生活中でも暖がとれます。」


家宣

「常々噂は聞いておる。息災のようで何よりじゃ。噴火の件はなるようにしかならん。自然の中では人の力など微々たるものだ。わしにできるのは、民衆に非常時の避難所の呼びかけを事前にするくらいじゃ。救援物資はありがたく戴く。お主はこれから忙しくなるぞ。わしらよりも、困っている人達を助けてやってくれ。」


「ありがたきお言葉…」





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